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覚悟のフル出場だったG大阪FW宇佐美貴史「60分くらいから『残してくれ』と…」攻守に“マリノス対策”完遂

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ガンバ大阪FW宇佐美貴史

[10.8 J1第32節 横浜FM 0-2 G大阪 日産ス]

 右足アキレス腱断裂の大怪我から帰ってきたガンバ大阪FW宇佐美貴史が、復帰後初のフル出場を果たした。2トップの一角で攻守の最先鋒を担い、セットプレーのキッカーとして2ゴールを演出。J1残留争いの渦中に巻き込まれたチームにおいて、あらためて欠かせない存在感を示してみせた。

 シュート数では6対22。ボール支配率もほぼ30%対70%と劣勢を強いられたG大阪だったが、スコアでは2-0の完勝を収めた。自陣深くに守備ブロックを敷いて横浜FMの攻撃を耐え抜き、宇佐美とFWパトリックの2トップを起点に攻撃を前進。「分析でしっかりと自分たちにも落とし込まれていたし、キッカーとしてあそこに蹴るのは狙っていたとおり」(宇佐美)というセットプレーで得点も奪い、割り切ったゲームプランを完遂した。

 日産スタジアムでの横浜FM戦は3年連続での勝利。“マリノス対策”のプランは明確だった。

「マリノスが良いサッカーをするチームなのはわかっていた。自分たちが弱者のサッカーに徹することは、(残留争いという)状況も含めて割り切ることができた。マリノスの映像を見ていても、(自分たちが)ボールを持てるとは到底思えなかったし、シュート数や支配率で上回れるとは思わなかった。そこでは負けるだろうなと思っていた。粘り強くセットプレーやカウンター1発、2発で取れればと思っていた」

 本来であれば攻撃的なサッカーを志向したいG大阪にとって、“弱者のサッカー”を受け入れるのは簡単ではない。しかし、首位を独走する横浜FMに対し、G大阪は試合前時点でJ2自動降格圏の17位。過去の対戦を踏まえても、そうした戦い方を選択するのは必然だった。

「理想だけ掲げてやっていける状況ではない。J1に残らないといけない状況の中、相手のほうがクオリティが高いことをしっかり認めないといけない状況だし、相手より走るとか、相手より守備を全員でやっていかないと勝ち点は拾っていけないと思う。それは全員もうわかり切っている」

「まずJ1に残していかないといけないし、J1残した上で、マリノスがやっていたようなサッカーを自分たちもしていかないといけない。上位にいるチームはボールも持てるし、攻撃の中で違いを作り出せる。いまは下位にいるサッカーになっていて、マリノスがやっているサッカー、フロンターレがやっているサッカーがお手本ではあるけど、まだそこにトライできるような状況ではない」

 そうした現状認識があるからこそ、守備のオーガナイズも割り切っていた。

「CBにはそんなにプレスに行かなくていいと思っていた。縦に間伸びすることだけしなければ、ああやってしっかり守れる自信があった。今までマリノスと対戦してきて、特にここではそうやってしっかり勝っているので。勝ってきた印象では縦に伸び縮みしないことと、ギャップをつくらないことだよねという意見交換は選手全員でできていた。CBには持たせてもいいので、相手がやりたいこと、縦に速いことだけはさせないようにという意識を持って全体でやれたと思う」

 まさに想定どおりのサッカーを表現し、理想どおりの試合展開に持ち込んだ。

 その中心を担った宇佐美はこの日、大怪我からの復帰から2試合目にもかかわらず、90分間ピッチに立ち続けた。試合前時点では途中交代が既定路線だったようだが、コーチングスタッフに志願してのフル出場だったという。

「内容で代えられるぶんにはいいけど、体力的に疲れていると思って代えられるのは嫌だったので、60分くらいから『残してくれ』とベンチに伝えていた。そこでまだまだ全然できることもあると思ったし、試合をしていて自分が抜けてからのチームのイメージも、悪いイメージがあった。自分が前にいて、収めてタメをつくってというのが一つポイントになると思っていた。そこはマツさん(松田浩監督)にも『体力は大丈夫なので、その面では代えないで下さい』と伝えていた」

 3月6日のJ1第3節・川崎F戦で右足アキレス腱断裂の重傷を負い、7か月間にわたって戦線を離脱していた宇佐美。前節柏戦で先発出場を果たし、73分間プレーしていたが、試合後には「リバウンドもすごくあった」。患部への影響に加えて、ゲーム体力も回復途上。「7か月遠ざかっていた分、試合が終わった後の反動はすごくある」というのは自身も認めるところだ。

 それでもチームが危機に瀕している中、ピッチを離れるわけにはいかなかった。「ケアもしながら、自分の身体をしっかりマネジメントしながら騙し騙しやらないといけないこともあるけど、そんなことを言っている状況じゃない」。その覚悟はプレーで表現。前半早々に先制点を奪いながらも終盤まで安心できない展開となった中、終盤のセットプレーでは追加点を演出し、ピッチに立ち続けた意義を証明してみせた。

 首位から奪った勝ち点3により、チームは自動降格圏を脱出し、プレーオフ圏内16位に浮上。天皇杯決勝、ルヴァン杯決勝が行われる影響で次節まで3週間のインターバルがある中、最高の形で中断期間を迎えることになった。

「ここで負けて入るのか、勝っていい空気で入るのかは過ごし方も変わってくるし、頭の重さという意味でも、頭がどんどん軽くなって中断に入れる。あとはしっかりいいオフを過ごして、いいトレーニングをして、ジュビロ戦に向けて自信を持ってやっていくことだけ。その次の鹿島は考えない。とにかくホームでジュビロに勝つことだけを考えてやる。いい流れを今日勝って作れてよかった」

 次節は最下位に沈んでいるジュビロ磐田が相手。G大阪が生き残るためには必ず勝たなければならない一戦だが、力の差が明確だった横浜FM戦とはまた違う試合展開が想定される。

「ベースはしっかり守る時はこれくらいの強度でいい。あとはもっとボールをもっと持つことと、もっと相手のコートでプレーすること。シュートチャンスやセットプレーもどんどん増やしていかないといけない。今日のサッカーをどの試合でもベースにするのはちょっと違うと思う。今日はいまの状況と対マリノスということでやり切ることができたけど、攻撃に出られる時間が多くなる時に、そこも課題になる。オフ明けにしっかり積み上げていきたい」

 目指すは横浜FM戦で見せた堅守を維持しながら、対磐田仕様の得点パターンの構築。宇佐美は「あと二つ頑張ってチームをJ1に残せれば、不本意ではあるけど、現状の目標は達成できるので、来季につなげていくためにもあと二つは死ぬ気で頑張っていきたい」と決意を示した。

(取材・文 竹内達也)
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