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「60クラブでできたら日本はすごく元気になる」中村憲剛、石川直宏、入江遥斗が見つめるシャレン!の価値

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中村憲剛氏、入江遥斗氏、石川直宏氏(写真左から)

 日本プロサッカーリーグは15日、Jリーグ各クラブの社会連携活動を称える「シャレン!アウォーズ」を開催し、6クラブが各賞を受賞した。今年で4回目を数える表彰式だが、今回はコロナ禍が明けて初のオフライン式典。授賞式後にはトークセッションも行われ、シャレン!の発起人と言える元日本代表の中村憲剛氏、石川直宏氏、一般社団法人アクトポートの入江遥斗氏が鼎談した。

 Jリーグのシャレン!(社会連携)活動は2016年、川崎フロンターレの選手だった中村氏が当時の村井満チェアマンに対し、Jリーグ全体での地域活動について問題提起したのがきっかけで始まった。その後、米田惠美理事(当時)を中心にクラブ・地域・企業が協働するという形で概念化。20年からは各クラブの優れた取り組みを称える「シャレン!アウォーズ」がスタートした。

 トークセッションで中村氏は「本当に多くのクラブ、選手、地域の皆さんが自分の地域課題の解決のために多くの活動をしてくださっている。僕は言い出しっぺなだけで、各地域の皆さんが地域のみんなの笑顔、関わり、繋がりを作るために活動してくださって嬉しい」と感慨を口にし、「シャレン!アウォーズというものを実施できるというのは考えていなかったけど、Jリーグのスタッフもそうだし、多くの皆さんあってのことだなと思う。あらためて感謝したい」と話した。

 長年FC東京でプレーした石川氏は現役引退後、クラブリレーションズオフィサーとしてシャレン!活動に大きく関わってきた。2020年の第1回シャレン!アウォーズでは少年院の院生たちの社会復帰活動を支える取り組みが評価され、ソーシャルチャレンジャー賞を受賞していたが、石川氏もサッカー教室や職場体験で院生との交流を行ってきた。

 そうした地域の社会課題に合わせた活動を全国のJクラブが行っているのがシャレン活動。石川氏は「Jリーグ60クラブは地域によっていろんな課題感があると思うけど、そこに向き合って取り組むことによって社会の色、チームの色が出ている。各チームのいろんな素敵なアイデア、アクションが自分たちの刺激になっている。そうした中で高め合っていけることが素敵だなと思う」と各クラブの切磋琢磨に手応えを感じているようだ。

 またトークセッションには横浜国立大の4年生で、環境問題の啓発活動などを行う『一般社団法人アクトポート』代表を務める入江氏も参加。サッカー界の外部から見たシャレンの価値を見つめ、「学校で出張授業をする時にただSDGsといっても反応が良くなく、急に国際的・地球規模の目標を言われても実践するのが難しいけど、Jリーグの名前が出てくると食いつきが違うんじゃないかと思う」と可能性を語った。

 さらに入江氏は各クラブのシャレン活動について「この5年間でも活動の範囲も、絶対的な数も、対処したいと考えている社会課題もどんどん広がっている。活動が多角化していっている」と進歩を指摘。「全国のいろんなところで活動が行われているのをあらためて体感できたし、地域の皆さんによって行われていることがコミュニケーションにつながっていることがとても素敵だと思う」とポジティブに語った。

 入江氏はかつて実家が新居を建築する際、建築資材と同じ量の植林を行うというハウスメーカーの試みに接し、環境問題への関心を強めたという。そんな姿に中村氏と石川氏は「感度が高い」と口を揃える。もっとも、石川氏は入江氏のような目線をクラブに関わる子どもたちにも伝えたいという。

「感度は育った環境で変わると思うけど、どう感度を磨いて欲しいかというところはある。例えばサッカーの戦術とかスキルを普及・育成年代から伝えることは大事だけど、僕はこれからのサッカー選手の伸び代はそのベースとなる人間力、感度だなと。パッと見た時にゴミが落ちていて、見えないものとして気づかないふりをするか、ちょっと拾って捨てるかというのも全然違うし、そこはピッチの上の問題意識をどう捉えられるかにも関わってくると思う。僕は感度を磨くための場所が社会連携、地域連携だと思っているので、育成年代、普及年代でもどんどん一緒になって取り組んでいきたいと思います」(石川氏)

 シャレンでの経験がサッカーにも生きていく——。そんなビジョンを掲げる石川氏に中村氏も共感していた。

「育成年代の選手たちでもこういう活動があるということ、クラブがやっていることを知ることが大事だと思う。これだけシャレンの幅が広がっているのも、皆さんが知ってくれているからだと思う。すると自分だったらこうできる、この人とだったらこうやってみようとか、つながりができてくる。つながりが一つできれば無数に広がっていく。これからどんどん幅が広がって、その地域の課題解決に向けて、みんなで手を繋いでやっていけると思う」(中村)

 石川氏、中村氏の展望を聞きながら、入江氏もJリーグのシャレン活動に関わっていくモチベーションを昂らせていた。

「ソーシャルアクションにおいてはコミュニケーションがとても大切だと思っているんですが、いまの大学生、高校生、中学生、小学生は『社会課題』と言われたらあまり興味がなくても、『Jリーグのシャレン!というのがあるよ』と言えば、興味・関心もアクションも軽やかになっていくと思う。そういう軽やかさを引き出していけたらなと思います。10年後、20年後は僕たちがシャレンを背負って行かないといけないと思うので、そういう意味での土壌づくりを早い段階でできたらと思っているし、一緒にできたらと思っています」

 トークセッションの最後には、石川氏が各クラブにいるさまざまなスタッフにも選手たちを巻き込んでくれるよう協力を呼びかけた。

「自分がいまクラブのビジネスサイドの人間として思うのは、現場と会社の間のハードルが非常に高いということです。これはどのクラブも感じていることだと思う。実際に自分の立場が変わって、現場との距離感、選手に働きかける声、ましてやアクションを起こす時にいろんなハードルがあるなと。ただそれは非常にわかるんですが、でも選手たち一人一人と実際に話すと、いろんな思いを持っているんですよね。サッカーだけじゃなく地域、ファン・サポーターに還元したいという思いを。それを同じクラブで働く人間として引き出してあげる、実はこういうことできるんだよと選択肢を増やすようなコミュニケーションを図っていただきたいなと思います。実際にそれをやっているクラブもあるし、それができる関係性もあると思う。そういうのが増えていくと、いろんな問題になっているセカンドキャリアへの熱量も現役時代から高まると思うし、こういうことをしたいという思いやアクションがピッチ内での価値も変えてくると思います」

 続けて石川氏は「僕は憲剛さんにも言いたいんですが、憲剛さんはS級ライセンスにチャレンジされているじゃないですか」と切り出した。

「僕がいまなんでこの立場にいるかというと、サッカーでの指導ということではなく、地域や社会連携の中で感度を高めた選手を現場に送り込みたいんですよ。そうすると憲剛さんのような指導者が言ったことに対して、いろんな角度から物事を判断して、ピッチでやろうとする姿勢が生まれる選手も増えると思います。だからそういう選手を現場に送って、さらに感度を高めてもらって、たくさんの素敵な選手たちを増やしていきたい。これは両輪だと思うので、僕は憲剛さんにも託しながら今後やっていきたいなと思います」(石川氏)

 一人のスタッフとしてクラブの活動領域を広げ、クラブに関わる子どもたちを育て、その選手たちがピッチで大きく飛躍していく。石川氏はシャレン!にそうした可能性を見出しているようだ。続けて中村氏もシャレン!の未来を展望しつつ、今後の活動への熱意を語った。

「あの日の村井さんとの対話からこういう形で本当に多くの方たちに知ってもらって、つながって、いろんな活動をJリーグ、Jクラブ、選手、地域の皆さんでやってきて、胸が熱い思いなんです。今日もこういう形で若い入江さんだったり、石川さんだったり、クラブの方と繋がることができた。それも『全ては日本を元気にするため』とずっと現役の時から思ってやってきました。子供たちに夢と勇気と元気と、ご年配の方たちにもサッカーを見て盛り上がってもらったり、元気を出してもらったり、選手はピッチの上だけでなくピッチ外でもそういう活動ができるということを体感しながら駆け抜けてきました。

 引退した今でも現役選手のパワーはすごいなと思う。だからこの力を使わない手はないなと。前に『Jリーグを使おう』というキャッチフレーズがあったけど、それは今も続いていることだと思う。Jリーグは10クラブから60クラブになって、全国をほとんどカバーするようになってきて、クラブは一つひとつ地域に根ざして、地域課題に取り組んで、みんなで地域が盛り上がる。それを60クラブでできたら日本はすごく元気になるんじゃないかなって。シャレン!は5年でここまでいろんな方々のおかげで来ていると思うので、ここからいろんな方々とみんなでつながって、そこでJリーグがみんなでやっていく“器(ウツワ)”になりながら、ここからまた10年、20年、30年続く中で、シャレン!アウォーズがもっといろんな方に認知されて、みんながそこを目指すような形になっていけたら、たぶん日本は幸せになっているんじゃないかと思う。そうやってサッカーとかスポーツで日本を元気にしていきたいなと思います」

(取材・文 竹内達也)
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