beacon

浦和FWカンテの頭突き退場に特例的VAR運用…JFA審判委が明かした“中断10分半”の舞台裏

このエントリーをはてなブックマークに追加

浦和レッズ対ガンバ大阪での集団的対立

 日本サッカー協会(JFA)審判委員会が27日、東京都内でメディアブリーフィングを行い、第28節のガンバ大阪浦和レッズ戦で起きた集団的対立において、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の特例的な運用法が取られていたことを明らかにした。荒木友輔主審はカードを出さずにモニター確認を行い、正確な情報を得てから3枚のカードを提示していたが、ピッチ上での混乱を防ぐためには適切な手続きだったという。

 今月24日に行われたG大阪対浦和戦では後半4分、ボールを競り合った浦和FWホセ・カンテがMF黒川圭介を引き倒したことを発端に集団的対立が発生。両チームの選手たちが入り乱れ、一触即発ムードとなった。結果的には映像確認で10分半中断し、相手選手に頭突きしたホセ・カンテにレッドカード、対立に絡んだG大阪の黒川とFW宇佐美貴史にイエローカードが出される形で決着した。

 荒木主審はこの判定を行うにあたり、自身の目視のみカードを提示するのではなく、VARからの介入を受けてピッチ脇のモニターでオンフィールドレビューを実施し、映像で状況を確認した後、3人にカードを提示していた。VARの介入時は通常、主審が対象選手にカードを提示した後、映像確認を行い、正しい判定に修正するという手続きを取るのが大原則。しかし今回、荒木主審はカード対象の行為があったことを認識していたが、あえてカードを出さないまま映像確認に移っていた。

 もっともこの特例的なVAR運用だが、集団的対立の判定においては正しい手続きだったという。

 JFA審判マネジャーJリーグ担当統括の東城穣氏によると、VAR介入時には「主審が何も判断しないのはダメ」という大前提があるが、複数の選手が入り乱れる集合的対立で映像確認をする場合には、あえてカードを出さないのが望ましいとのこと。「いろいろなカードが出る可能性があり、(映像確認後に)キャンセルしたり、別の選手に出したりすると余計に混乱を招いてしまうため」(東城氏)の措置だ。

 一方、その場合は主審が映像確認前にVARと話し、現時点での判定を申告しておくのがルール。そうすることで、主審がピッチ上での判定を行うという大原則が守られる。

 JFA審判委員会はこの日、報道陣に対して事象発生時の審判団による交信音声を公開しつつ、集団的対立が発生した際の判定手順を説明。集団的対立では①カードの対象となり得る行為の発生時、②ピッチ上での判定決断、③オンフィールドレビューによる判定という3つのフェーズに分け、手続きを進めることを明かした。

①カードの対象となり得る行為の発生時
 ピッチ上で集団的対立が起きた場合、主審は選手のところに割って入るのではなく、状況を冷静に捉えるため、やや離れたところで状況が落ち着くのを待つ必要がある。この場面でも、主審とVARとの対話の中で「ちょっと収まってから」という言葉が聞かれており、正しい対応がなされていた。

 欧州や南米などでは主審が毅然とした姿勢で集団的対立に割って入り、力技で制するような光景もたびたび見られる。だが、これはリスクも伴う行為。扇谷健司審判委員長は「1対1なら良いが、選手が多くなるとリスクがある。足を踏まれたりすることもあるし、背後で何かが起きたり、ぶつかってしまったりすることもある」と述べ、原則的には距離を取って対応することが望ましいという見解を示した。

②ピッチ上での判定決断
 JFA審判委員会が公開した音声によると、荒木主審は当初、2人の副審と協議した結果、カンテと宇佐美、さらに黒川ではなく対立に関わったG大阪のMFダワンの計3人にそれぞれイエローカードを出そうとしていた。また上述したVARの大原則である主審としての判定を下すべく、この内容をVARに伝達した。

 だが、そこでVARが介入。カンテが頭突きをした場面が公式映像に映し出されており、レッドカードの疑いがあると判断されたためだ。

 集団的対立の場合、VARはすでに確認されていた当該シーンだけでなく、対立の開始から終結までくまなくチェックするのが原則。東城氏は「見えないところでレッドカードに値する行為が行われているかもしれないので、ある程度、時間をかけてやらないといけない」と説明する。

③オンフィールドレビューによる判定
 続けて、主審がピッチ脇モニターでオンフィールドレビューを実施し、VARチェック時に使われた見やすい映像をもとに事象の全体像を確認する。その結果、荒木主審はホセ・カンテにレッドカード、対立の引き金を引いた黒川と宇佐美にイエローカードを出し、当初カードが出されそうになっていたダワンは懲戒罰なしという最終判定に至った。

 もし荒木主審がオンフィールド前に当初の判定どおりにカードを出していた場合、宇佐美のイエローカードのみ変更はないが、新たにカンテのイエローカードを取り消した上でレッドカードに変更し、ダワンのイエローカードを取り消した上で、さらに黒川にイエローカードを提示するという手続きが必要になる。

 こうなればピッチ上だけでなく、ベンチやサポーターの混乱は避けられない。最初のファウルからプレー再開まで約10分半を要する異例のVARレビューとなったが、判定に至る手続きとしては適切なものだったようだ。

(取材・文 竹内達也)
★日程や順位表、得点ランキングをチェック!!
●2023シーズンJリーグ特集ページ
竹内達也
Text by 竹内達也

TOP