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ルヴァン杯MVPの福岡MF前寛之「素晴らしいストーリー」J2水戸で出会って6年目、長谷部監督と悲願の戴冠

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アビスパ福岡MF前寛之

[11.4 ルヴァン杯決勝 福岡 2-1 浦和 国立]

 アビスパ福岡にクラブ史上初のタイトルをもたらしたのは、3年前に指揮官とともにやってきた頼れる副キャプテンだった。ルヴァン杯決勝という大舞台で本職外のシャドー起用を請け負い、前半5分には自らが起点となった攻撃から先制ゴールを記録。その後も攻守に幅広い存在感を見せ続け、大会MVPのタイトルも掴み取った。

 このルヴァン杯決勝は福岡にとって、Jリーグ参入28年目で史上初めてとなるカップファイナル。2020年の加入当初から3年間キャプテンを務め、加入初年度のJ1昇格から福岡の躍進を支えてきたMF前寛之は、本職のボランチから1列前に上がった左シャドーのポジションで大一番を迎えた。

 この一戦に向けたトレーニングでは「あるかもしれない」と伝えられたのみだったが、準備はしっかりと重ねてきた。「チームの役割では守備のファーストプレス、どこを守らないといけないか、チームがスムーズに行くような立ち位置や、最終局面のところをコーチと整理した上で試合に入れた」。その成果は最初のビッグチャンスで結実した。

 0-0で迎えた前半5分、相手ゴールキックをDF奈良竜樹が跳ね返し、これをFW山岸祐也が収めると、前はすかさずサポートのポジションをキープ。素早く右サイドに展開し、突破力が自慢のMF紺野和也につないだ。

「シャドーに入るにあたって、自分は裏に抜けることや競り合いでは勝てないと思っていた。トップに祐也くんがいるので、祐也くんの近くでボールを受ける、その中で展開していくというところは意識して入っていた」

 右サイドを切り裂いた紺野が縦への突破でDF荻原拓也を抜き去ると、前はすかさずスプリントでゴール前へ。「紺ちゃんからのカットインと、縦に行ってからのクロスが頭の中にあったのでうまく反応して入れた」。紺野からの配球は利き足の左足ではなく、相手の意表を突く右足のクロスだったが、「競り合いじゃ勝てないので、ああいうグラウンダーで入っていくのがチャンスだなと思っていた」と狙いどおりに合わせ、先制点を奪った。

 またその後のパフォーマンスも圧巻だった。特に際立っていたのはシャドーからの守備での存在感。浦和は右CBのアレクサンダー・ショルツからの配球、右SBの酒井宏樹の突破力を武器としているが、前は的確なポジショニングと素早い寄せで攻撃の起点を次々と逆サイドに追いやった。

「組み立てが上手い選手たちで、行けば外に外されるし、行けなければ運ばれたり中へのパスもあるので、バランスを見ながら守備をしないといけないと思っていた。ある程度はやられるのも分かっていたけど、運動量でカバーしようと思っていた。うまく守れたのかなと思う」と手応えを語った。

 さらにこの日の前は、後半開始時から一時ボランチに戻るも、紺野の負傷交代を機に再びシャドーに回り、柔軟な役割で終盤の逃げ切りを支えていた。J2水戸時代の2018年から6年目、長い付き合いとなった長谷部茂利監督からの信頼の配役を見事にこなし、福岡に悲願の初タイトルをもたらした。

「クラブの歴史にとっても0から1にステップアップできたと思うし、僕自身もシゲさんとの関係が6年目。当時はタイトルというものがものすごく縁遠かったものだったけど、着々とステップを踏んでここまで来られた。こういう決勝の舞台でカップを掲げられたことがすごく嬉しい」

 ルヴァン杯優勝は前にとっても初タイトルとなった。アカデミーを経てトップチームに昇格した札幌では2017年、J1昇格に伴って出場機会が激減し、水戸への武者修行で再起を図った過去を持つ。それでもプロ10年目、かつて苦しんだJ1の舞台でカップを掲げるまでに成長した。

「自分の中で素晴らしいストーリーだと思う。札幌からプロキャリアを始めて、J1の舞台でやるのもなかなか時間がかかったし、J1の舞台で結果を残すのも苦労していたところがあるので、カップ戦という大会だけど一つタイトルを取れたのは自分自身のキャリアもそうだし、クラブにとっても、監督にとってもすごくいいことだと思う」

 そんな28歳の姿には長谷部監督も「いい選手だし、私が考えていることをほぼすべてほとんど分かってくれている。戦術的なところもそうだし、私がどういうふうに感じているかも分かっていると思う。試合に出ている選手にも出ていない選手にもいい影響を与え、間に入ってアドバイスもしてくれている」と全幅の信頼を隠さない。まさに二人三脚で掴んだ優勝とMVPのタイトルだった。

(取材・文 竹内達也)
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竹内達也
Text by 竹内達也

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