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[MOM4335]武南MF高橋秀太(3年)_目指すのはボールと試合のコントロール。司令塔が携えるボランチの矜持

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武南高を司るコントロールタワー、MF高橋秀太(3年=武南ジュニアユースFC出身)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.14 インターハイ埼玉県予選準決勝 武南高 3-0 正智深谷高 NACK5スタジアム大宮]

 ピッチのど真ん中にいるのだから、攻撃も、守備も、全力でこなして当然だ。自分たちのコントロール次第で、試合の展開はもちろん、勝敗だって左右されてしまう。だからこそ、やりがいもあるし、やっぱりこのポジションはやめられない。

「自分たちボランチがしっかりボールをコントロールできれば、試合もコントロールできると思いますし、自分たちが守備で刈り取れれば、流れも自分たちに持って来られると思うので、そういうところでは重要なポジションだと意識してやっています」。

 きっちりボールを動かして、相手を崩す攻撃を標榜している武南高のコントロールタワー。MF高橋秀太(3年=武南ジュニアユースFC出身)が中盤の位置から攻守で放つ存在感が、チームの中でも日に日に大きくなっていることに、疑いの余地はない。

「スタジアムでの試合だし、インターハイの準決勝だし、というところで、みんなちょっと緊張もあって、少し自分たちのサッカーができなかったですね」。決勝進出の懸かったビッグマッチ。正智深谷高と対峙した一戦の前半を、高橋はそう振り返る。相手の推進力に押し込まれ、なかなかリズムを掴み切れないまま、序盤は時間が経過していく。

 その左足が“幸運”を呼び込んだのは前半20分。武南は右サイドでFKを獲得する。キッカーを任された高橋が中央に合わせるつもりで蹴ったボールは、インスイングで綺麗な弧を描くと、伸ばしたGKの両手を越えて、そのままゴールネットへ吸い込まれる。

「ちょっと長くなっちゃったんですけど、うまく気持ちも乗ってゴールに入ってくれたのかなと思います。狙ったと言いたいですけど、狙ってはいないです(笑)。でも、結果を出したいとはずっと思っているので、そういう意味ではチームが苦しい時間に先制点を獲れて、チームの力になれたことは嬉しいことでした」。正直な告白も微笑ましいが、もちろん正真正銘のゴール。高橋の先制点でチームは落ち着きを取り戻す。

 後半には持ち味を十二分に発揮して、追加点に絡む。27分。中盤でのパスワークから、高い位置を取った高橋はいったん右へ。ドリブルで時間を作ったMF飯野健太(3年)からボールが返ってくると、すぐさまダイレクトで再び右へ優しいパス。DF斎藤瑛斗(3年)のクロスからFW戸上和貴(3年)が合わせたヘディングが、力強くゴールネットへ到達する。

「相手が点を獲りに前に出てきて、前にスペースが空いていましたし、そこで自分がボールに絡んで、何回もボールを受けてはたいてというのをしながら、攻撃を組み立てるのも自分の役割だと思っているので、しっかりと良い位置でボールを受けられましたし、落ち着いてボールを捌けたので、うまく攻撃できたかなと思います」。

 高橋の積極的な攻撃参加で2点目を手にした武南は、さらにもう1点を追加して3-0で勝利。重要なセミファイナルに挑んだ背番号8が、その躍動で決勝進出へ大きく貢献してみせた。

 MF宮里丞(3年)と組むドイスボランチは、チームを率いる内野慎一郎監督もその働きを高く評価するように、間違いなくチームの生命線。高橋もそのことはよくわかっている。「丞と常に試合中も話し合っているんですけど、2人がボランチとして横並びになることで、機能しないことが最近は多くあったので、そこで縦関係になったり、斜めになったりしながら、2人のパス交換を増やすことで相手が崩れるのかなと。2人で攻撃も守備も中心になってやらないといけないですし、試合中にうまくいかないことがあっても、2人で話し合って、改善してというところで、チームの中心となってやっていかないといけないなと思っています」。

 中心選手としての自覚が増しているのも、チームが標榜するスタイルを体現したいから。そこに対するこだわりは決して小さくない。「見ている人が面白いサッカーというのは大事だと思っていて、見ている人も面白ければ、やっている方も楽しくて、やられている方は凄く嫌だと思うので、そういうのは意識していますし、ゴール前のアイデアを増やして、相手の逆を取ったり、意表を突いたりと、そういうところが武南らしさなのかなと思いますね」。見ていても、やっていても、面白くて楽しいサッカー。高橋は真剣にその実現を追い求めている。

 中学時代に所属していたチームは武南ジュニアユースFC。加入を決めた理由は、非常にシンプルだ。「家も近かったですし、武南というものに小学生の頃から憧れがあって、武南のサッカーを魅力的に感じていたので、『中学校からそのサッカーができるんだ!』と思って入りました」。

 中学3年時には武南高を全国制覇へと導いた名将、大山照人前監督が武南ジュニアユースFCの監督に就任したことで、高橋も1年間にわたってその薫陶を受けてきた。「大山先生から直接指導されたことで、自分たちは中1、中2となかなか勝てなかったんですけど。中3になって徐々に勝てるようになりましたし、サッカーがより楽しくなったので、感謝しかないですね」。

“武南在籍”6年目。多くの人への感謝を胸に、ここまで来たら目指すものはもう一択だ。「決勝でもチームのためにたくさん走って、チームのために動いて、自分が結果を出したいですし、武南の一員として全国大会に出て、活躍したいと思います」。

 名門の中盤でタクトを振ることを任された、才気あふれるレフティ。高橋の攻守にわたる圧倒的なパフォーマンスが、武南にとって10年ぶりとなる全国切符獲得には、絶対に欠かせない。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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