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追求してきた「武南らしいサッカー」とは何か。武南が正智深谷を3-0で下して13年以来の全国へ王手!

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武南高は3発快勝で2013年以来の全国出場に王手!

[6.14 インターハイ埼玉県予選準決勝 武南高 3-0 正智深谷高 NACK5スタジアム大宮]

 もちろん勝つことが何より大事なことはわかっているけれど、やっぱり勝ち方にもこだわりたい。自信を持って、恐れずに、前へ、前へ。そのチャレンジする姿勢が結果に繋がると信じて、みんなで積み上げてきたものが、自分たちには確実にあるのだから。

「武南高校は決して技術がある選手が集まっているわけではなくて、そういうふうに僕たちが仕向けているだけなので、それを『怖いからやめろ』という指導を僕はしていないんです。『そこでチャレンジをしたら面白いことになるよ』と。だから、みんなは『危ないからやめろ』と思う選択肢の取り方もあった時に、選手たちが勇気を持ってスッと入っていく、狙っているというのはやっぱり成長しているんじゃないかなと思います」(武南高・内野慎一郎監督)。

 追求してきた『武南らしいサッカー』で全国に王手。令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技埼玉県予選準決勝が14日、NACK5スタジアム大宮で開催され、2013年以来となる夏の全国を目指す武南高と、2年ぶりの埼玉制覇を狙う正智深谷高が激突した一戦は、MF高橋秀太(3年)、FW戸上和貴(3年)、FW文元一稀(3年)と3人がゴールを重ねた武南が3-0で快勝。浦和南が待つ決勝へと勝ち上がっている。

「正直、前半が始まってから正智深谷さんも勢い付いていて、ウチはピッチの状況もあって、足元にボールが着いてないなという感じがありました」と武南のキャプテンを務めるGK前島拓実(3年)も振り返ったように、序盤は正智深谷の勢いが鋭い。とりわけアンカーにMF大嶋宙飛(3年)、インサイドハーフにMF大石桔平(3年)とMF大島あらた(3年)を置いた中盤のバランスは秀逸。大石と大島は果敢に前へと飛び出してフィニッシュワークまで関わり、2人は合わせて実に5本のシュートを前半だけで集めた。

 だが、試合は意外な形で動く。前半20分。右サイドのタッチライン際で武南が獲得したFK。スポットに立った高橋が得意の左足で蹴り込んだボールは、そのままグングン伸びると、飛び出したGKの頭上を越えてゴールネットへ到達する。

「ちょっと長くなっちゃったんですけど、うまく気持ちも乗ってゴールに入ってくれたのかなと思います。狙ったと言いたいですけど、狙ってはいないです(笑)」と本人も正直に語ったが、もちろんゴールはゴール。「点を獲れたことがすべてだと思うので、そこでフワッと緊張の紐がほどけましたね」とは内野慎一郎監督。前半は押し込まれる時間もあった武南が1点をリードして、ハーフタイムへ折り返す。

「8番(大島)と7番(大石)の“出たり、入ったり”をどうやって消そうかというのはハーフタイムに話して、そこで宮里と高橋秀太の関係がうまく行ったので、うまく相手を捉えられたのかなと」(内野監督)。後半はリードした余裕も手伝って、武南のバランスも改善。ドイスボランチのMF宮里丞(3年)と高橋が相手の攻撃をケアしつつ、1.5列目気味に位置するMF川上旺祐(3年)がよりボールを引き出し、アタックのスイッチを入れていく。

 守備陣も奮闘する。後半20分は正智深谷のチャンス。途中出場で攻撃を活性化させたMF栗原エイト(2年)が右から送ったパスを、大島は枠内へ打ち込むも、ここは前島がファインセーブ。右からDF斎藤瑛斗(3年)、DF岸雅也(3年)、DF小金井遥斗(3年)、DF島崎貴博(3年)で組んだ4バックも時間を追うごとに安定感を増し、守備から攻撃への切り替えもより早くなっていく。

 すると、次の得点を記録したのも武南。27分。右へ展開した高橋が、MF飯野健太(3年)からのリターンを再びダイレクトで外へ。上がってきた斎藤のクロスを、高い打点で合わせた戸上のヘディングが鮮やかにゴールネットを揺らす。

 さらに畳み掛ける武南。32分。高橋とのパス交換から左サイドへ張り出した宮里は、直前に投入されたDF山崎元就(3年)が戻したボールを、スペースへグサリ。「3人目の動きは意識していて、サイドの2人でボールを回しているタイミングで間を割って入れました」と振り返るMF松原史季(3年)の折り返しを、ニアに潜った文元がゴールへ突き刺す。「アイツに点を獲らせるというのは共通認識でありますね」と松原も言及した、“ジョーカー”の貴重な追加点。3-0。点差は大きく開いた。

 何とか意地を見せたい正智深谷は、最前線のFW服部天翔(3年)を軸に反撃を狙うも、37分に大石が蹴った右CKのこぼれ球を、後半から登場したMF伊藤力仁(3年)がヘディングで叩いた軌道はクロスバーの上に消えると、これがこのゲームのラストチャンス。「攻撃陣も後半に勢い付いてくれて、2点追加してくれましたし、正智深谷さんも力があったので、失点ゼロで終われたことが凄く嬉しいです」と前島も笑顔を見せた武南が逞しく勝ち切って、日曜日の決勝へと駒を進める結果となった。

 武南の選手たちに話を聞くと、『武南らしいサッカー』『自分たちのサッカー』というフレーズが頻繁に聞こえてくる。「今日の試合だと自分も後ろから見ていて武南のクリーンサッカーというか、綺麗な形で崩している部分も増えていて、そこは良かったのかなと。今はいろいろな色が出ているチームが増えてきているので、『武南は武南のサッカーだね』と言われるように、自分たちのサッカーを極めたいと思っています」とキャプテンを務めるGKの前島が話せば、「見ている人が面白いサッカーというのは大事だと思っていて、見ている人も面白ければ、やっている方も楽しくて、やられている方は凄く嫌だと思うので、そういうのは意識していますし、ゴール前のアイデアを増やして、相手の逆を取ったり、意表を突いたりと、そういうところが武南らしさなのかなと思いますね」とはボランチの高橋。周囲が抱く大枠でのイメージは、2人が口にしたようなもので相違ないだろう。

 ただ、もう少し理解を深めるのであれば、決勝の浦和南戦の戦い方に水を向けられた内野監督の言葉にも耳を傾けたい。「南高の怖さは自分たちも知っているので、セットプレーとかボールを飛ばしてきた時にどういうふうに点を獲られているかは、それこそこの何十年で見てきているんですよね。そこが伝統として根付いているというか。ただ、それを僕たちは壊しに行くだけなので、相手がこういうやり方をしてくるので、それに対してどう考えなきゃいけないのか、だと。相手の誰にこういう能力があって、どうやってサッカーを作ってきて、というのに対応できないから負けるのであって、じゃあどうやったら勝てるの、ということを考えているわけです」。

 もちろんボールは動かして、運ぶ。前向きの矢印を作るために、チャレンジを繰り返す。だが、必要以上にそれを貫くつもりもなければ、そこに固執し過ぎるつもりもない。「本当に首の皮1枚だったので、久々に自分も痺れました」と内野監督も言及した、PK戦で辛うじて競り勝った準々決勝の川越東高戦を経たからこそ、大事なのはあくまでも勝つための方策だということは、選手たちも十分過ぎるほどに理解しているようだ。

 チームの10番を託されている松原が語った『武南らしいサッカー』の解釈が興味深い。「ポゼッションで圧倒するサッカーというのは武南の色でもありますけど、いろいろなことに順応して、臨機応変にやれるというのは、『どの色にも染まらない』という意味で武南のサッカーなのかなと。もちろんチームには身体を張る選手もいますし、足元が上手い選手もいますし、ヘディングが強い選手もいますし、そういうところで個々の能力を全員が発揮すれば1つになれるということも考えれば、やっぱり『どの色にも染まらない』という意味での個人の色もあるかなと思います。いろいろなタイプの選手がいて、それがみんなで1つになるという、『どこにもないサッカー』というか、それが武南のサッカーですね」。

『どの色にも染まらないサッカー』であり、『どこにもないサッカー』の集大成。10年ぶりの全国の懸かったファイナルで、貫く『武南らしいサッカー』は果たしていかに。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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