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[MOM4339]國學院久我山DF馬場翔大(3年)_突如出現した「ゴールを獲れる新米左サイドバック」が土壇場での同点弾でチームを救う!

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起死回生の同点弾で國學院久我山高を救ったDF馬場翔大(3年=TOKYU sports system Reyes FC YOKOHAMA出身、中央)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.17 インターハイ東京都予選準決勝 修徳高 1-1 PK3-4 國學院久我山高 西が丘]

 攻めても、攻めても、ゴールが奪えない。残された時間が、そこまで長くないことはチームメイトの誰もが理解していた。左サイドで待っていた自分の足元にボールが届く。躊躇なんてない。とにかく右足を全力で振り抜くと、次の瞬間、その男はあっという間に仲間の歓喜の輪に飲み込まれる。

「監督からも『ゴール前で受けたらシュートを狙え』とは言われていましたし、基本的にもともと前の選手だったので、シュートは得意なんです」。

 國學院久我山高の新米左サイドバック。DF馬場翔大(3年=TOKYU sports system Reyes FC YOKOHAMA出身)が叩き込んだ起死回生の同点ゴールが、苦しむチームを土壇場で鮮やかに救ってみせた。

 難しい展開のゲームであったことは間違いない。関東大会を制した修徳高と対峙する、インターハイ出場の懸かった準決勝。國學院久我山も前半から決して悪くはない流れではあったものの、決定的なチャンスまでは作り切れず。すると、後半10分には先制を許してしまう。

「もともと自分たちは最初に失点することが多くて、そこからでも巻き返せる力はずっとあったので、そんなに慌てることはなくて、『落ち着いてやろう』とは話していました」と馬場も口にはしたが、とりわけ後半20分過ぎからは交代投入されたサイドアタッカーが何度もチャンスメイクしたが、シュートチャンスを生み出すまでには至らない。

 少しずつ負けもチラつき始めるような後半37分。國學院久我山は途中出場のFW保土原海翔(3年)の仕掛けから、10番のMF山脇舞斗(3年)が丁寧に左へ送ったボールを、馬場はほとんどフリーで受ける。

「前回の試合も自分が決めたので、『今回も決めたいな』とは思っていました」。右足から繰り出した低空の弾丸ミドルは、一瞬で左スミのゴールネットを鮮やかに撃ち抜く。

 殊勲のスコアラーを祝福しに集まったチームメイトは、その足ですぐさまスタンドの応援団の元へ向かったが、肝心の馬場は少し遅れてゆっくりとその列へと加わる。「もうあの時は疲れていましたね(笑)」。渾身の一撃で追い付いたチームは、そのままPK戦も制して全国切符を獲得。李済華監督も「あの子はパンチ力とキックの強さは持っているんですよ」と評価する左サイドバックの攻撃性が、西が丘のピッチで確かな成果に結び付いた。

「まだ右の方がやりやすいというのはありますけど、チーム事情もあるので、慣れていかないとなと思っています」と語ったように、馬場が左サイドバックを務めるようになったのは今大会から。それまでは右サイドバックが主戦場だった。本人も驚くコンバートについて、指揮官はこう理由を説明する。

「馬場は1年から試合に出ていて、右で使っていたんですけど、右だと慣れ親しんでいる分余裕を持ってしまっていたので、もう1回危機感や集中心を持つためには、何か変化が必要だろうと。もう1回気持ちのリセットをさせた方がいいんじゃないかなということで、この大会前に変えたんです」。

 本人も「右サイドバックを2年ぐらいやっていたので、全然景色は違いますね。今は感覚でやっています」と明かしたものの、「監督からは直接は何も言われていないですけど、ここから左サイドバックに定着して、試合に出続けられたらなと思います」と覚悟も口に。まだまだ今は“新米”ではあるものの、準々決勝の大成高戦ではクロスからヘディングで得点を記録し、この日は豪快なミドルで2戦連続ゴール。元アタッカーが有するその得点感覚が、魅力的であることは言うまでもない。

 全国大会には“忘れ物”がある。「去年もずっと試合に出ていたんですけど、選手権予選の最初の試合でヒザをケガしてしまって、それからは出られなかったんです」。東京を逞しく制覇し、全国の舞台でも3回戦まで勝ち上がるチームを、ただただベンチから見つめることしかできなかった。

「悔しさは感じましたね。去年の全国大会はずっとベンチで見ていたので、その分も出し切れたらなと思っていますし、今年は最終学年ということもあって、全力で頑張りたいです」。ようやく辿り着いた念願の全国大会のピッチに立つべく、与えられたポジションで、全力を尽くすことを心に誓っている。

 改めてインターハイでの目標を尋ねると、力強い言葉が口を衝く。「個人としてはサイドで1対1を負けることなく、今日みたいに積極的に攻撃参加をして、自分の得点でチームを勝たせたいですし、チームとしては全国に行くだけではなくて、しっかりタイトルを目指して一戦一戦頑張りたいです」。

 國學院久我山に突如出現した『ゴールを獲れる新米左サイドバック』。馬場が北海道の地でも、スルスルと絶妙なポジションに現れ、颯爽とゴールを叩き出したなら、きっと少しはにかみながらチームメイトの輪に飲み込まれていくはずだ。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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