beacon

纏い始めた例年以上の勝負強さ。「全員で守備を頑張る」成立学園が実践学園に“ウノゼロ”勝利で全国切符!:東京

このエントリーをはてなブックマークに追加

成立学園高が4回目となる夏の全国切符を獲得!

[6.17 インターハイ東京都予選準決勝 成立学園高 1-0 実践学園高 西が丘]

 1点を追い掛ける相手の攻撃が一段と激しさを増していく中、選手たちは冷静に、丁寧に、1つ1つのピンチを跳ね返していく。その状況が苦しくないはずがない。それでも、彼らは自分たちが守るべきゴールの前に、逞しく、堂々と、立ちはだかり続けていた。

「今年は全員で守備を頑張ることはできるチームなので、それがウチのカラーじゃないかなとは思っていますけどね」(成立学園高・山本健二監督)。

 確実に身に着けてきた勝負強さで、全国切符獲得。令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技東京都予選準決勝が17日、味の素フィールド西が丘で開催され、2014年以来となる夏の全国出場を狙う成立学園高と、2年ぶりの代表権を目指す実践学園高が対峙した一戦は、後半20分に途中出場のFW平原健吉(3年)が挙げた1点を守り切り、成立学園が1-0で勝利。8大会ぶり4回目となるインターハイ出場を決めている。

 まずはお互いに決定的なチャンスを作り合う。11分は成立学園。MF大塚亮翔(3年)のパスから、FW冨永創(3年)が単騎で抜け出して放ったシュートは、実践学園のGK宮崎幹広(3年)がファインセーブで回避。15分は実践学園。FW関根宏斗(3年)を起点にMF鈴木陸生(3年)が右へ繋ぎ、FW小嵐理翔(3年)がワンテンポ溜めてシュートを打つも、ここは果敢に飛び出した成立学園GK新渕七輝(3年)もファインセーブで応酬。両守護神の意地がぶつかり合う。

 成立学園は序盤からポゼッションで上回れたのが意外だったという。「最初はもっと実践さんがガンガン来るのかなと思っていたので、そうしたら裏に蹴ればいいかなと思っていたんですけど、全然来なかったので予想外でした」とはDF大坂颯汰(3年)。その大坂とDF鎌田真碧(3年)のセンターバックからパスを動かし、中盤ではMF横地亮太(3年)、MF笠原麻守(3年)、MF外山朔也(3年)がうまく立ち位置を入れ替えながらボールをピックアップ。36分には横地のパスから、反転した外山がポストにぶつけるミドルを打ち込むなど、惜しいシーンも創出する。

 一方の実践学園は右の関根、左のFW松田昊輝(3年)の両ウイングを生かしたい狙いは窺えるものの、なかなかフィニッシュには持ち込めず。40分にはここも関根、鈴木陸生と回ったボールから、小嵐がラインの裏に走ったが、「基本的に成立はディフェンスラインが高いので、あそこは自分の守備範囲かなと思います」という新渕が果敢に飛び出してクリア。前半はやや成立学園がペースを握りながらも、0-0で40分間が終了する。

 後半はスタートから成立学園に1人目の交代。守備でも奮闘した大塚に替えて、平原を投入してさらなる推進力向上に着手すると、8分にはCKのチャンス。右から外山がグラウンダーで蹴り入れると、中央の密集から1人離れた横地のシュートはわずかに枠の上へ外れるも、デザインされたセットプレーで決定的なシーンを。

 すると、歓喜の瞬間を迎えたのは20分。DF矢島脩大(3年)が縦に差し込んだパスから、サイドをえぐった冨永が飛び出したGKに触られるより一瞬早く中へ。MF佐藤漣(3年)が粘って右に繋いだパスを、平原が押し込んだボールがゴールネットを確実に揺らす。「前線の選手がみんなボールに関わって、最後は平原くんが決めてくれたので、自分たちの『繋がってサッカーすること』がそのままゴールに繋がったのかなと思います」(横地)。成立学園が先制点をもぎ取ってみせる。



 なかなか思うようなアタックを繰り出せない中で、ビハインドを背負った実践学園はFW犬飼椋大(3年)、FW大島稜翔(3年)と攻撃的な選手を相次いで投入し、前線の高さとパワーを増強。ボールの蹴れるDF鈴木嘉人(3年)とDF山城純也(3年)の両センターバックもシンプルに長いフィードを使いながら、相手のディフェンスラインを押し下げに掛かる。

 だが、成立学園は冷静だった。「危ないのはあったんですけど、相手の高さはずっとケアしてきていたので、最終的には大きい選手を入れようかと思ったんですけど、そうじゃなくてみんなでセカンドボールを拾おうということで、中盤を変えずにやらせてもらって、『高さが怖い相手でもしっかり競れば大丈夫だよ』という話をしていました」(山本監督)。鎌田が競り、大坂が、横地が、笠原がセカンドボールに反応する。新渕が最後方から大声を出し、DF山口拓士(2年)と終盤から登場したDF大山悟生(3年)の両サイドバックも、途中出場のMF戸部茉広(3年)もMF高橋奏羽(3年)も、それぞれがそれぞれの持ち場で身体を張り続ける。

 そして、5分間のアディショナルタイムも潰し切ると、タイムアップの笛が西が丘の青空に吸い込まれる。「最高です!!『北海道に行こう』ということは選手みんなで話していて、それが現実になったので嬉しい気持ちでいっぱいです」(新渕)「今日も負ける気がしないということをみんなで話していて、本当に勝つことしか考えていなかったですし、自分たちは勝ちにこだわっていたので、勝てて嬉しいですね」(横地)「試合前に仲の良い高橋奏羽に『絶対に失点するなよ』と喝を入れてもらっているので、その効果もあって無失点で終われたのかなと思います」(大坂)。成立学園が1-0で勝ち切って、夏の北海道行きの切符を粘り強く手繰り寄せた。

「成立は毎年全国にあと一歩で出られないということが多かったと思うんですけど、自分たちは『この代を“成立の全国に出る代”にしよう』ということを言っていたので、全国に出られてやっぱり嬉しいなと思います」。試合後に横地が話していた言葉が印象的だった。

 インターハイは今回が2014年大会以来となる、9年ぶりの全国大会出場。さらに昨年度の高校選手権では実に17年ぶりの全国大会を経験した。再就任2年目で、早くも2度目の全国切符を手にした山本監督は「僕は何もしていません」といつも通りの笑顔でとぼけるものの、やはりこの指揮官の雰囲気作りは見逃せない。

「監督は自分たちと一緒に同じ目線で練習してくれて、監督がボケたことに対してみんなでツッコんだりとか、引き締まって練習するというよりは、みんなで楽しみながらサッカーをやるというスタンスですね」(横地)「あの人は明るいので、みんなで『え~』みたいに言ってイジる感じは毎回あって、それで雰囲気が明るくなる部分もあると思います(笑)。メチャメチャ面白い監督です」(大坂)。

 加えて、今年のチームでは空気を引き締められるリーダーが存在感を発揮している、「今週1週間も彼が練習を止めて、『このままだったら負けるだろ!』という感じで2回ぐらい吠えて、一番危機感を持ちながらもチームを引っ張ってくれている存在ですね」と山本監督が言及したのはGKの新渕。本人にそのことを尋ねると、少し笑顔を浮かべながらこう話す。

「正直言って、今週の火曜水曜の練習はあまり良いものではなくて、声も全然出ていなくて、淡々と練習していたので、自分が喝を入れたことでチームを変えられて良かったなという気持ちでいっぱいです。自分がチームを勝たせたのかなと思っています!」。

 また、キャプテンを務める横地はその献身的なプレーと笑顔で、やはりグループをまとめている。この日の試合後に「今日は西が丘というピッチで、観客も多い中で、自分たちは緊張ももちろんしたんですけど、『サッカーを楽しもう』とはみんなで試合前から話していて、それができたのかなと思います」と口にした言葉も実に彼らしい。さまざまなタイプのリーダーがいるのも、今年のチームの特徴だ。

「まずは去年の選手権の成績のベスト32を超えたいです。全国に出ているチームは本当の強豪校だと思うので、そういうチーム相手に自分たちはどれだけ通用するのかということを確認したいのと……、とりあえず優勝したいですね!」。全国での目標を問われた大坂は、短いフレーズの中でそれを“上方修正”した。さらに指揮官もそれとなく紡いだ言葉の中に“野心”を覗かせる。

「今は守備は何とか頑張れるので、今度は全国で攻撃を見せられるような形をやっていこうかなと思っています。ただ出ればいいわけじゃないですからね」。

 ただ全国大会に出ればいいわけではない。『全員で守備を頑張る』ベースはあるからこそ、やるからには攻撃的に、アグレッシブに、行けるところまで、どこまででも。例年にない勝負強さを纏いつつある成立学園は、確かな野心を携えて、真夏の主役をさらう気満々で北海道へと乗り込んでいく。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

TOP