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「日本一を獲った次の代」から「日本一を続けて獲った代」へ。前橋育英は健大高崎に逆転勝利で全国連覇への挑戦権獲得!:群馬

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前橋育英高は全国連覇への挑戦権を獲得!

[6.18 インターハイ群馬県予選決勝 前橋育英高 3-1 健大高崎高 正田醤油スタジアム群馬]

 もちろん去年の先輩たちは凄かったけれど、自分たちにだって意地がある。勝てなくて、落ち込んで、点も獲られて、点も獲れなくて。それでもこの苦しい今の先に、必ず明るい未来が待っていると信じて、みんなで歯を食いしばって、必死に頑張ってきたのだ。

「ここで勝ち切ったということは、まだまだ“のびしろ”があると。去年のメンバーで出ているのはキーパーしかいないわけで、残りの10人はそういう経験をしていなくて、4月のプレミアからやっと経験し始めて、だんだんその強度に慣れてきて、だんだん良くなってきて今の段階になるので、まだ成長するのかなと期待はしています」(前橋育英高・山田耕介監督)。

 のびしろで掴んだ全国連覇への挑戦権。令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技群馬県予選決勝が18日、正田醤油スタジアム群馬で開催され、前回大会の全国王者・前橋育英高と、初の全国を狙う健大高崎高が激突した一戦は、前半にPKで健大高崎が先制したものの、そこから3点を奪った前橋育英が逆転勝利を収め、6大会連続19回目となる夏の全国への出場権を勝ち獲った。

 いきなりの決定機は前橋育英。前半開始1分。左サイドでFW佐藤耕太(2年)が時間を作り、14番を託されたMF篠崎遥斗(3年)のシュートは健大高崎のGK関沼海亜(3年)がファインセーブで弾き出したものの、6連覇を狙うタイガー軍団が早くも牙を剝く。

 ただ、準決勝で桐生一高を退けてきた健大高崎にも、すぐさまチャンスが。5分にはスムーズなパスワークから、MF渡辺聡馬(3年)が繋いだボールをFW中澤慶次(3年)はシュートへ持ち込み、DFに当たったボールはゴール左へ外れるも好トライ。19分には右サイドを崩し、MF湯浅惠斗(2年)のスルーパスからDF牧野陸(3年)が打ったシュートは、前橋育英のDF熊谷康正(3年)が身体でブロックするも、惜しいシーンを続けて作り出す。

 すると、26分には年代別代表も経験しているDF新井夢功(2年)の正確なフィードに、飛び出した中澤がエリア内で倒されて、健大高崎はPKを獲得する。キッカーは中澤自ら。GKの逆を突いて右スミへ蹴り込んだボールが、確実にゴールネットを揺らす。1-0。健大高崎が1点のリードを手にしてみせる。

 ビハインドを負ったタイガー軍団だったが、2年生ストライカーが窮地を救う。失点から4分後の30分。DF青木蓮人(2年)のフィードに走った佐藤は、飛び出したGKを浮き球で軽やかにかわすと、そのまま無人のゴールへボールを流し込む。「あんなにうまく行くと思っていなかったので、自分でもビックリしました」という15番の貴重な同点弾。前橋育英が追い付く格好で、前半の40分間は終了した。

 その男は、狙っていた。後半4分。健大高崎のビルドアップが乱れ、こぼれてきたボールをMF斎藤陽太(3年)は懐に収めると、右足で丁寧にシュート。軌道はゆっくりと右スミのゴールネットへ吸い込まれる。「調子が良いと、周囲が良く見えるんです」という“思考するアタッカー”が、相手の隙を見逃さずにきっちり沈めた逆転弾。前橋育英がスコアを引っ繰り返す。

 この男も、狙っていた。10分。右サイドへの展開で、斎藤からパスを受けた青木は、完璧なグラウンダーのクロスをファーサイドへ。「ディフェンスがちょっとニア気味にいて、ファーが空いていたので、そこに走り込んだら来るかなと思っていました」という佐藤がフリーで走り込み、難なくゴールを陥れる。「プレミアの試合を重ねるごとに動きも合ってきて、パスもよく合うようになってきました」と語った佐藤と青木のホットライン、再び。3-1。点差が開いた。

 決して流れは悪くなかった中で、一気に突き放された健大高崎。13分にはDF宮崎大翔(3年)の縦パスから、渡辺が右へ振り分け、途中出場のDF木村嶺王(1年)が鋭いクロスを上げるも、ここは熊谷が巧みにクリア。15分にも渡辺が果敢なプレスからボールを奪い、MF松本空輝(3年)のパスから牧野が枠内へ収めたシュートは、雨野が丁寧なキャッチで凌ぐ。

 さらに18分にも新井のフィードに中澤が走るも、「背後の対応は熊谷さんと話し合って、ちゃんと100パーセントやられないようにケアしないといけないなと思いました」と振り返ったDF山田佳(2年)と熊谷が今度はきっちり挟み込み、シュートには至らず。前橋育英はドイスボランチのMF石井陽(2年)と篠崎が中盤のフィルター役として効果的に動き回り、最後の局面ではDF斉藤希明(3年)と青木の両サイドバックも身体を投げ出して相手の突破を阻止。健大高崎は“もう一手”を繰り出させてもらえない。

 ファイナルスコアは3-1。終盤はアタッカーの交代カードを使い、前からの守備の強度を担保しつつ、隙あらば追加点を狙う盤石の采配を披露した山田耕介監督も「選手たちも納得できない内容だとは思いますけど、やっぱりそれでも全国出場を決めたことは凄いことなので、それは認めてやっていきたいと思います」と話した前橋育英が、インターハイ予選6連覇を力強く達成した。



 4月2日。プレミアリーグの開幕戦を終えたばかりの前橋育英の選手たちは、とにかく打ちひしがれていた。昨年度王者の川崎フロンターレU-18を相手に0-3の完敗。プレミアデビューも複数人いるようなメンバー構成で臨んだ一戦は、ほとんど何もできないままに90分間が過ぎ去っていった。

 それから2か月。山田監督は国内最高峰のリーグで戦ってきた意味を、こう語っている。「プレミアのディフェンスの強度とスピードに慣れてきました。最初は慣れていないから全部ボールを取られていましたけど、だんだん慣れてきて、パスが回るようになって、今度はこちらの方のディフェンスの強度も上がっていって。プレミアって凄いんだなと思います」。

「フロンターレ戦は本当にひどくて、映像で見返して『もうヤバいな』と思いました」と苦笑した山田も、「そこからもう監督や湯浅さん(湯浅英明コーチ)に言われることは全部吸収して、言われたことは常に集中してやっているので、最初の頃より守備はかなり成長したかなと思います」ときっぱり。昨シーズンからただ1人レギュラーを張り続けているキャプテンのGK雨野颯真(3年)も「フロンターレ戦は中のマークの付き方とか、サイドの守備も全然話にならないぐらい弱かったんですけど、試合を重ねていくうちに、『この間合いだったらクロスを上げられないな』とか、『この距離でマークを掴んでいたら相手に触られないな』というのがだんだん全体でわかってきたところがあるので、そういう意味でディフェンスが強化されたかなと思います」と話すなど、選手たちは確実にグループの成長を感じているようだ。

 新人戦は準決勝で桐生一高に敗れているため、この代ではこのインターハイ予選が初めてのタイトル。優勝写真の撮影も、カップを掲げて喜ぶ雰囲気も、いかにも慣れてない初々しさが微笑ましい。

 そのことに水を向けられ、「それもまた自分たちの良さかなと(笑)」と笑った雨野は、「自分たちの代は1,2年生の段階でなかなかこういう舞台を経験している人がいなくて、初めてのこういう経験だったと思うんですけど、優勝という形で終われて、本当に自信になりますし、次に繋がる大会になったのかなと思います。でも、僕たちは全国で優勝することが目標なので、まだまだシーズンを通してやることがいっぱいありますし、いったんここは優勝の喜びを噛み締めて、また明日からしっかりやっていこうかなと思います」とすぐに気を引き締める。

 真夏の北海道で挑むのは、日本中の高校で唯一その権利を持つ全国連覇。「2年連続を狙えるのは前橋育英しかいないので、それはもちろんそこを目指してやらないといけないでしょうし、また頑張っていきたいと思います」と山田監督も言い切っている。

『日本一を獲った次の代』から、『日本一を続けて獲った代』への大いなるチャレンジ。確かな成長を続けている2023年の前橋育英は、再び全国の頂を目指して、道なき道を突き進む。

前橋育英の選手用ボトルにはチームメイトからのメッセージが託されていた


(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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