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過去の自分たちに打ち克った矢板中央!! 高川学園との壮絶なPK戦制して準々決勝進出

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PK戦を制した矢板中央高(栃木)が3回戦突破

[7.31 インハイ3回戦 矢板中央 0-0(PK9-8) 高川学園 東光スポーツ公園球技場A]

「こういう試合になると思ってはいた」

 表現はそれぞれ異なるものの、両チームの監督・選手にとって試合内容自体は「想定内」だった。矢板中央高(栃木)と高川学園高(山口)の全国常連校同士の対戦となった3回戦は、タフな粘り合いの展開のままにPK戦へと突入。合計20人が蹴り合う展開の末、北関東の雄に軍配が上がった。

 ロングボール主体に強さを押し出して攻める矢板中央に対し、高川学園も粘りの応戦。注目のFW山本吟侍(3年)の個人能力も活かしつつ、厳しい競り合いを続けた。

 双方に疲労の色も出始めた後半の半ば、さすがに守備の隙も生まれるかと思われたが、ここで雷雨のために試合は中断に。朝の9時30分に開始された試合は昼をまたいで、13時30分に再開することに。残り16分30秒にすべてをぶつけるシチュエーションは「さすが経験したこともない」(矢板中央・高橋健二監督)事態。中断期間中の食事や休養の取り方、再開する時間も変更になっていく中でのウォーミングアップのやり直しなど、両校のスタッフも対応に追われるイレギュラーな流れだった。

 その中で中断明け直後に流れを掴んだのは矢板中央。MF井上拓実主将(3年)を中心によく声を掛け合って全員で同時にアクセルを踏み込むように試合へ入ると、再開序盤で高川学園を大きく押し込んだ。ただ、この猛烈な圧に対して高川学園も崩れない。江本孝監督が「本当に名前負けしなくなったし、どんな相手に対しても怯むことなく全員で戦えるようになった」と胸を張ったように、粘り強く対抗した。

 前後半で双方の総シュート数が5本ずつという数字が端的に示す通り、双方の手堅い守備に阻まれて攻撃が形になったシーンはそう多くない「ガチガチの試合」(井上)。最大のチャンスは矢板中央が得た後半PKの1本だったが、これも枠外。高川学園も終盤に流れを掴んでビッグチャンスを作ったが、こちらも決め切れず。0-0のまま、試合の行方はPK戦へと委ねられることとなった。

 このPK戦。矢板中央は伝統的に強さを発揮してきたチームなのだが、高橋監督は「それを過去の話にしてしまっていた」と嘆く。井上主将が「本当に練習試合とかでも新チームになって全く勝てていなかったし、練習でも良くないままだった。だから『絶対に70分で勝とう』と言っていました」と苦笑いと共に振り返るような状態だった。

 逆に高川学園は県予選でもPK戦を制しており、GK三宅亮壽(2年)はPKを得意とする選手。十分な自信を持ってこのPK戦へと入っていた。

 だが、そうした心理状態の明暗を消し飛ばしたのが矢板中央のGK大渕咲人(3年)のビッグセーブ。先攻の高川学園の1本目をいきなり防いで流れを呼び込む。高川学園GK三宅も矢板中央の5番手を止めてサドンデスへと持ち込んだが、矢板中央は試合中のPKを2試合連続で失敗して9番手に回ったMF小森輝星(3年)がプレッシャーに打ち克って成功すると、この直後に高川学園の10番手のPKを大渕が再びビッグセーブ。次の一人が決めれば勝利という状況に持ち込んだ。

 その10番手に指名されていたのは「PKだけは本当に苦手な選手だったので、GKの大渕とどちらを11番にするか迷ったくらい」(高橋監督)というFW堀内凰希(2年)だった。だが、こちらも過去の自分に打ち克つ形で見事に成功。壮絶なPK戦を制した矢板中央が、準々決勝進出を決めた。

 勝った矢板中央の高橋監督は「負けて学ぶことも多いですが、いまは勝っていろいろな景色を見ることでの成長をさせてあげたい」とさらなる躍進を誓った。一方、敗れた江本監督は悔しさをにじませつつも、「競争させる中で選手たちの成長を感じた大会だった」とも総括。秋以降のさらなる躍進へ、新たな闘志を燃やしていた。

(取材・文 川端暁彦)

●【特設】高校総体2023

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