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[MOM4380]矢板中央GK大渕咲人(3年)_PK戦の最中、思い出した先輩の姿…“進化”遂げた守護神が8強へ導く

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チームを8強へと導いた矢板中央高GK大渕咲人

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[7.31 インハイ3回戦 矢板中央 0-0(PK9-8) 高川学園 東光スポーツ公園球技場A]

「シュートが余り飛んでこなかった」という試合から一変、主役となったPK戦では、過去の自分たちを乗り越える形での快勝。難敵・高川学園高(山口)を下しての8強進出を手繰り寄せた。

 矢板中央高(栃木)の守護神、GK大渕咲人(3年)はPK戦について「得意ではなかった」と振り返る。僚友のMF井上拓実(3年)も「練習ではそんなに止めてなかった」と言う。実際、高橋健二監督は「練習試合でのPK戦はずっと負けていた。直前にやった試合でも負けていました」とPKを苦手にしてきた代だったことを明かす。

 それだけに、PK戦へ突入した直後の空気も実は余り良くなかったのだと言う。ただ、そうしたムードは相手の1番手のPKを大渕が止めたことで大きく変わった。

「相手のキッカーの情報は4番手くらいまでは持っていたので、頭に入っていた。1本目はその映像通りに予測して動いて止められた」(大渕)

 だが、その後は予測で先に動いたところの逆を突かれるなど、思うようなセービングができず、精神的な焦りも感じられるようになってしまい、連続して相手のPKがゴールネットを揺らす。矢板中央の5番手が失敗し、サドンデスにもつれ込む中で考えを変えた。

 思い出していたのは尊敬してやまない先輩たちの姿だ。大渕が矢板中央を選ぶ切っ掛けになったのは第98回全国高校サッカー選手権準決勝、矢板中央と静岡学園の一戦。そこで1年生ながらにゴールを守っていたGK藤井陽登(現明治大)に憧れた。

「(藤井)陽登さんは止められなくなったときに自分から何かを変えていたという話をコーチの(金子)文三さんから聞いていて、自分もここでやってみようと思った」

 変えたのはキッカーがボールをセットする間にするGKの過ごし方だ。もともと、過去の自分がルーティンにしていたゴールバーを叩く動作がルール変更で禁止になってしまったため、新しい形を模索していたこともある。相手に背を向ける形で入っていたが、これを途中から変更。腕を胸の前で組んでキッカーをにらみつける形にしてマインドセットを変えた。

 そして迎えた相手の10番手の蹴ったボールは読みとは異なり真ん中へと飛んだが、残した足へと当てて見事にセーブ。戦いの中で自分の殻を破るためにもがいた守護神が、チームを8強へと導いた。

(取材・文 川端暁彦)

●【特設】高校総体2023

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