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前回王者・前橋育英が突き付けられた3回戦敗退の悔しさ。だが、手負いの虎は何度でも立ち上がる

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前橋育英高はこの夏のリベンジを誓う

[7.31 インハイ3回戦 前橋育英高 0-1 尚志高 東光スポーツ公園球技場B]

 悔しいに決まっている。前回王者という重圧。ターゲットにされる難しさ。名門の看板を背負っているプライド。すべてを受け入れた上で臨んだ夏の全国で、ベスト8を前に敗退を突き付けられたのだから。

「この代は本当に伸びしろがある代だとは思っていて、ここまでも本当に攻撃も守備も伸びてきましたし、こういうゲームも含めて今までの試合で課題がどんどん出てきているので、それを自分たちの成長に繋げられるように、また練習に向き合ってやっていければいいかなと思います」(前橋育英高・雨野颯真)。

 インターハイ連覇に挑みながら、同じプレミアリーグ勢の尚志高とのビッグマッチに敗れた前橋育英高(群馬)。だが、その真価が問われるのは、まだまだここから。彼らがさらなる成長を披露する舞台は、存分に残されている。

 いきなりビハインドを背負ってしまう。尚志と激突した3回戦。前半11分に相手のフォワードがエリア内でマーカーと接触して倒れると、主審はPKというジャッジを下す。見る者によって意見が分かれるような局面ではあったが、もちろん判定は覆らない。前橋育英は早くも1点を追い掛ける展開を強いられる。

 ボールは動く。ただ、そこから先がなかなか切り裂けない。「ボールを回して、回して、『相手をイライラさせればこっちのものだ』みたいな感じだったんですけど、アタックゾーンからの崩しが課題ですね」とは山田耕介監督。尚志の強固なブロックを前に、ジリジリするような時間が続く。

 31分にはようやく決定機が訪れる。中盤での攻防で、この日ハイパフォーマンスを披露したMF石井陽(2年)がボールを奪い切ると、MF黒沢佑晟(2年)が繋いだボールはMF山崎勇誠(3年)の足元へ。左足で放ったシュートは、しかし相手GKがファインセーブ。同点には至らない。

 後半も「自分たちのやることは変わらないので、そこを続けていこうというみんなの意思統一はありました」と話したMF篠崎遥斗(3年)を中心に丁寧なパスワークから、相手ゴールを窺うものの、フィニッシュは取り切れないまま、時間ばかりが経過していく。

 後半23分に切られたカードは、MF斎藤陽太(3年)とFWオノノジュ慶吏(2年)。ここから「身体は強いし、パワーのあるヤツ」と指揮官も評価するオノノジュが左サイドで躍動。何度もチャンスを創出するが、尚志の気合のディフェンスは打ち破れない。6分間のアディショナルタイムでも、得点は生まれずにタイムアップ。黄色と黒の選手たちはピッチ上に崩れ落ちた。

「尚志さんの守りの方が堅かったので、ボールを持っているようで、ただ持っているだけというか、失点のところももうちょっと自分がうまく処理できれば良かったので、自分も含めてチーム全体がまだまだ実力が足りなかったなと思います」と潔く話した雨野は、敗因を自身に求める。

「自分は唯一の去年の経験者で、そういう意味ではもっとチームを勝たせられるプレーができないとダメだと思いますし、今日は自分のせいでこういう結果になったかなと思います」。

 奮闘した篠崎も言葉に無念さを滲ませる。「勝負強さというところで尚志を上回れなかったことが一番悔しいです。やっぱり決定力の部分が一番の課題ですし、課題ばかりだったので、収穫はそこまでなかったです」。

 東山高、尚志と刃を交えたこの夏の2試合を、山田監督はこう振り返った。「初戦の東山はまた尚志と全然違うタイプで、コーナーキックになって、クリアしたらまたロングスローをやられて、コーナーキックになってと。それもだいたい予想していてああいう展開になったんですけど、今日は絶対に違うかなと。しかも人工芝になったので、ちゃんとウチのサッカーができるというか、これは行けるなと思ったんですけど、どっちにしても課題がまたいっぱい発見されたので、もっと頑張っていきたいなと思います」。

 もちろん前橋育英が、このままで終わっていいわけがない。

「やっぱり情けない結果ですし、この借りをプレミアのホームで絶対に返したいと思います」と言い切った篠崎は、改めて自身にもベクトルを向ける。「14番としてはまだ(徳永)涼さんみたいに全国にその存在が広まっていないので、自分の力を見せ付けられるようにしたいですし、もっともっと強いチームにできるように、雨野だけに任せるのではなくて、練習から自分がリーダーシップを取ってやっていきたいです」。

 雨野も力強い言葉で前を見据える。「次はプレミアリーグですけど、去年と違って、夏に負けてそれを迎えるというのは、良い意味でやる気が出るというか、『やってやろう』というふうに思うので、この負けをネガティブに捉えずにポジティブに捉えたいですし、まだシーズンが終わったわけではないので、プレミアと選手権に向けて良い準備ができればいいなと思います」。

 プレミアリーグの日常が、高校選手権のステージが、彼らのさらなる成長を待っている。上州のタイガー軍団が誓った夏のリベンジ。手負いの虎は、何度でも立ち上がる。



(取材・文 土屋雅史)
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