beacon

「オレたちは強いぞ!」。“台風の目”から“真夏の主役”へ。明秀日立は日大藤沢との準決勝に快勝を収めて日本一に王手!

このエントリーをはてなブックマークに追加

明秀日立高は盤石の勝利で日本一に王手!

[8.3 インハイ準決勝 日大藤沢高 1-3 明秀日立高 カムイの杜公園多目的運動広場A]

 もう“台風の目”と呼ぶのは失礼だろう。大会前から明確に、虎視眈々と狙っていた6試合目に辿り着いたのだから、間違いなくこの夏の主役だと言い切っても、誰も異論は唱えないはずだ。それでも、彼らはあと1試合を勝つために、すべてを捧げる覚悟だって、とっくに定まっている。

「『今日の勝ち方が本当に大事だな』って優勝を考えた時に思ったので、勢い良く入ってくれたのと、ああやって動じずにすぐ突き放せたのは凄く好材料だったなって。あまりいろいろなことは意識せずに、純粋に明日のゲームに向かって『思い切って入ろう』という感じの精神状態には全員がなっていると思います」(明秀日立高・萬場努監督)。

 盤石の完勝で、日本一に堂々王手。3日、夏の高校サッカー日本一を争う令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技準決勝が行われ、日大藤沢高(神奈川2)と明秀日立高(茨城)が激突したゲームは、前半で2点を先行した明秀日立が、3-1できっちり勝ち切り、桐光学園高(神奈川1)が待つファイナルへと駒を進めている。

「もう今日は精神的な部分で『タフに戦うぞ』と。『もうその1個だけだ』という話をしたので、勢い良く入ってくれましたね」。萬場努監督の言葉は、わずか開始4分で結果として現れる。相手のバックパスを前向きにかっさらったDF長谷川幸蔵(3年)は、そのまま縦に運んで左へ。受けたFW石橋鞘(3年)が左足を振り切ったシュートは、ゴール右スミへと吸い込まれる。「自分たちは前からプレスに行くというのが強みなので、それで点が獲れたというのは良かったですね」と話すのはキャプテンのDF山本凌(3年)。明秀日立が早くも1点のリードを奪う。

 明秀日立は攻める。5分にFW熊崎瑛太(3年)のパスを左で受けたMF益子峻輔(3年)がカットインから、7分にも高い位置で相手ボールを奪った石橋がミドルレンジから、ともに日大藤沢のGK野島佑司(3年)にキャッチを強いるフィニッシュ。14分にはここも益子が左から中に切れ込み、低い弾道のシュート。野島が懸命に弾くと、突っ込んだ石橋のシュートはわずかに枠の右へ外れるも、その勢いは止まらない。

 すると、次の得点を挙げたのも明秀日立。30分。中盤でボールを拾ったMF大原大和(3年)を起点に、MF吉田裕哉(3年)は右に展開。サイドを駆け上がったFW柴田健成(3年)のクロスに、熊崎が合わせたヘディングはGKのファンブルを誘って、ゴールネットへ転がり込む。「キーパーのミスも少しはあったと思うんですけど、献身的に自分が頑張った結果だと信じています」と語った9番はこれが今大会初ゴール。「相手に結構握られる時間も多かった中で、前半で2点獲れたというのは上手く行き過ぎましたね」とは山本。明秀日立が2点のアドバンテージを握って、最初の35分間は終了した。

「ハーフタイムのミーティングで『ここからやろう』とみんなで声を掛け合いました」(MF安場壮志朗)「全員が目は死んでいなかったので、『ここから行くぞ』と」(佐藤輝勝監督)。日大藤沢だって、このままで終わるようなチームではない。後半3分。右サイドで得たCK。レフティのDF宮崎達也(3年)がインスイングの軌道を蹴り込むと、ゴール前の混戦から、後半開始時に投入されたU-17日本代表候補のMF布施克真(2年)がプッシュしたボールはゴールネットを揺らす。2-1。たちまち点差は1点に変わる。

 だが、茨城王者はしたたかだった。失点から5分後の8分。左サイドでDF阿部巧実(2年)は預けてゴー。益子が“股抜きパス”を縦に通すと、阿部の鋭いクロスからこぼれを柴田がシュート。相手GKとDFに当たってエリア内に落ちたボールを、抜群の嗅覚で反応した熊崎がゴールへ流し込む。「アレは泥臭く、フォワードらしいゴールだったなと思いますね」と笑顔を見せた9番はこれでドッピエッタ。3-1。再び点差が2点に開く。

「あの1点が痛かったです」と安場も話した日大藤沢は、それでもボールを動かしながら縦に差し込むタイミングを探し続けるも、なかなかシビアなエリアへ侵入できない。21分には途中出場のFW会津恒毅(3年)のパスから、布施が放ったシュートは明秀日立のセンターバックを務めるDF飯田朝陽(3年)が身体でブロック。23分にも宮崎の左FKから、谷場が枠内へ収めたシュートは明秀日立のGK重松陽(2年)が確実にキャッチ。25分にも左から切れ込んだMF岩内類(2年)のシュートは、ここも益子が身体を張ってブロック。明秀日立の堅陣は揺るがない。

35+2分。日大藤沢のCKを跳ね返した流れから、相手陣内まで全速力でプレスに走った長谷川がフィードを身体に当ててブロックすると、重松からは「幸蔵!スーパー!」の声が。山本も「あのプレーでチームの雰囲気もより良くなったと思います」と言及するなど、2点差にも慢心することなく役割を全うした長谷川のプレーは、この日の明秀日立を象徴するような一連だった。

 ファイナルスコアは3-1。「失点した時に相手もそれで自分たちを飲み込もうと思ったはずですけど、そこでディフェンスライン全員で『もう1回締めていこう』ということをちょっとだけ集めて話しましたし、そこで前の人たちが3点目を獲ってくれたのは、全国大会に来て成長した部分かなと思います」と山本も胸を張った明秀日立が、とうとうインターハイの決勝まで辿り着く結果となった。

 印象的なシーンがあった。2点をリードした後半の飲水タイム後。キャプテンの山本は「オレたちは強いぞ!」と大声を張り上げる。そのことを問われた本人は、その真意をこう明かしてくれた。

「自分たちは後半の飲水後からが一番点を獲っていますし、そこで自分たちの強みが一番出せるというのはわかっていたので、チーム全員に発破をかける意味でも『自分たちの方が強いぞ』と。自分たちが勝っていても、ここからまだ点を獲る姿勢を相手に見せることも含めて、そう言いました」。

 静岡学園高と青森山田高を倒したゲームも含めて、ここまでの4試合ではすべて後半の飲水タイム後=『第4クォーター』で決勝点をもぎ取ってきたが、この日は前半で2点を挙げると、後半早々の失点にも動じることなく、3点目を力強く奪い切る。失点シーンの直後について「『慌てないでくれるといいな』とベンチでスタッフみんなで見ていたんですけど、『崩されたわけではなかったので、変わらずやろう』と。『立ち上がりのつもりでもう1回入ろう』と言っているのが見えたので、それは本当に頼もしかったですね」と言及したのは萬場監督。今の明秀日立は、間違いなく強い。

 次はいよいよ全国大会の決勝。日本一の懸かった大一番だが、選手たちはそのピッチに立つことを心待ちにしている様子が、言葉の端々から伝わってくる。

「全国の決勝という舞台で戦えることは本当に楽しみですし、その中で自分がどれだけできるか、ゴールを奪えるかというのも凄く楽しみです。明日は日本一になれるように、優勝目指して頑張ります」(熊崎)「日本一を目標に掲げていながら、その舞台にも行ったことがなかったので、何もわからなかったんですけど、1回戦で静学に勝ったことで、『このままの流れだったら行けるかな』と思いながらここまで来たので、明日は全力で楽しみたいですね」(山本)。

“台風の目”から、“真夏の主役”へ。舞台は整った。確かな自信を纏いつつある明秀日立は、自分たちで手繰り寄せた6試合目を、もう全力で楽しむだけだ。

明秀日立は身体を張った果敢な守備が目立った


(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

TOP