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確かに見えかけた頂の景色と体感したそこまでの距離。全国8強を知った高知が足を踏み入れる次のフェーズ

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高知高は初の全国8強で新たな歴史の扉を確実にこじ開けた

[8.2 インハイ準々決勝 高知高 0-1 明秀日立高 カムイの杜公園多目的運動広場A]

 全国の頂の背中は見えた。懸命に手を伸ばせば、届かないほど遠くにあるわけではないことも、実感として掴むことができた。だからこそ、近いようで遠い、遠いようで近い、この距離をどう縮めていくかを、冬までにみんなで考えるきっかけになるのであれば、このベスト8敗退という結果は、決して悪いものではない。だって、間違いなく確かな歴史の1ページは切り拓いたのだから。

「僕たちは全員ここまで来たのが初めてで、だからこそ全員の全国大会に対する印象も覆ったと思いますし、『自分たちはやれる』という自信も付いたと思うので、ここで経験したことを生かすためにも、絶対選手権に行って、借りを返したいと思います」(高知高・森紺)。

 チーム史上初となるインターハイの全国8強まで辿り着いた高知高(高知)は、さらにそこから先に進むための小さくないヒントを得た貴重な体験をしっかりと携えて、再び自分たちと向き合う日常へと身を投じていく。

「ウチにもチャンスがあったので、ああいうワンチャンスを決め切れないと、こういう結果になるのかなと。『1本の大事さ』というのは常々言っているのですが、ここでそういうことが出たからこそ、彼らはよりその大事さに気付いたのかなとは感じています」。終わったばかりの試合を振り返って、大坪裕典監督はそう言葉を紡ぐ。

 確かにチャンスはあった。今大会の“台風の目”として注目を集める、明秀日立高(茨城)と対峙した準々決勝。前半は積極的に立ち上がった高知が、ゲームの主導権を握る。26分には決定機。右から10番のMF市原礼斗(3年)が蹴り込んだCKに、宙を舞ったキャプテンのDF森紺(3年)はドンピシャでヘディング。だが、ゴールに向かったボールは、クロスバーに当たって跳ね返る。

 後半21分には負傷の影響から、今大会はスーパーサブ起用となっているチームの絶対的エース、MF松井貫太(3年)がピッチへ登場。ベンチも勝負の一手を打ったものの、その3分後にスローインの流れから一瞬の隙を突かれて失点。この1点が重くのしかかり、試合は0-1でタイムアップ。全国4強の称号は、あと一歩というところで彼らの手から零れ落ちた。

 サバサバした表情で取材エリアに現れた大坪監督は、考えていたこの大会のプランニングをこう明かす。「目標は全国優勝だったので、やっぱり全国大会の大事な部分は、ここから3連戦じゃないですか。ここがスタートだと僕は思っていましたし、この“初戦”のところで出し切るのはもちろんなんですけど、3連戦で気持ちを切らさないとか、もう一度準備をしっかりしていくというところを大事にしていたので、ベスト8に入ったから気が抜けたということもなかったですね。ベスト4、決勝のところまで選手たちとはイメージを持って取り組んできました」。

 キャプテンの森も、この大会で感じた全国との距離を率直にこう語る。「高知高校としては全国でベスト8に来たのが初めてで、それはもう自分の代で行けたことが嬉しいですけど、自分としてはもっと上を見据えているところもあったので、“ベスト8止まり”だったなと。今日の試合も自分たちの決定機はそんなになかったですけど、相手に1本目の決定機を決められたというところで、全国のレベルや全国との差は知れました」。

 弟のMF市原大羅(2年)と“兄弟ドイスボランチ”を組んで奮闘した市原礼斗の言葉も興味深い。「自分は全然自信がないタイプなので、『全国大会に来てもやれるのかな』と思っていたんですけど、思っていたよりはやれましたね。技術の面では差を感じましたけど、フィジカル面ではあまり差を感じなかったので、全国大会はこれからの自信に繋がってくると思います」。

 また、昨年度の高校選手権で日本一に輝いた岡山学芸館高(岡山)と対峙し、14-13という壮絶なPK戦の末に勝利を収めた3回戦は、彼らにとって1つの指標になったようだ。「大会を通して1本の大切さを学べたこともそうですし、あのPK戦も含めて、最後の最後まで粘ることで自信を得た部分もあるので、非常に大きな経験になったのかなと感じています」(大坪監督)「あんなに長いPKも初めてだったんですけど、『自分たちは粘り強く戦えるんだ』ということがわかりました」(森)。

 自身も同校のOBとして高校選手権にも出場している指揮官は、この大会を通じて改めて感じたことがあったという。「実はOBや保護者の方が素晴らしい応援ムービーを作ってくださって、非常に良い雰囲気の中でゲームに臨めたので、今日はウチの選手も凄くモチベーションが高くて、それは凄く良かったなと思いますし、我々は高知県出身の選手がほとんどなんですけど、今は高知県が凄く育成に力を入れていまして、3種の先生方、高知中学校の素晴らしい選手を送ってくださっている指導者の方々に、ベスト8で負けたんですけど、ありがとうございましたという感謝の気持ちが大きいです」。

 全国8強までは体感した。ここから先の道は、より細く、険しくなっていくことは間違いないが、彼らはそこから先の景色に、果敢に挑むだけの価値があることももう知ってしまっている。

「行けそうで行けないのが、このベスト8とベスト4の間なのかなと。そこの間にある厳しさを、この大会で知れたことを選手権に生かしたいと思うので、選手権までにしっかりチームの力を上げて、国立に行きたいと思います」(森)「試合自体もメチャメチャ楽しくて、たぶん自分が一番楽しんでいたんじゃないかなって(笑)。その中で自分は思ったよりできたので自信も付きましたし、高知に帰っても自信を持ってプレーしたら、選手権には進化して戻ってこられると思います」(市原礼斗)。

 よじ登るべき壁が高ければ高いほど、それを制した後には、見たことのない世界が広がっている。わずかにではあっても、もうそれが見えかけてしまったからには、引き戻すことはできないだろう。高知高は間違いなく、次のフェーズへと足を踏み入れたのだ。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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