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6試合どう戦うか準備し、発揮した「前から」「終盤の強さ」。難局を乗り越えて「部員全員が勝って嬉しい」「応援されるチーム」になった明秀日立が新王者に輝く

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明秀日立高が初優勝

[8.4 インハイ決勝 桐光学園高 2-2(PK6-7)明秀日立高 花咲スポーツ公園陸上競技場]

 茨城県勢44年ぶり、同校にとっては夏冬通じて初の日本一。インターハイ出場4度目の明秀日立高が計6試合を勝ち抜き、新王者に輝いた。

 勢いだけじゃない、有力校をなぎ倒して勝ち取った初タイトルだ。19年大会優勝校で神奈川県の名門、桐光学園高との決勝は、開始4分で先制して勝利した準決勝・日大藤沢高(神奈川2)戦に続き、立ち上がりから自分たちらしく「前へ」。明秀日立は全国決勝で「練習でやるよりも良かったです。PKもそうですけれども、大舞台でも落ち着いているのは嬉しい誤算でした」(萬場努監督)という戦いを見せる。

 前半11分、FW石橋鞘(3年)が右サイドでタメを作り、呼応して抜け出した右SB長谷川幸蔵(3年)がマイナスのラストパス。ニアでFW熊崎瑛太(3年)がスルーし、最後は走り込んだFW柴田健成(2年)が左足で見事に決めた。

 また、前半19分に柴田が決めた追加点も中央で4人、5人と係ってのゴール。縦へのダイナミックな攻撃が印象的なチームだが、繊細さも持ち合わせる。ゴールシーン以外にもコンビネーションでの崩しを見せるなど、全国決勝で“トレーニング以上”を発揮し、2点を先取した。

 前半のうちにセットプレーで1点を返され、後半はシュート数1対7。16分に追いつかれた後もゴール前まで押し込まれるシーンが続いた。この試合が今大会6試合目の明秀日立に対し、桐光学園は5試合目。だが、CB山本凌主将(3年)が、「『1試合少ないとか自分たちには関係ない』と話していて、自分たちがどれだけタフに戦えるかだった」と説明したように、体力的に苦しい時間帯でも足を止めずに走り続ける。

 今大会、明秀日立は“高校年代最高峰のリーグ戦”プレミアリーグWEST首位・静岡学園高(静岡)との初戦から、関西大一高(大阪2)との2回戦、プレミアリーグEAST首位・青森山田高(青森)との3回戦、高知高(高知)との準々決勝と、いずれも後半の飲水タイム後に決勝点を挙げている。

“第4クウォーターの明秀”は桐光学園の鋭いドリブル突破を許していたが、各選手が最後まで身体を寄せて決定打を打たせない。そして、長谷川やMF大原大和(3年)、MF吉田裕哉(3年)がボールを奪い返して前へ。引かずに押し返して見せた。

 また、相手FWとの競り合いで苦戦していた山本が終盤、延長戦と気迫のヘッドでボールを跳ね返していた。その山本やCB飯田朝陽(3年)を中心に延長戦でも勝ち越し点を与えず、PK戦では指揮官も驚くような落ち着いたキックを連発。7人連続で成功すると、最後は2年生GK重松陽(2年)が止めて歓喜の瞬間を迎えた。

 優勝の要因について問われた萬場監督は、「一番の要因は6試合現実的にどう戦うか考えて来たことだと思います。自分たちのスタイルと相手のスタイルを組み合わせるかは多少なりとも用意してきたつもりだった」と説明した。

 1回戦で優勝候補の一角、静岡学園と対戦。また、勝ち上がっても3回戦で青森山田を突破しなければならない。山本が「1回戦、静岡学園でマジかと。勝ち上がっても山田かと。(組み合わせを見た時に)ここ(日本一)の景色を見えることは想像できていなかった」と当時の心境を明かしたように、難しい組み合わせ。今までだったら「当たって砕けろ」だったかもしれない。だが、攻守に力のある選手が揃う今年のチームは、静岡学園や青森山田にどう勝つか準備し、それを見事にやり遂げた。静岡学園に特長の強度で上回ったことを自信に、その後の戦いも真っ向勝負。走力を含め、自分たちの特長を全面に出しながら勝ち上がった。

 春の難局を全員で乗り越え、チームは変わった。4月、関東連覇を目指した茨城県予選でまさかの2回戦敗退。チーム内での問題も重なった。活動が制限される中、幾度も設けられた選手同士や、コーチとの間で話し合う機会。山本は「部活を運営するのはコーチたちじゃなくて、自分たちだと言われていて、その自分たちがどういう部活にしていきたいか、全員で話せるようになった」と振り返る。

 トレーニングよりも、サッカーに集中できる環境づくりを優先。選手たちは真剣に話し合い、どのような部活動にしていきたいか、徹底的に話し合った。そして、「試合に出ていない人たちも勝って嬉しい。部活動だけじゃなくて、地域の人からも明秀日立のサッカー部はちゃんとしているから応援したいと思われるようになりたい」(山本)と確認。チームにとって貴重となった期間を経て、主将は「良い形になった」と胸を張る。

 インターハイは県予選も、全国大会でも応援に駆けつけた控え部員たちが大応援でチームをサポート。彼らが北海道を後にした後も、明秀日立はベンチメンバーが印象に残るほど声を発し続けていた。「本当に出たいやつらでもチームのために動いてくれている。プレーにプラスにできた。ベンチメンバーに感謝しています」(山本)。青森山田に勝った後も、決勝前にも地元から多くの祝福や激励の声。ピッチに立っている選手だけでなく「全員が勝ちたい」と思い続け、勝ちながら成長した明秀日立の初優勝だった。

(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校総体2023
吉田太郎
Text by 吉田太郎

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