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不祥事による無期限活動停止から2年…近畿大サッカー部復活の道のり「僕らはやってない、ではない」

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リスタートを勝利で飾った近畿大

[3.21 第27回大阪サッカー選手権大会大学予選3回戦 大阪産業大0-1近畿大 J-Green堺S2フィールド]

 近畿大にとっては、1年半ぶりとなる公式戦。対戦相手の大阪産業大は昨シーズン2部リーグで優勝し、1部復帰を決めた力のあるチーム。立ち上がりから、押し込まれる展開となったが、11分に中島紳作(2年=近大附高)の直接FKを横瀬和葵(2年=近大和歌山高)がヘディングで決めて先制。最終ラインから丁寧にパスをつないで崩し、ゴールに迫る大産大に対して、粘り強く身体を張って守りきり、近大はリスタートを勝利で飾った。

 待ち望んでいた一戦を「緊張もあったが、感謝の気持ちと自分たちの足元をしっかり見れた。落ち着いて入れて、サッカーできる幸せを感じられた」と今季、主将を務める寺田樹生(3年=近大附高)も、笑顔を見せた。尾内伸行監督は「スペシャルなやつはいないけど、まずは守備をベースに、できることをしっかりとやろう」とチームを作ってきた。大前提である『切り替え・球際・運動量』に加えて、一体感と集中力で相手の圧力も跳ね返した。「先制点が大きかったのは間違いないけど、みんなで守りきれた」と寺田が言うように、全員が最後までハードワークして勝ちきった。

 20年10月に、所属部員の大麻使用が発覚。以降のリーグ戦は不戦試合となり、関西学生サッカーリーグの通年成績は最下位という扱いになり、2部へ降格。大学からは、無期限活動停止という処分が通達された。

 サッカーができる環境をとりもどすために、学生たちは大学が準備したコンプライアンス教育の受講だけでなく、部独自でも学ぶ機会を設けた。また、地域での清掃活動などのボランティアにも尽力し、21年8月にようやく大学から活動再開が認められる。しかし、コロナ禍で試合日程が逼迫していたこともあり、リーグ戦への復帰は22年度へ先送りとなっていた。

 寺田は「“僕らはやってない”ではなく、問題が起きたときに部にいた人間として、まずなにかできるかを考えてやってきた」と活動が制限された期間を振り返る。学生が主体となってミーティングを重ね、部則も改め、全員が『大学は、サッカーと学問に向き合うところ』という根本を深く理解して取り組んできた。学生たちのその姿勢に「助けられた」と話す尾内監督は、大学の強化対象から外れサポートが望めない中でも、選手たちがサッカーをするための環境と指導体制を整えた。OBでJリーグでの経験も豊富な馬場賢治も、コーチとして力を貸してくれることになった。

 小中高の指導者や仲間も、学生たちを支えた。特に近大附高では、大学生が練習のサポートにボランティアとして参加。これまで以上に附属高との連携は蜜になり、部員の真摯な様子を見てきた附属高の選手が、新年度には多く入部してくるという好循環につながった。

 試合会場に掲げられた『俺たちは常に挑戦者』という横断幕は、「チームとしてもリセットされて、もう一回、一から立て直すっていう。去年リーグにも参加できていないので、一番下から挑戦者として、チャレンジャー精神を持ってやろうと全員で決めた今年のスローガンです」と寺田が説明した思いがこもっている。再出発の試合は、その言葉どおりの試合内容で勝ちをおさめたが、目標である一部復帰にはまだ課題も多い。だが、チームとして皆で進んでいく一歩をようやく踏み出せたのだ。新生・近畿大サッカー部、ここからだ。

(取材・文 蟹江恭代)

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