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[関東2部]空中戦無双のグラディエーター。甲府内定を勝ち獲った山梨学院大DF一瀬大寿は「山梨の子どもたちの希望になる」

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甲府内定のグラディエーター、山梨学院大DF一瀬大寿(3年)

[4.30 関東大学L2部第4節 早稲田大 0-2 山梨学院大 早稲田大東伏見G]

 心のクラブへの帰還は、もちろん何よりも嬉しいことだ。でも、まだようやくスタートラインに立っただけ。ここからも自分の努力次第でどこまででも成長できることは、今まで辿ってきたキャリアがハッキリと証明してくれている。

「自分は他の選手よりプロとの差を早く感じることができましたし、プロの選手と一緒に練習して、自分に何が足りないかも感じることも多かったので、そういう準備が早くできること、その差を感じることができたのは凄く大きかったんです。それをこの大学生活でなるべく早く埋めて、在学中に少しずつJリーグの試合に出られれば一番いいですし、大学を卒業してからは、1年目から見ていても安心感を持ってもらえる選手になれればいいかなと思います」。

 2025年シーズンからのヴァンフォーレ甲府加入が決まっている、甲斐産のグラディエーター。山梨学院大DF一瀬大寿(3年=山梨学院高/甲府内定)の視線は、上へ、上へと、向き続けている。

 前節で順天堂大に劇的な逆転勝ちを収め、シーズン初勝利を飾った山梨学院大。その一戦でも決勝ゴールを叩き込んでいる、3番を背負ったセンターバックが早稲田大と対峙したこの日の一戦でも、実力の一端を逞しく披露する。

 まずは、その圧倒的な体格が目を引く。「大学生になってから『スピードとパワーは違いがあるな』と感じたので、トレーニングはしています。高校時代から体重も6キロぐらい増えましたね。ヴァンフォーレに練習参加した時に外国籍選手とも対峙して、体を鍛えなきゃなとも思ったので。ウタカ選手なんて重くて全然動かないですから(笑)」。

 山梨学院高のレギュラーとして日本一を経験した2020年度の高校選手権でも、空中戦の強さは際立っていたが、大学へ進学してからも身体の強さを守備時により生かすための鍛錬を積んできたことは、そのプレーを見れば容易に窺える。

 公式記録を見ると、山梨学院大が前半に記録したシュート数はゼロ。ファーストチャンスで先制した後半も攻め続けられる時間が続いたが、やはり一瀬の“跳ね返す力”は、ピッチの中でも際立つ代物だ。

 守備陣の奮闘に、攻撃陣も最終盤に応える。後半アディショナルタイムに追加点を奪い、終わってみればアウェイで2-0の勝利。「2部に上がってから楽しみもありながら、不安もあった中で、この勝利は自分たちの自信になるのかなと思います。開幕2連敗してから、自分たちは『もっと前から攻撃的な守備をしていこう』ということになったんですけど、その全員での意思疎通が結果に繋がっているので、チームとしても良い方向に向かっているのかなと思います」と口にした一瀬の、試合後に浮かべた安堵の笑顔が印象的だった。

 前述したように高校時代は日本一に輝いた経験を持っているが、そもそもその進路選択は決して望んだものではなかったという。「ヴァンフォーレのU-15からU-18には上がれなくて、県外の高校も選択肢として考えたんですけど、やっぱり『県内で一番強い高校に行こう』と思って、山梨学院に行きました」。

 小さくない挫折は、高校生の意識を変える。加えて身長が大きく伸び、ポジションもボランチからセンターバックへとコンバートされたことで、秘めていた能力が十全に発揮され始める。「U-18に落とされて、高校に入ってからはその悔しさを抱えてきたので、そこからいろいろな面で努力してきたことが、結果的にうまく成功したのかなと思っています」。

 高校卒業後も地元の山梨学院大に進学すると、1年時の終わりにはヴァンフォーレのキャンプにも参加。「やれる部分もあれば、やれない部分もありましたね。自分はあまりボールを回すチームにいたことがなかったので、ビルドアップの面は少し難しいかなとは思いましたけど、守備の面でやれる部分は多少あったかなという感じでした」と自身の長所と課題を見つめ直し、日々の向き合うべきトレーニングに還元していく。

 重ねた努力は、かつての古巣を振り向かせるには十分だった。まだ2年生だった昨年10月。2025年シーズンからの加入内定リリースが、ヴァンフォーレから発表される。

「こういう言い方がいいのかはわからないですけど、ある意味で見返せたというか、改めてヴァンフォーレが自分を欲しいと思ってくれたことが凄く嬉しかったですね。応援してくれる方もたくさんいるので、地元のクラブでプロになれることは本当に嬉しく思います」。

 クラブとしても異例とも言うべき、3シーズン後の加入内定。ただ、それだけで満足するような意識は、一瀬も持ち合わせていない。「今は危機感がありますね。プロになれたことは嬉しかったですけど、実際はここからが厳しい戦いになるわけで、個人としては今シーズンも正直納得の行くプレーがあまりできていないですし、去年から試合に出ているので、もっと自分から指示を出したりして、チームをまとめていきたいと思っています」。

「周囲からもプロ内定の選手というふうに見られるからこそ、『もっと今をやらなきゃいけないな』とも考えていて、そういう想いが努力できる方向に繋がっていくのかなとも思うので、この早い段階での内定をプレッシャーに感じるというよりは、自分が成長する上での糧にしていけたらなと思っています」。勝負はこれから。大学で圧倒的な存在にまで駆け上がり、胸を張ってプロの世界へ飛び込む覚悟を定めている。

 甲府で生まれ、甲府で育った、生粋の山梨県人。ゆえに自分が担うべき役割も、十二分に自覚している。

「自分も小さい頃からヴァンフォーレの選手に山梨県出身の選手が少ないなとは思っていて、山梨県はあまりサッカーのレベルが高くないと思っている小さい子も、もしかしたらいるかもしれないので、自分のようにちょっとずつ山梨出身の選手がヴァンフォーレでプレーすることで、子どもたちの希望になれればいいかなと思います」。

 山梨学院大が誇る、空中戦無双のハイタワー。地元の子どもたちに大きな希望を与える未来を夢見て、さらなる成長を望む一瀬の挑戦は、甲府の地でこれからも伸びやかに続いていく。



(取材・文 土屋雅史)
●第97回関東大学L特集

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