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日本一の価値を知るポジティブな「思考する守護神」。東海大GK佐藤史騎は与えられた場所で大輪の花を咲かせる

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エネルギーあふれる東海大の守護神、GK佐藤史騎(4年=青森山田高)

[10.14 関東大学L1部第17節 東洋大 2-2 東海大 東洋大朝霞G]

 この男が最後尾から発するポジティブなエネルギーは、いつだってチームメイトたちを奮い立たせていく。大胆さと、繊細さ。積極的なコミュニケーションと、礼儀正しい振る舞い。明るい笑顔と、厳しい怒声。いくつもの相反するものを合わせ持った人間性が、周囲に小さくない好影響を与えていく様子も、昔から変わっていない。

「ここから先も後悔のない日々にしたいと思っていますし、2年目から試合に出させてもらっている中で、今の自分があるのは監督、コーチ、チームメイト、家族のおかげだと実感しているので、その感謝を結果で表わしたいと思っています」。

 東海大のゴールマウスを任されてきた背番号1の守護神。GK佐藤史騎(4年=青森山田高)はここから突入する大学生活最後の2か月に向けて、強くアクセルを踏み込み始めている。

 東洋大と対峙したアウェイゲーム。東海大は立ち上がりから相手の勢いに圧され、ほとんど何もできないままに、前半だけで2失点を喫してしまう。だが、もちろん食らった2発への反省は感じていたが、佐藤はいち早くメンタルを立て直していたという。

「2失点してしまって、『もっとこうすれば良かった……』という反省はあったんですけど、キーパーが引きずっていてはチームとしても士気が落ちてしまいますし、次に来るボールに『もう失点しないぞ』という想いで向かえばいいと思うので、そこで『もう試合中なので切り替えていこう』と考えられるようになったのは、高校の頃よりメンタルの部分で成長したところかなとは思っています」。

 後半に入ると展開は一変。東海大の押し込む時間が長くなり、26分にFW藤井一志(4年=東海大高輪台高)が1点を返したことで、より勢いは増していく。そんな中で迎えた最終盤。42分に訪れた東洋大の決定的なチャンス。向かって左側に放たれた際どいシュートを、佐藤は横っ飛びで力強く弾き出す。

「あの場面は相手が身体で自分の右の方に打つフェイントをしてきて、最後まで読まないでボールに対応できたので、それは凄く良かったと思います」。守護神が魅せた渾身のファインセーブ。これが呼び水となり、アディショナルタイムに突入した45+2分に同点弾が生まれる。試合の流れを考えると、とにかく大きな仕事を果たした佐藤だが、自身の中ではそのプレーに対しても思うところがあったようだ。

「でも、もしあそこの場面でキャッチできたら、次のプレーに繋げていけたかもしれないですし、上のレベルに行くキーパーは、そういうちょっとしたことができるキーパーだと思うんですよね。止めて終わりではないですし、僕ぐらいの180センチぐらいのキーパーだと、そういうちょっとしたところで評価が変わってくるんです。大きくないキーパーは守備範囲の広さや1個のキャッチ、反応のスピードを見られるはずですし、そういうところで勝負していかないといけないので、そこにはこだわっていきたいですね」。



 以前よりディテールにこだわるようになったのには、はっきりとした理由がある。実は入学してからの3年間は、チームに専門のGKコーチがいなかったのだ。ゆえにGK陣でディスカッションを繰り返し、プレーを突き詰めながら、着実に成長してきた確かな実感が佐藤にはあるという。

「それこそプロの選手の動画を参考にさせてもらって、『もっとこういう動きがいいんじゃないか』とか、『今の自分には何が必要かな』とか、高校の時より自分で考えるようになりました。キーパーコーチがいないことは言い訳にできないですし、いつでも今与えられた場所で咲かなくてはいけないので、それはどこに行ってもそうだと思うんですけど、この3年間は自分自身で『これが正解なんじゃないか』といろいろ考えてきたことは大きかったですね」。

 今年からはGKコーチが週に2,3回のトレーニングを指導してくれているそうだが、自主的に様々なトライを繰り返してきたGK陣の絆の固さも、佐藤は強く感じている。「自分たちの結束には自信がありますね。キーパーコーチがいない中で、みんなでいろいろなことを話し合ってきたので、誰が試合に出ても応援しますし、やっぱり自分も応援される選手にならないといけないと思っているので、試合に出る人間には責任があるというところはしっかり意識しています」。

 Jクラブの練習参加は経験したものの、まだ正式なオファーが届くまでには至っていない。プロの世界で戦うことの厳しさは、青森山田高時代の同級生の動向からも十分に把握している。

「ヒデ(武田英寿)のプレーも、古宿(理久)のプレーも見ていますけど、やっぱりメチャメチャ活躍できているわけではないですよね。厳しい世界だとは思いつつ、自分は大学生で試合に出させてもらっている中で、悪いプレーの試合をできるだけ減らしていきつつ、良いプレーを出せる試合の数の平均を上げていかないといけないですし、さらに細かい部分にこだわってやっていくことを考えながら、毎試合、毎回の練習で反省しながらやっています」。

 そのシビアさを目の当たりにしているからこそ、ここからの進路に対する捉え方も潔い。「自分の中では働きながらサッカーすることは考えていなくて、後悔ない毎日を送った上で、それでプロになれないのなら仕方がないと割り切って、次の人生を歩もうかなと今は思っています。でも、絶対にプロになれないとは思っていないですし、大学生活が終わるまでいろいろなことを改善していかなくてはいけないとも思っているので、そこは最後まで諦めずに、謙虚な気持ちを忘れずに、頑張りたいです」。

 東海大でプレーできる時間も、あと2か月余り。このチームで大きく成長してきたからこそ、残された時間で成し遂げたいことも明確すぎるほど明確だ。「最低でも1部に残留しなくてはいけないですし、その次はインカレ圏内を狙っていきたいですし、1試合1試合を無駄にせず、後悔のないものにしたいという気持ちで毎日の練習に挑んでいます。あとはやっぱり大学4年目で、もちろんプレーでもそうですけど、チームを背中で引っ張っていかないといけないと思っていますし、それが4年生の責任なので、そういうところを強く意識しています」。

 高校時代にはプレミアリーグファイナルで日本一を味わい、大学でも『#atarimaeni CUP』の優勝メンバーに名を連ねるなど、頂点に立つ歓喜を仲間と共有してきた守護神。この男が最後尾から発するポジティブなエネルギーは、いつだってチームメイトたちを奮い立たせていく。ここからも佐藤は今まで通りの明るさとパワーで日常と向き合いながら、必ずチームと自身の未来を切り拓く。



(取材・文 土屋雅史)
●第97回関東大学L特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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