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[船橋招待U-18大会]鳥取の中体連から千葉の名門へ。市立船橋DF懸樋開が携える静かな情熱と野心

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市立船橋高DF懸樋開はレギュラー争いに挑戦中

[3.27 船橋招待U-18大会 市立船橋高 0-1 帝京長岡高]

 まさか自分がこんな強豪でプレーすることになるなんて、思ってもみなかった。でも、どうせ高校サッカーに身を捧げるなら、もちろんレベルは高ければ高いほどいい。ようやく手を掛け始めているレギュラーへの扉だって、ここまで来たらこじ開けない理由はない。

「自分は1か月ぐらい前までは全然レギュラーにも絡めていなくて、急にレギュラーになったんですけど、そこからは調子が良くて、ちょっとずつ感覚は掴めてきているかなと思います。センターバック、楽しいです」。

 鳥取の中体連から、千葉の名門へと単身で乗り込んできた挑戦者。堅守が伝統の市立船橋高(千葉)に台頭してきたセンターバック。DF懸樋開(新3年=鳥取市立東中出身)の加速度的な成長が、プレミアに向かうチームに新たなパワーを生み出している。

「全試合通して集中力は欠けていなかったとは感じているんですけど、ビルドアップで工夫ができていなくて、それを3日目では少し直せたかなと思います」。船橋招待U-18大会最終日。懸樋は強豪の帝京長岡高(新潟)戦でも、センターバックの位置でスタメン起用されると、得意のビルドアップで攻撃にリズムをもたらしながら、最後の局面では身体を張り続ける。

 意識しているのは“声”の重要性だ。「自分は2年生の頃まで、あまり声を出すタイプではなかったんですけど、3年生になってから監督に試合前のグータッチで送り出される時も『喋れよ!』と言われていて、それもあって喋ることを意識するようになったら、当たり前のように声を出せるようになりました。細かい指示はそこまでしていないので、声を出す内容どうこうというよりは、雰囲気が良くなればいいかなと思っています」。まずは喋ることから。意識は確実に変わりつつある。

 以前から自信を持っていたビルドアップの部分は、ある人の存在がさらなる後押しになっているという。「増嶋(竜也)コーチにビルドアップのやり方を教わって、少し得意になりました。あとは、提出したサッカーノートにも『縦パスの回数を増やせ』と書いてあったので、そこから縦パスをずっと意識していたことで、そこまで得意ではなかったんですけど、上手くなりましたね。自分で言うのもアレですけど(笑)」。やれることの幅が広がってきていることも、ハッキリと実感している。

 自分でも想像していなかった進路は、意外な形で繋がっていった。「中学校のサッカー部の監督と、その時は市船でGKコーチをしていた高橋(諭)さんが大学が一緒で、たまたま話が繋がって、こっちに来て練習試合に出させてもらいました。まだそんなに進路も決めていなかったので、急に行くことが決まった感じでした。たまたま市船が声を掛けてくれたので、『じゃあ行ってみよう』って」。

 実際に参加した練習試合は、そのスピード感と強度に面食らったものの、手応えがないわけではなかった。「練習試合はずっと走り続ける試合中の運動量がメチャメチャキツかったんですけど、話があった時から『市船に行きたい』と言っていましたし、強いところに行きたいとは思っていたので、県外へ出ることに抵抗はなかったです」。覚悟を決め、全国屈指の強豪校の門を叩く決断を下した。

 高校では入学時から、いくつかのポジションで試されてきたという。「自分は結構マルチプレーヤーで、高校に入った時はボランチだったんですけど、2年生で右サイドバックになって、去年の途中からセンターバックになって、今年になってそこに定着した感じです」。複数のポジションで得てきた経験を、すべて今のセンターバックにぶつけていると言っても過言ではない。

 ようやく見えてきたレギュラーへの道。もともと抱いていた大きな目標も、おぼろげながら視界に入ってきた。「自分は去年まで全然選手権にも絡めていなかったんですけど、やっぱり選手権はピッチに立つだけでもカッコいいなと思いますし、新チームになってから、全国制覇したいという気持ちが、より強くなりました」。もちろん一番高いところを目指さない理由もない。全国の頂点へ。そして、サッカーを始めた時から追求している、自分の“コンセプト”も同時に改めて再認識しているようだ。

「自分のコンセプトで、『エンジョイサッカー』というのを中学校からずっとやってきているので、楽しむことを忘れずに、サッカーを続けていければなと思います」。

 堅守イチフナの最終ラインに、突如として登場してきたニューカマー。懸樋の静かなる野心が、チーム躍進の一翼を担う可能性は、今のところ決して低くなさそうだ。

(取材・文 土屋雅史)

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