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[プレミアリーグEAST]「お互いへのリスペクト」と「逃げられない感じ」。市立船橋と流経大柏が積み重ねてきた唯一無二の関係性

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意地と意地のぶつかり合いはスコアレスドローで決着

[5.1 プレミアリーグEAST第5節 市立船橋高 0-0 流通経済大柏高 グラスポ]

 時代が変わっても、人が変わっても、受け継がれていくものは必ずある。20年近い歳月の中で、お互いがお互いを意識しながら、負けたくないと願い、勝ちたいと切望し、繰り返してきた歴史の重みが紡ぎ出す一戦は、いつだって特別だ。

 「『流経さんがいるから、我々も強くあり続けないといけない』というところはあって、そこは凄くありがたい存在ではありますね」(市立船橋・波多秀吾監督)「どこにもないと思うんですよね、市船と流経というこのカードのような試合は。これだけしのぎを削っていく中での、お互いへのリスペクト、逃げられない感じ、いいですよね」(流通経済大柏・榎本雅大監督)。

 日本一を目指す究極のライバル対決、2022年の第1ラウンドは両者譲らず。1日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第5節、市立船橋高(千葉)と流通経済大柏高(千葉)が激突した注目の一戦は、双方が決定機を作り合ったものの、最後までゴールは生まれず。スコアレスドローという結果になっている。

「ふたを開けてみたら『えっ?』と思いましたね」とは市立船橋を率いる波多監督。前節の柏レイソルU-18(千葉)戦に敗れた流経大柏は、ここまで採用してきた4-4-2ではなく、意外にも3-5-2のシステムで試合に入る。

「どこかでちょっと試したかったので、公式戦で試すのはどうかなと思ったんですけど、思い切ってそういう変化を起こしていこうかなと。試合内容は悪くないんだけど、勝ち点を落とすことが続いていましたし、ちょっと気分転換にもなるかなって」とは流経大柏の榎本監督。ただ、その指揮官も「今日は相手が4枚で来て、システムは合わなかったですけどね」と続けたように、市立船橋も前節まで2試合続けて敷いてきた3-4-2-1ではなく、4-4-2に戻してきたのだ。

 こちらに関しては「トレーニングをやって、紅白戦もやって、やはり自分たちがストレスなくやれるのが4-4-2だったので、『じゃあこれで行こう』という感じがありました」と波多監督。双方が“化かし合い”を講じたのも、試合前の導入としては非常に興味深い。

 前半はホームチームが勢い良く立ち上がる。「相手が流経で怖い部分もあったんですけど、勇気を持って前に出ようということで、懸樋(開)や藤田(大登)を中心に1個押し上げてラインを高くして、セカンドを拾えたという中で、前半は優位を取れていたと思います」とは2年生ながら市立船橋のキャプテンマークを託されているMF太田隼剛。前節の桐生一高(群馬)戦では重心が後ろに傾き、なかなか前に出ていけなかった反省から、この日はサイドも使いながら積極的なトライが増加。波多監督も評価を口にした右のDF佐藤凛音(2年)、左のDF内川遼(2年)の両SBも推進力に、攻勢の時間を作り出す。

 一方の流経大柏は「相手の勢いに押されたというのもありますけど、ちょっと後ろに重かったですね」と榎本監督。こちらはWBがやや押し込まれ、最終ラインが5枚気味に構える展開を強いられながらも、右からDF平川佳樹(3年)、DF萩原聖也(3年)、DF岡本亮太郎(3年)で組んだ3バックは安定感を発揮し、「前半はゼロでいいよと。最初は守備から入るよと」(榎本監督)いうコンセプトはきっちり堅持。28分に市立船橋がMF北川礁(3年)のFKから、ゴール前で見せた連続シュートも身体を投げ出してすべてブロック。前半は0-0で45分間が推移した。

 ハーフタイムを挟むと、後半はスリリングな攻防が続く。18分は流経大柏。キャプテンのDF大川佳風(3年)の右ロングスローから、こぼれを拾ったMF大沼陽登(3年)のシュートは市立船橋GK田中公大(3年)がファインセーブ。直後の左CKを投入されたばかりのMF小西脩斗(3年)が蹴り込むと、フリーで合わせたFW堀川大夢(3年)のヘディングはわずかに枠の左へ逸れ、本人も気合の坊主頭を思わず抱える。

 26分は市立船橋。左サイドをドリブルで運んだ郡司がマーカー2枚をぶち抜き、エリア内へ潜り込むも、決定的なシュートは「2人が抜かれてしまった時に、少しトラップがつまづいていたように見えた」という岡本が、全速力で戻りながら完璧なタックルで回避。33分にもFW青垣翔(3年)を基点に、内川の左クロスからFW丸山侑吾(3年)がシュートを枠内へ収めるも、ここは流経大柏GK木下晴喜(2年)がビッグセーブ。スコアは動かない。

 43分は市立船橋。北川が左CKを蹴り込み、郡司が枠に飛ばしたヘディングは、再び木下がファインセーブで応酬すると、これがこのゲーム最後のシュート。「3試合連続無失点で終われたのはチームとしてプラスなんですけど、流れの中から点が獲れないというのはチームの課題の1つだと思っています」(太田)「もちろんもっと強気でやって欲しいというのはあるんですけど、最近は失点が止まらなかったので、そういう部分では身体を張るとか、地味なことですけど、それができたことは収穫かなと思っています」(榎本監督)。どちらも守備の収穫と、攻撃の課題を得て、勝ち点1を分け合う形となった。

「こっちも全員目の色が違いますし、相手もやっていて目の色が全然違うなと思いましたし、言い方は悪いですけど、どっちも『目の前のヤツを絶対削ってやる』『コイツだけには負けられねえ』みたいな1人1人の想いがあって、流経戦は毎回楽しいゲームですね」と太田が口にしたように、真剣勝負の中にも選手たちが目の前の試合を楽しんでいる様子は、見ている側にも伝わってくるような90分間だった。

「もちろん千葉県のライバルとして、10年近くも選手権の決勝でずっと対戦しているチームとして、意識しないわけがないですけど、他の相手では出せないこの強度と緊張感の中で、どんなことができるのかなということは『ウチの未来』だと思っていますし、1つのミスが失点に繋がったり、それで選手権で負けたりすればそれが1年間重くのしかかりますし、そういう緊張感は凄く相手としてありますよね」(榎本監督)。

「いろいろなこの時代の流れで、公立高校だということだったり、環境面も含めた難しさが我々にはあるかもしれませんが、そうは言っても流経はずっと進化し続けていますし、強くあり続けているので、我々もそれに負けじといろいろなことを言い訳にせず、強くあり続けないといけないですし、勝ち続けないといけないなとは思っていますね。そういう意味では良いライバル関係なのかなと」(波多監督)。

 時代は、進む。あるいは両者の“バチバチ感”も、そこまで目に見える形では現れにくくなっているのかもしれない。それでも、この2チームを巣立っていく選手が、さらにその先のステージへと進んでいったとしても、思い出す過去の大事な風景として鮮やかな色彩を伴うのがこのカードであることは、間違いない。

「さっき選手にも言いました。『千葉県を盛り上げような』って。だから、こういう言い方をしたら語弊があるかもしれないけど、『市船には弱くならないでほしいな』って。やっぱり市船は市船、向こうから見れば流経は流経、その中で選手が育っていくと。もちろん波多にもこのままでいいとは思ってほしくないし、こういう中から日本を代表するような選手が生まれていく、この緊張感からそういうことが始まる、そういう関係にお互いがなれればいいかなという感じですよね」(榎本監督)。

 この日のグラスポから、日本サッカーの中心を担っていく選手が出てくることを、会場にいたすべての人が願っている。市立船橋と流経大柏が試合をするということは、すなわちそういうことだ。

(取材・文 土屋雅史)

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