[プレミアリーグEAST]「自分たちは強くない」。無敗の首位・川崎F U-18に土を付けたのは、この夏で足元を見つめ直した流通経済大柏!
[9.4 高円宮杯プレミアリーグEAST第13節 流通経済大柏高 1-0 川崎F U-18 流通経済大学付属柏高校グラウンド]
「こんなはずじゃなかった」と思うのは、もうやめた。今の自分たちの力を冷静に見つめ、自分たちの弱さを認めることで、やるべきことを明確にしてきたからこそ、ようやく結果が付いて来るようになってきている。その意識の変化が、無敗を続けていた首位撃破に繋がったのだ。
「自分たちの弱さを自覚しないと先に進めないという感じで、この夏は『自分たちは弱いぞ』とイチからやり直して強化してきました。だいぶキツかったですけど、ちゃんと事実を受け止めて、『もう開き直ってチャレンジャー精神でやるしかないな』って」(流通経済大柏高・萩原聖也)。
悔しさから学んできた流経大柏の逆襲は、ここから始まる。4日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第13節、流通経済大柏高(千葉)と川崎フロンターレU-18(神奈川)が激突した一戦は、後半4分に途中出場のMF佐藤瑠河(3年)が挙げた1点を守り切り、流経大柏が3戦連続となる1-0での勝利を掴み取る結果に。川崎F U-18はプレミアリーグ13試合目で、初の敗戦となった。
前半5分には川崎F U-18にいきなりの決定機。U-18日本代表にも選出されたFW五木田季晋(3年)が右サイドを抜け出し、放ったシュートは枠の左へ逸れたものの、約2か月ぶりとなるリーグ再開のゲームで、早くも先制への意欲を打ち出す。
ピンチを凌いだ流経大柏も、決して悪くない形でゲームを立ち上げる。「フロンターレは長いボールも上手く使ってくるので、ブロックを敷くところはちゃんと敷いて、行く行かないはハッキリさせました」とキャプテンのDF大川佳風(3年)が話したように、守備の意識は統一させながら、攻撃面でもボールを動かすところと速く攻めるところの使い分けもはっきりと。18分にはMF小西脩斗(3年)が左へ振り分け、DF今井祐樹(3年)のクロスからDF平川佳樹(3年)のヘディングは川崎F U-18のGK濱崎知康(2年)にキャッチされるも、両サイドバックのオーバーラップからチャンスを創出する。
ただ、少しずつ首位の勢いがホームチームを侵食していく。32分にはFKのこぼれを拾ったMF志村海里(2年)の左クロスに、ニアへ飛び込んだDF松長根悠仁(3年)のヘディングはわずかに枠の左へ。35分にもDF江原叡志(2年)、MF由井航太(2年)、DF浅岡飛夢(3年)と細かく繋ぎ、由井が枠内へ収めたシュートは流経大柏のGKデューフエマニエル凛太朗(3年)がキャッチしたものの、フロンターレらしいアタックでフィニッシュまで。
44分にも江原の右クロスから、浅岡のシュートはここもデューフがファインセーブ。「前半は後ろがしっかり抑えてくれていたので、0-0で終えたのは良かったですけど、本当にキツかったですね」とは大川。アウェイチームが押し気味に進めた前半は、スコアレスでハーフタイムへ折り返す。
ところが、先にスコアを動かしたのは耐える流経大柏。後半4分。素早い切り替えから大川を起点に、右サイドを駆け上がった平川が丁寧に中央へ折り返すと、後半開始からピッチに送り込まれた佐藤がニアへ潜りながら当てたシュートが、ゴールネットを確実に揺らす。交代策もズバリ。流経大柏が1点のリードを手にした。
ビハインドを追い掛ける川崎F U-18も、アクセルを踏み込み直す。8分にはMF大関友翔(3年)の左CKから、12分にはDF元木湊大(2年)のパスから、いずれもMF尾川丈(2年)が打ったシュートはどちらも枠外へ。18分には大関が右FKを絶妙のポイントに蹴り込み、松長根が完璧なヘディングで合わせるも、「最後まで自分の反応を信じて止まっていたら正面に来たので、慌てないで弾くことができました」と振り返るデューフがビッグセーブで立ちはだかる。
31分。元木、由井と回ったボールを、大関がシュートまで持ち込むも、流経大柏のCB川辺暁(3年)が果敢なブロックで防ぎ、大きな咆哮。終盤の40分にはピッチ右寄り、ゴールまで約20mの位置で獲得したFKを大関が低い軌道で直接狙うと、ここもデューフが丁寧にキャッチ。「ペナルティエリア付近で相手に持たれることは多いですけど、最近はコーチングでも正面に立てと言うのをやっていて、そうしたら自然と身体に当たったりするので、粘り強さは出てきていると思っています」とデューフが話したように、守備陣の高い集中力が掛け続けるゴールへの強固な鍵。
そして、5分間のアディショナルタイムが経過すると、試合終了を告げる主審のホイッスルがピッチに響く。「率直に凄く嬉しいですし、1点獲った時から『フロンターレに初黒星付けられるぞ!』と心の中で思いながらやっていました」(萩原)「相手は10何試合戦ってきて負けなしだったので、初めて土を付けられたのは本当に嬉しくて、ディフェンス陣がよくやってくれたなというのが一番です」(デューフ)「流経はこの勝ち方が合っていますよね。耐えて、耐えてという」(大川)。粘り強い戦いを完遂した流経大柏がウノゼロ勝利で、川崎F U-18に今季リーグ初黒星を突き付ける結果となった。
「正直シーズンが始まる前までは自分たちの前評判が本当に良くて、『今年の流経は強い』と。練習試合も負けなしで、流大にも勝って、本当に強いみたいになっていたんですけどね」と萩原が語った通り、シーズン前の流経大柏はプレミアリーグでも優勝候補と目されていた。だが、前期はなかなか白星に恵まれなかった上に、インターハイでも千葉県予選準決勝で日体大柏高相手に、0-3という屈辱的なスコアで敗退を突き付けられた。
「たぶん開幕当初は彼らも自信があったと思うんですよ。それがどんどん折られてきて、負けから学べないことがずっと続いていたんですよね。『たまたまでしょ』と言ったり、下を向いてしまったりと、やっぱり精神的な幼さからそれを受け入れられないと。心を閉ざすような感じだったんです」とその頃を振り返る榎本雅大監督が採ったスタンスは、『待つ』ことだったという。「この夏は選手たちが気付いて、答えを出してくるのを少し待とうと思っていたので、トレーニングもコーチに任せて、一歩下がったところから見ていたんです」。
キャプテンの大川も悩んでいた。「夏は凄く苦しんで、サッカーの部分もそうですけど、メンタル的な部分で言い合いがあったりして、チームがちょっと崩れかかっていたので、『この調子で行ったらちょっと危ないな』と思っていたんです」。チームとしての結果が出ないことで、トレーニングへ取り組む姿勢も選手によってバラつきがあったという。
そんな中で選手たちは、改めて現状の自分たちを客観的に見つめる必要性に迫られた。持っていたはずの自信と、何も成し遂げていない現実のギャップを認め、もう一度ひたむきにサッカーへ向き合うことを確認すると、少しずつではあるが全体の意識にも変化が訪れ始めている。
「夏前ぐらいまではやる選手とやらない選手が分かれていたんですけど、そこから各々が危機感を持ってやることで、上に行きたい選手はどんどん突き上げていけばいいですし、やれていなかった選手たちはもう這いつくばってでも上に付いていかないとダメだと気付いたので、そういうところをチーム全員で意識できているのかなと思います」と大川。ここに来て、ようやく流経らしい強度のトレーニングができてきているようだ。
信頼する斉藤礼音コーチに任せるところは任せ、全体像を俯瞰して見ているという指揮官は、自身の変化も感じている。「答えを与えないで様子を見て、どういうふうに成長するのかなと。選手も『あれ?教えてくれないの?』『やってくれないの?』ということで、自分たちでやるしかなくなる。そういうところが待つ楽しみかなって気付かされましたね。だから、最近は応援団みたいになっていますよ。『頑張れ!』『いいぞ!』って(笑)。前だったら『おい!』みたいに思っていたところも、『ん……、まあ、そういうこともあるよな』『頑張った結果だよな』って(笑)。そういうところで『待つ』ことの重要さを凄く今年は教わっていますね」。
大川はここからのチームの歩みを、ポジティブに予測する。「本当に夏は苦しい想いをしましたけど、それもプラスに捉えています。この夏は自分たちが強くなるための苦しい時期だったと感じているので、残された時間でも夏にやってきたことを思い切ってやれば、結果は出てくるかなと思います」。
苦しさから逃げずに、選手もスタッフもまずは自分たちと向き合ってきたこの夏の大事な時間が、導きつつある確かな結果。悔しさから学んできた彼らの逆襲は、ここから始まる。どの対戦相手にとっても厄介な流経大柏が、いよいよ帰ってくる。
(取材・文 土屋雅史)
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「こんなはずじゃなかった」と思うのは、もうやめた。今の自分たちの力を冷静に見つめ、自分たちの弱さを認めることで、やるべきことを明確にしてきたからこそ、ようやく結果が付いて来るようになってきている。その意識の変化が、無敗を続けていた首位撃破に繋がったのだ。
「自分たちの弱さを自覚しないと先に進めないという感じで、この夏は『自分たちは弱いぞ』とイチからやり直して強化してきました。だいぶキツかったですけど、ちゃんと事実を受け止めて、『もう開き直ってチャレンジャー精神でやるしかないな』って」(流通経済大柏高・萩原聖也)。
悔しさから学んできた流経大柏の逆襲は、ここから始まる。4日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第13節、流通経済大柏高(千葉)と川崎フロンターレU-18(神奈川)が激突した一戦は、後半4分に途中出場のMF佐藤瑠河(3年)が挙げた1点を守り切り、流経大柏が3戦連続となる1-0での勝利を掴み取る結果に。川崎F U-18はプレミアリーグ13試合目で、初の敗戦となった。
前半5分には川崎F U-18にいきなりの決定機。U-18日本代表にも選出されたFW五木田季晋(3年)が右サイドを抜け出し、放ったシュートは枠の左へ逸れたものの、約2か月ぶりとなるリーグ再開のゲームで、早くも先制への意欲を打ち出す。
ピンチを凌いだ流経大柏も、決して悪くない形でゲームを立ち上げる。「フロンターレは長いボールも上手く使ってくるので、ブロックを敷くところはちゃんと敷いて、行く行かないはハッキリさせました」とキャプテンのDF大川佳風(3年)が話したように、守備の意識は統一させながら、攻撃面でもボールを動かすところと速く攻めるところの使い分けもはっきりと。18分にはMF小西脩斗(3年)が左へ振り分け、DF今井祐樹(3年)のクロスからDF平川佳樹(3年)のヘディングは川崎F U-18のGK濱崎知康(2年)にキャッチされるも、両サイドバックのオーバーラップからチャンスを創出する。
ただ、少しずつ首位の勢いがホームチームを侵食していく。32分にはFKのこぼれを拾ったMF志村海里(2年)の左クロスに、ニアへ飛び込んだDF松長根悠仁(3年)のヘディングはわずかに枠の左へ。35分にもDF江原叡志(2年)、MF由井航太(2年)、DF浅岡飛夢(3年)と細かく繋ぎ、由井が枠内へ収めたシュートは流経大柏のGKデューフエマニエル凛太朗(3年)がキャッチしたものの、フロンターレらしいアタックでフィニッシュまで。
44分にも江原の右クロスから、浅岡のシュートはここもデューフがファインセーブ。「前半は後ろがしっかり抑えてくれていたので、0-0で終えたのは良かったですけど、本当にキツかったですね」とは大川。アウェイチームが押し気味に進めた前半は、スコアレスでハーフタイムへ折り返す。
ところが、先にスコアを動かしたのは耐える流経大柏。後半4分。素早い切り替えから大川を起点に、右サイドを駆け上がった平川が丁寧に中央へ折り返すと、後半開始からピッチに送り込まれた佐藤がニアへ潜りながら当てたシュートが、ゴールネットを確実に揺らす。交代策もズバリ。流経大柏が1点のリードを手にした。
ビハインドを追い掛ける川崎F U-18も、アクセルを踏み込み直す。8分にはMF大関友翔(3年)の左CKから、12分にはDF元木湊大(2年)のパスから、いずれもMF尾川丈(2年)が打ったシュートはどちらも枠外へ。18分には大関が右FKを絶妙のポイントに蹴り込み、松長根が完璧なヘディングで合わせるも、「最後まで自分の反応を信じて止まっていたら正面に来たので、慌てないで弾くことができました」と振り返るデューフがビッグセーブで立ちはだかる。
31分。元木、由井と回ったボールを、大関がシュートまで持ち込むも、流経大柏のCB川辺暁(3年)が果敢なブロックで防ぎ、大きな咆哮。終盤の40分にはピッチ右寄り、ゴールまで約20mの位置で獲得したFKを大関が低い軌道で直接狙うと、ここもデューフが丁寧にキャッチ。「ペナルティエリア付近で相手に持たれることは多いですけど、最近はコーチングでも正面に立てと言うのをやっていて、そうしたら自然と身体に当たったりするので、粘り強さは出てきていると思っています」とデューフが話したように、守備陣の高い集中力が掛け続けるゴールへの強固な鍵。
そして、5分間のアディショナルタイムが経過すると、試合終了を告げる主審のホイッスルがピッチに響く。「率直に凄く嬉しいですし、1点獲った時から『フロンターレに初黒星付けられるぞ!』と心の中で思いながらやっていました」(萩原)「相手は10何試合戦ってきて負けなしだったので、初めて土を付けられたのは本当に嬉しくて、ディフェンス陣がよくやってくれたなというのが一番です」(デューフ)「流経はこの勝ち方が合っていますよね。耐えて、耐えてという」(大川)。粘り強い戦いを完遂した流経大柏がウノゼロ勝利で、川崎F U-18に今季リーグ初黒星を突き付ける結果となった。
「正直シーズンが始まる前までは自分たちの前評判が本当に良くて、『今年の流経は強い』と。練習試合も負けなしで、流大にも勝って、本当に強いみたいになっていたんですけどね」と萩原が語った通り、シーズン前の流経大柏はプレミアリーグでも優勝候補と目されていた。だが、前期はなかなか白星に恵まれなかった上に、インターハイでも千葉県予選準決勝で日体大柏高相手に、0-3という屈辱的なスコアで敗退を突き付けられた。
「たぶん開幕当初は彼らも自信があったと思うんですよ。それがどんどん折られてきて、負けから学べないことがずっと続いていたんですよね。『たまたまでしょ』と言ったり、下を向いてしまったりと、やっぱり精神的な幼さからそれを受け入れられないと。心を閉ざすような感じだったんです」とその頃を振り返る榎本雅大監督が採ったスタンスは、『待つ』ことだったという。「この夏は選手たちが気付いて、答えを出してくるのを少し待とうと思っていたので、トレーニングもコーチに任せて、一歩下がったところから見ていたんです」。
キャプテンの大川も悩んでいた。「夏は凄く苦しんで、サッカーの部分もそうですけど、メンタル的な部分で言い合いがあったりして、チームがちょっと崩れかかっていたので、『この調子で行ったらちょっと危ないな』と思っていたんです」。チームとしての結果が出ないことで、トレーニングへ取り組む姿勢も選手によってバラつきがあったという。
そんな中で選手たちは、改めて現状の自分たちを客観的に見つめる必要性に迫られた。持っていたはずの自信と、何も成し遂げていない現実のギャップを認め、もう一度ひたむきにサッカーへ向き合うことを確認すると、少しずつではあるが全体の意識にも変化が訪れ始めている。
「夏前ぐらいまではやる選手とやらない選手が分かれていたんですけど、そこから各々が危機感を持ってやることで、上に行きたい選手はどんどん突き上げていけばいいですし、やれていなかった選手たちはもう這いつくばってでも上に付いていかないとダメだと気付いたので、そういうところをチーム全員で意識できているのかなと思います」と大川。ここに来て、ようやく流経らしい強度のトレーニングができてきているようだ。
信頼する斉藤礼音コーチに任せるところは任せ、全体像を俯瞰して見ているという指揮官は、自身の変化も感じている。「答えを与えないで様子を見て、どういうふうに成長するのかなと。選手も『あれ?教えてくれないの?』『やってくれないの?』ということで、自分たちでやるしかなくなる。そういうところが待つ楽しみかなって気付かされましたね。だから、最近は応援団みたいになっていますよ。『頑張れ!』『いいぞ!』って(笑)。前だったら『おい!』みたいに思っていたところも、『ん……、まあ、そういうこともあるよな』『頑張った結果だよな』って(笑)。そういうところで『待つ』ことの重要さを凄く今年は教わっていますね」。
大川はここからのチームの歩みを、ポジティブに予測する。「本当に夏は苦しい想いをしましたけど、それもプラスに捉えています。この夏は自分たちが強くなるための苦しい時期だったと感じているので、残された時間でも夏にやってきたことを思い切ってやれば、結果は出てくるかなと思います」。
苦しさから逃げずに、選手もスタッフもまずは自分たちと向き合ってきたこの夏の大事な時間が、導きつつある確かな結果。悔しさから学んできた彼らの逆襲は、ここから始まる。どの対戦相手にとっても厄介な流経大柏が、いよいよ帰ってくる。
(取材・文 土屋雅史)
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