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大怪我でインハイ欠場、自分との戦い…帝京のU-19代表候補左SB入江羚介は「できることはやった」5か月間を経て仲間との歓喜へ

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大怪我から帰ってきた注目左SB、帝京高DF入江羚介が残りの高校生活で躍動し、勝利に貢献する。

[10.8 高円宮杯プリンスリーグ関東1部第15節 帝京高 1-0 流通経済大柏高B 帝京大学グループ千住総合G]

「5か月、できることはやったという感じです。自分では『全然変わった』という感じですね」。名門・帝京高で1年時から先発を務め、今春にはU-19日本代表候補に選出されている左SB入江羚介(3年=FC東京U-15むさし出身)が、9月末に約5か月ぶりとなる公式戦復帰。復帰3試合目のこの日は、後半31分から交代出場した。

 入江は投入直後にオーバーラップから鋭いクロスを上げて会場を沸かせると、その後も1タッチの左足パスを3本4本と通す。4月の練習試合で足首の脱臼骨折と三角靱帯断裂、それに伴う腓骨骨折。長いリハビリを経て戻ってきた注目レフティーは、球際でガチャっと行ってボールを奪い、背後へのボールを的確にクリアするなどスムーズな動きで勝利に貢献した。

 復帰当初は身体の重さも感じていたというが、コンディションは一戦一戦向上中。川崎Fの元日本代表MF家長昭博がウォームアップ時に行う体幹トレーニングを取り入れている入江は、モチベーション高く準備し、ピッチ上で長期離脱の影響を感じさせないようなプレーを見せていた。「アップから集中して、自分でもできているのが、スムーズに試合に入れている要因かなと思っています」と説明。周囲からは「球際で無理しなくても」と助言されているというが、本人の考え方は少し異なるようだ。

「無理しているように見せないというか、もっと自分のプレーの質を上げれば、ガチャらないところもあると思うので、そこはやっぱり無理しないとかじゃなくて、自分のプレーの質がまだ足りていないという感じでフォーカスして試合のビデオとか見ています」と入江。自分が一つ速く判断できれば、厳しい接触を避けられるという考えだ。

 その上で、「試合なので、練習からガッツリ行って恐怖心を残さないように。選手権で自分が行けなくて失点とかしたら悔やんでも悔み切れないので、そこは迷惑かけ無いように自分ではやるようにしています」と説明した。

 入江は180cmの長身と高性能の左足を持つ大型レフティー。守備面の課題もあるが、質の高いビルドアップと対角へのロングキック、鋭いクロスは世代トップレベルだ。U-16、U-18、そしてU-19日本代表候補に選出され、Jクラブへの練習参加も経験しているレフティーの大怪我。飛躍の機会は失われ、目標とするプロも遠のいた。

 だが、入江には離脱していた5か月間を無駄にしなかったという自負がある。「全治5か月と言われて、怪我した時は辛かったです。でも、U-19代表候補行った時にフィジカルが足りないと感じて、フィジカルのところは変えたいと思っていたので、ここが良いチャンスかなと。体作りのところはトレーナーさんに協力してもらって、自分でもいろいろ調べて、やることがいっぱいあったので全然濃密な5か月で、無駄な日は1日も無かったです」。5か月間で筋力強化、体幹強化、食事改善、そしてランニングフォームの改善にも挑戦。その成果は早くも出ており、競り合いで身体がブレないようになっている。

 入江不在の期間、チームはプリンスリーグ関東1部で優勝争いを演じ、インターハイでは19年ぶりの決勝進出、準優勝。日本一へあと1勝にまで迫った。「怪我で辛かったのは足の痛みもあったんですけれども、メンタル部分は『怪我ってこんなにキツイのか』と思いました。(チームメートに)勝って欲しいと思っていたんですけども、『優勝なんかされたら、オレ、いる意味あんのかな』と思ってしまったり……一時期結構落ち込んだ時があって、難しかったですね」と振り返る。

 100パーセントの思いで仲間たちを応援できていない自分がまた、悔しかった。「トレーナーさんも親身になって話を聞いてくれて、『確かに応援するのは大事だけど、悔しいという気持ちは別に抑えなくても良いんじゃない?』とか、『悔しさを怪我期間、筋トレとかできることに費やすためのパワーに』『行動に変えて、自分が復帰した時にチームを助けられるように』……そういうのは本当にメンタル部分との戦いでもありました」。本気で自分のことを考えてくれた人々のお陰で入江は前へ。悔しさをエネルギーに変え、成長して戻ってくることを目指してきた。

 5か月間掛けて帰ってきた入江をチームメートは歓迎。「『待っていたよ』とか、プレー上手くいかない時も『気持ちは分かるから、腐らないで一緒に頑張ろう』と温かい声を掛けてくれた人もいましたし、『帝京に来て良かった』と思いました」。まずは待っていてくれたチームメートの信頼を勝ち取ることからスタートだ。

 日比威監督は「リンクしてくれれば、(入江は)途中からでも脅威になると思う」と期待。。不在期間に左SB島貫琢土(3年)が抜群の運動量と守備力を武器に欠かせない存在に成長したが、入江はその島貫を超えて必ずスタメンを奪還し、チームが今夏できなかった「あと1勝」に貢献する意気込みだ。

 最後の1年間はあっという間にあと3か月。だが、その3か月に思いを集約し、悔いなく次のステージへ進む。「復帰してから、2、3か月くらいしか無い。期日が自分の中で結構短いので、気持ちは他の人たちよりも何倍も入っているつもりでいる。集中して楽しんで、サッカーを。そして、悔いの残らないように、自分が優勝に導けたらなと思います」。この冬への思いは誰にも負けない。自分と向き合い、地道に成長してきた大型左SBがこれから1試合、1分でも多く戦い、勝利し、全力で仲間たちと喜ぶ。

(取材・文 吉田太郎)
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