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定めたのは「絶対に勝ちたい」という泥臭い覚悟。近江は激しい打ち合いを4-3で制してC大阪U-18の開幕連勝を3でストップ!

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近江高セレッソ大阪U-18との打ち合いを制して2連勝!

[4.23 高円宮杯プリンスリーグ関西1部第4節 近江高 4-3 C大阪U-18 近江高校第2G]

 2度に渡って追い付かれても、終盤は一方的に押し込まれても、意識だけは決して後ろ向きに下がらなかった。4つのゴールを奪い切り、タイムアップの瞬間までファイティングポーズを取り続けたその姿勢は、彼らが定めた“覚悟”とも言い換えられるだろうか。

「自分たちは監督から『覚悟を決めろ』と言われていて、最後は『やられたくない』『絶対に勝ちたい』という気持ちで上回れたのかなと思います。最高の勝ち方でしたね」(近江高・金山耀太)。

 開幕4連勝を狙う桜のタレント集団を止めたのは、泥臭く、前向きに戦い抜いた湖国の野武士集団。23日、高円宮杯 JFA U-18サッカープリンスリーグ 2023関西1部第4節で近江高(滋賀)とセレッソ大阪U-18(大阪)が対戦し、FW小山真尋(3年)とFW荒砂洋仁(3年)が2点ずつを叩き出した近江が、C大阪U-18の反撃をかわして4-3で勝利。先週末のガンバ大阪ユース戦に続いて、大阪のJクラブユース相手に連勝を飾っている。

 “殴り合い”を仕掛けたのはホームチームだ。「今週は監督から『前向きの矢印』という話があって、ゴールに向かう姿勢を出し続けることをこだわってやってきました」とキャプテンのDF金山耀太(3年)が話した通り、4分には細かいパスワークから小山が、6分にはCKからDF里見華威(3年)が際どいシュートを放つと、やはり6分に右サイドからMF山門立侑(3年)が放ったシュートは、C大阪U-18のGK青谷壮真(3年)が弾き出したが、「こぼれは絶対にいつも狙おうと意識している」という小山が泥臭くプッシュする。いきなり実った『前向きの矢印』。近江が1点のリードを奪う。

 ただ、開幕から3連勝中のC大阪U-18もすぐさま反撃。9分には高い位置で相手ボールをFW首藤希(2年)が引っ掛けて、そのまま左へラストパス。FW小野田亮汰(1年)が冷静なフィニッシュを沈め、スコアは1-1に。さらに31分には鋭く仕掛けたMF西川宙希(2年)がペナルティエリア内で倒され、PKを獲得する。自らキッカーを務めた西川は左スミを狙ったが、ここは近江のGK山崎晃輝(2年)が素晴らしい反応でファインセーブ。勝ち越しは許さない。

 34分には右サイドを果敢にドリブルで運んだMF鵜戸瑛士(3年)の丁寧なラストパスに、「キーパーがちょっと出てきていたので、トラップするよりもダイレクトの方がいいかなって」と振り返る荒砂のワンタッチゴールで近江が勝ち越すも、38分にはU-17日本代表候補のMF木實快斗(2年)のスルーパスから、首藤がGKとの1対1を冷静に制して同点に。奪い合うゴール。やり合う両者。

「失点しても、ディフェンス陣が『後ろが守るから思い切って前に行ってくれ』と言ってくれたので、攻撃陣も思い切ってやれました」(荒砂)。“どつきあい”は続く。42分。左サイドで仕掛けた山門のクロスから、こぼれ球に反応した荒砂のシュートがゴールネットを揺らす。3-2。お互いが攻め合った前半は、近江が1点をリードして45分間が終了した。

 彼らは3点を獲っても、満足なんてしていなかった。後半10分は近江のサイドアタック。右サイドを駆け上がった鵜戸がクロスを上げ切ると、「鵜戸とはクロスの練習をしていて、あそこで目が合ったので飛び込むだけでした」という小山は飛び出したGKともつれたものの、目の前に転がったボールを気持ちでゴールへ押し込む。4-2。この試合で初めて近江がリードを2点に広げる。

「どんどん前に前に仕掛けて、人が追い越してという近江のチームの勢いに受けに回ってしまって、そこで失点が増えたところはあったと思います」とMF清水大翔(3年)が話し、「最初の失点でみんなが前に前にとなってしまって、守備に使う枚数も少なくて、切り替えのところも遅かったですね」とMF皿良立輝(3年)も言及したC大阪U-18は、追い込まれた最後の20分でようやく目を覚ます。

 26分に木實が放ったシュートは、山崎がファインセーブで応酬。34分には清水のパスからDF藤井龍也(2年)が思い切り良く狙ったミドルはクロスバーを叩き、その流れから首藤が打ち切ったシュートは左ポストにヒット。35分にも途中出場のMFエレハク有夢路(2年)が右へ流し、後半開始から投入されていたMF橋本生輝ミラーン(2年)の枠内シュートは、ここも山崎がファインセーブで凌ぐも、「相手に目を覚まさせられたというか、後半になって変わっていきましたね」と島岡健太監督。ゴールと勝利への執念を前面に打ち出していく。

 猛攻の結実は37分。エレハクが完璧なスルーパスを繰り出すと、「絶対にポジションを譲りたくないという感じになってきていますね」と指揮官もその意欲を認める首藤が鮮やかなシュートをゴールへ滑り込ませる。4-3。とうとうスコアは1点差に。残された時間は10分あまり。激しい打ち合いはいよいよ最終局面へ。

 押し込み続けるC大阪U-18。それでも「いつも練習から監督にも『泥臭く戦え』と言われている」(小山)近江も、DF西村想大(3年)を中心に粘り強く、執念深く、相手の攻撃に食らい付き、決定的なチャンスは作らせず、1分ずつ、1秒ずつ、時間を潰していく。

「最後はもう“技術”対“魂”の試合でしたね」と表現したのは近江を率いる前田高孝監督。4分間のアディショナルタイムが終わり、勝利の咆哮に包まれたのは“技術”のアウェイチームを1点だけ上回った、“魂”のホームチーム。「最初に東山が負けて、近大付属が負けて、阪南が負けていたので、『オマエら、高校サッカーの最後の砦やで。簡単に負けんとこうや。行こうや』という感じで入った試合でした」(前田監督)。最後の砦としての意地も見せた近江が、ハイスコアの“殴り合い”を制して、C大阪U-18の4連勝を阻止。勝ち点3を堂々ともぎ取った。

 前田監督の話が興味深い。「この1週間彼らに言っていたのは“覚悟”なんですよね。月曜と火曜のトレーニングは結構良かったんです。ただ、水曜日は遠足で1日オフになって、木曜のトレーニングが僕には何となく『セレッソに勝てたらいいな』『勝ち点1でも悪くないんじゃないか』と、そういう雰囲気を感じたんです。『そうじゃない』と。『セレッソに対して本当に勝ち点3をもぎ取るようなスタンスでやらなかったら何も残らない』という話をしました」。

 その言葉は自身の反省から来ていたという。「2節は興國相手に前半はボールを持たれることが多くて、その中でも1点を獲れたので、後半に入った時に少しブロックを作ってから行こうとしたんです。そこから2点を獲られて負けたんですけど、その時に彼らのモチベーションや行こうとする物凄く前向きな気持ちに、僕がふたをしてしまったような感じもしていて。だから、今日は逆に彼らの背中を少し押せたというか、やり合おうとハッキリしたかなというのはありますね」(前田監督)。

 奇しくも興國高戦と同じ1点をリードして後半に突入したが、“前向き”な意欲を失わずに4点目を奪い取ったのは、2週間前の反省を生かした形。「開幕戦とその次の試合よりも、チームとして前の意識が出てきたので、そこから4点に繋がったと思います」(荒砂)「試合前に『前から行こう』という話はして、裏返されて失点することもあったんですけど、『自分たちは得点できる』という自信はあったので、そういう声を掛け合いながら勝てて良かったと思います」(金山)。選手たちも確かな手応えを掴んだようだ。

 G大阪ユース、C大阪U-18という強豪を撃破してみせた今年のチームに対する、前田監督の見方も独特だ。「先が読めないというか、毎年読めないんですよ。最終的にこういう姿に持っていきたいという終着点も僕の中にはなくて、逆に彼らがどうなっていくのかなって。1日1日が彼らとの勝負ですし、その瞬間でしかいろいろなことを感じられないので、選手権の時にどういう姿になっているかは見えてこないですね(笑)。むしろそういうものを見ようとした瞬間に、彼らの可能性や持っているものを狭めてしまうような気がしますし、『こういうチームだ』という言葉1つで括れば、それだけで終わってしまうような気がしますし、ホンマに期待50パーセント、不安50パーセントみたいな感じなので、どっちに転ぶかはわかりません(笑)」。

 つまりはここから進む道の行く先は、誰にもわからないということ。だが、この日の90分間を見る限り、まだ新シーズンに足を踏み出したばかりの近江が、見る人を楽しませるような色彩豊かな“オフロード”を進み始めていることだけは、間違いなく言えそうだ。



(取材・文 土屋雅史)
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