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2点差を追い付いた神戸U-18と追い付かれた鳥栖U-18が考える「勝ち点1にどういう意味を持たせるか」

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後半ATにヴィッセル神戸U-18が土壇場で追い付く

[4.22 高円宮杯プレミアリーグWEST第4節 神戸U-18 2-2 鳥栖U-18 いぶきの森球技場 Cグラウンド]

 やはり勝ち点3を獲るということは、簡単なことではない。それは昨シーズンのチャンピオンチームでも、あと一歩及ばなかった2位のチームでも。だからこそ、この日手にした勝ち点1に大きな意味を持たせるには、これからどう戦っていくかが何よりも重要だ。

「“勝ち点1”はその日はダメージがあるんですけど、のちのち効いてくるというのは去年感じたので、これが引き分けで良かったと思えるように、今日は悔しいですけど、また巻き返していきたいなと思っています」(神戸U-18・安部雄大監督)。

 両者に勝ち点1ずつを振り分ける、土壇場で巻き起こったドラマ。22日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグWEST第4節、昨シーズン2位のヴィッセル神戸U-18(兵庫)と前年王者のサガン鳥栖U-18(佐賀)が対峙した一戦は、鳥栖U-18が2点を先行しながら、1点を返した神戸U-18は後半45+3分にキャプテンのMF坂本翔偉(3年)が執念の同点弾を叩き込み、2-2のドロー決着となった。

 試合は開始2分で動く。鳥栖U-18は右サイドで獲得したCKをレフティのDF林奏太朗(3年)が蹴り入れると、最後は混戦の中からMF鈴木大馳(2年)が粘り強くボールをゴールネットへプッシュ。連敗を2で止めたいアウェイチームが、まずは1点のリードを奪う。

「監督から入りのところの課題はずっと言われていたんですけど」とFW有末翔太(3年)も話した神戸U-18はビハインドを追い掛ける展開に。14分には左サイドを有末が運び、こぼれを狙ったFW高山駿斗(3年)のシュートは、鳥栖U-18のDF松川隼也(3年)が体でブロック。19分にもFW大西湊太(1年)の右クロスから、ここも高山が叩いたシュートは枠の上へ。DF山田海斗(2年)とDF島佑成(1年)、中盤アンカーのMF藤本陸玖(1年)のトライアングルを軸にボールを握る時間を長く作るも、なかなかゴールには至らない。

 一方の鳥栖U-18は前線からFW山崎遥稀(2年)がプレスを掛け、セカンドボールもMF先田颯成(3年)とMF堺屋佳介(3年)を中心にきっちり回収しつつ、縦に速いアタックに活路。21分には左サイドバックに入ったFW増崎康清(3年)を起点に、先田、鈴木とスムーズに繋ぎ、増崎が放ったシュートは枠の右へ逸れるも、前半は1-0のままでハーフタイムへ折り返す。

 後半も大きな構図は変わらない中で、セットプレーがゲームを動かす。12分。左サイドで鳥栖U-18が手にした間接FK。スポットに立った増崎が少し動かし、林が柔らかく上げたクロスがファーへ届くと、フリーで飛び込んだ先田のヘディングはゴールネットへ到達する。「康清がパスして、奏太朗が蹴るというのはちょっとビックリしたんですけど、メチャメチャ良いボールが来たので、あとはコースを狙って当てるだけという感じでした。完璧でしたね」と自ら振り返るキャプテンの完璧なセットプレーが飛び出し、リードは2点に広がった。

サガン鳥栖U-18はMF先田颯成(3年、7番)のゴールで2点をリードする!


「0-1の状況で交代を準備していた矢先だったので、『ああ……』とは思ったんですけど、ちょっと軽率な失点でしたね」と口にした安部監督は、結果的に2点のビハインドを負ったタイミングで2枚替え。DF廣畑俊汰(3年)とFW渡辺隼斗(1年)を同時投入して、サイドに張り出させていた有末を再びトップへスライドさせると、この采配がのちのドラマを呼び起こしていく。

 28分。神戸U-18は左サイドでDF江口拓真(3年)を起点に、駆け上がった廣畑が中央へ戻すと、「良いところに俊汰がパスをくれて、相手があまり来ていなかったので、もうシュートを打とうと決めていた」という有末が思い切りよくフィニッシュ。渡辺に当たってコースが変わった軌道は、ゴールへと滑り込む。2-1。たちまち点差は1点に。

 2点リードした時点で、FW與座朝道(2年)の惜しいシュートがポストを叩くなど3点目を奪えなかった鳥栖U-18は、「ボールを持つ意識はあったんですけど、相手が前から来ていることもあって、風向きも風下でしたし、前に蹴って拾うという、その一辺倒だったかなとは思います」と先田。1点を失った後もボールを動かし切れず、相手の攻撃を受け続ける時間が長くなっていく。

 意地を見せたのはクリムゾンレッドのキャプテン。最終盤の45+3分。神戸U-18の左FK。キッカーの藤本が「試合の終わりでもあって、『ここで決めないと』という感じやったので、緊張はしましたけど、練習通りに蹴れました」というキックを中央へ送ると、突っ込んだ坂本のヘディングはGKも弾き切れず、ゴールの中へ転がり込む。「前節は負けて終わってしまっているので、最後は『勝ち点1は獲って終わろう』という感じでした」というキャプテンの劇的な同点ゴール。咆哮するホームチームに、崩れ落ちるアウェイチーム。2-2。いぶきの森の激闘は、引き分けという結末を見た。

 試合後に珍しく怒声を上げていた鳥栖U-18の田中智宗監督は「結果だけ見ると勝ち切りたかったですけど、内容を見た時に、正直頑張っているだけで何もできていないので、逆に勝ち点を拾ったのはウチかもしれないなと思います」と厳しい視線をチームに向ける。

 プレミアWESTを制した昨シーズンも、彼らは終盤戦で勝利が遠い時期を経験している。「1点返されたら、ちょっと去年のあの頃が甦るところがあって、今日も『ここが大事だぞ』という声を出しながらやっていたんですけど、あそこで追い付かれるのがこのリーグ戦の難しさなのかなと思います」と話した先田は、それでも「勝ち切れないところはまだまだこのチームの弱さなのかなとは思っているんですけど、コツコツやっていくしかないかなと考えています」と前を向く。

 もともとプレシーズンからケガ人が多数出たことで、チームの骨格が定まらず、「正直色々なことを今になって試しているのが現状なので、どういうものが自分たちの攻撃の形なのかというものが今は全然ないですね」と指揮官も頭を悩ませているものの、やはり複数の選手が指摘したように、ボールを持つ時間を増やし、攻撃する時間を増やすことは、守勢に回る時間を減らすという意味でも喫緊の課題だろう。

「今の状態だったら、このまま行くか、ここから上がるしかないですからね」と苦笑した田中監督は「これがリーグ戦だと感じていますし、苦しくてもまた次の週に向かわなくてはいけないので、この中で強くなっていくしかないかなと思っています」と、やはり視線を前に向ける。もどかしい試合が続く王者は、次節以降の巻き返しを期す。

「試合に出ているのが1年生や2年生ばかりなので、『これが3年生だぞ』というところが見せられたと思います」と同点ゴールの坂本が言及したように、この試合の神戸U-18はプレミアデビューのGK亀田大河(1年)やMF濱崎健斗(1年)、同点アシストの藤本を含め、5人の1年生がスタメンに名を連ねる一方で、3年生のスタメンは4人のみだったが、結果的に2つのゴールを沈めたのはいずれもその最上級生だった。

 追撃の1点を奪った有末が「1年生が多く試合に出ている中で、3年生がもっとやらなあかんという気持ちもあるので、もっと自分が絶対的なストライカーにならないといけないと思います」と言葉に力を込めたのに対し、「3年生は練習から引っ張っていってくれますし、自分のミスもカバーしてくれる優しい先輩たちですけど、試合の中でああいったプレーというのは見習わないといけないですし、自分も『あの人たちを超えていかないとな』とは思いました」と語ったのは藤本。ポジティブな形でチームの輪が広がりつつある現状が窺える。

 安部監督の言葉が印象深い。「ここに来ていない3年生もたくさんいますけど、彼らもプライドがあるでしょうし、『最後はオレらが守ってやるし、責任を取るから、1年生はやってこい』というぐらいの気持ちを持って、良い形で切磋琢磨してほしいですね。お互いが意地の張り合いやプライドの張り合いみたいになってしまうことはチームとしてあってはいけないので、そういう意味では3年生が活躍してくれて、1年生が頼りにしてくれたら良い循環になるんじゃないかなと思います」。

 最後に坂本が噛み締めるような口調で、こう言った。「勝ちたいですね」。リーグ戦はまだまだ序盤。下級生の勢いと、3年生のプライドと。神戸U-18に広がりつつあるポジティブな『意地の張り合い』は、きっとグループの勝利を希求するエネルギーを、より高めていくはずだ。



(取材・文 土屋雅史) 
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