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チームに広がり始めた「本気の熱量」。修徳は延長の末に駒澤大高を振り切って18年ぶりの関東大会へ!

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修徳高駒澤大高を延長で撃破して関東大会出場権獲得!

[4.29 関東高校大会東京都予選準決勝 修徳高 1-0(延長) 駒澤大高 駒沢第2]

 やることは大きく変わっていない。志向しているサッカーも、トレーニングの構築も、自分たちの信じることをとにかく貫いてきた。では、なぜ今年のチームはこの結果を出せたのか。それはどうやら“本気の熱量”に満ちているから、のようだ。

「自分のサッカー人生の中でも、このチームはサッカーに対する熱量が多いというか、選手もスタッフも熱量が凄い人たちがたくさんいますし、練習の雰囲気から勝負にこだわってやるところには着手してやってきたので、こういう成果が出てきているのかなと思います」(修徳高・島田侑歩)。

 100分間の激闘を逞しく勝ち切って、手繰り寄せた関東大会行きの切符。令和5年度 関東高等学校サッカー大会 東京都予選は29日に準決勝を行い、修徳高駒澤大高の一戦は拮抗した好勝負に。最後は延長前半にFWンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄(3年)が決勝ゴールを叩き出し、修徳が1-0で勝利。実に18年ぶりとなる関東大会への出場権を獲得した。

 先にペースを掴んだのは駒澤大高。前半8分にMF中澤聡太(3年)の右CKから、DF若田澪(3年)が打ち込んだヘディングはゴール右へ。10分にはFKの流れから、中澤の右クロスにDF渋谷唯人(3年)が頭で合わせたシュートも枠を外れたが、中澤とMF菊池遥人(3年)のドイスボランチを中心にボールアプローチも速く、馬力のあるFW森山真人(3年)とFW岸本空(2年)の2トップをシンプルに生かしてセットプレーを奪っては、相手ゴール前に迫っていく。

 一方、「ビルドアップもどこに活路があるのかも難しかったですし、背後に行きたい選手もいたり、足元で崩したい選手もいたり、意志疎通が少しバラバラでした」とキャプテンのDF島田侑歩(3年)も話した修徳は、DF山口春汰(3年)、DF富樫匠(3年)の両センターバックと、中盤アンカーのMF橋本勇輝(3年)でボールを動かしに掛かるものの、なかなかシビアなゾーンにパスを差し込めない。

 26分には駒澤大高が中盤でボールをかっさらい、森山が放ったミドルは枠の左へ逸れるも、前線と中盤のプレスも効果的に機能。40分は修徳。右サイドで獲得したCKをMF小俣匠摩(3年)がショートで蹴り出し、受けたンワディケのクロスに突っ込んだFW大畑響道(3年)のヘディングはわずかにゴール右へ。前半はスコアレスのままで40分間が終了した。

 修徳の吉田拓也監督はハーフタイムに動く。後半開始からDF平山俊介(3年)とMF高島陸(2年)を同時投入。「自分たちの良さを出したかったので、『もう引っ掛けてもいいからやろうぜ。ビルドアップしようぜ』というメッセージ」を2枚替えに滲ませる。

 ペースは反転する。「代わって入った選手がうまく表現してくれて、そこに乗っかっていけたと思います」とは島田。センターバックに入った平山のドリブルでも縦に持ち出すような積極性と、ボールを引き出す高島とMF牧村光世(3年)のモビリティが修徳に勢いをもたらし、前半は少なかったサイドアタックにも勢いが。右のDF高橋夏輝(3年)、左の島田と両サイドバックの攻撃参加も増加していく。

 後半7分に相手のパスミスをさらった大畑のシュートは、枠の左へ外れるも好トライ。21分にもFW田島慎之佑(3年)の左FKに、ファーに潜った山口のシュートは駒澤大高GK長野真也(3年)が何とかキャッチ。28分にもゴールまで約25mの距離で得た左FKを途中出場のMF澤田瑠偉(1年)が直接狙い、軌道はゴール左へ消えるも、「ちょっと個性が見えてきた」(吉田監督)アタックを打ち出し続ける。

 だが、駒澤大高の守備も堅い。広範囲に守れるDF山口航生(3年)と、とにかく空中戦に強い若田のセンターバックコンビは抜群の安定感を誇り、さらに亀田雄人監督はサイドハーフで走り続けたDF堀口大介(3年)とFW北畠遥人(3年)に代えて、MF秋元心太(3年)とMF内田龍伊(2年)を投入して守備強度を担保。駒澤らしいインテンシティで対抗し続ける。

 33分は駒澤大高に決定機。深い位置からDF平井涼真(3年)が蹴り込んだFKに、高い打点で舞った若田のヘディングがゴールを襲うも、ここは修徳GK小森獅音(3年)がビッグセーブで応酬。36分は修徳に決定機。カウンターから高島が左へ振り分け、田島のピンポイントクロスをンワディケがフリーで当てたボレーは、枠を捉えられない。80分間で決着は付かず。勝敗の行方は前後半10分ずつの延長戦に委ねられる。

 主役をさらったのは、やはり9番のストライカー。延長前半4分。右サイドで中央を見た高島が絶妙のクロスを上げると、ンワディケはもう確信していた。「クロスが上がった瞬間に、もう入るのはわかりました」。頭で叩いたボールがゴールネットを揺らすと、応援団の元へ一目散に駆け出していく。「この大会の修徳は今まで応援団がいなくて、今日初めて応援してくれたことが嬉しかったので、あそこまで行きました」と笑ったエースの先制弾。修徳が一歩前へ出る。

 駒澤大高も諦めない。延長後半1分。右サイドをドリブルで運んだ岸本のクロスに、飛び込んだ内田のヘディングは、投入されたばかりの修徳DF森一真(3年)が決死のブロック。最終盤の10+1分。右サイドからFW金子莉生(3年)がクロスを上げ切り、MF西村文汰(3年)が果敢に走り込むも、飛び出した小森が丁寧にキャッチすると、程なくしてタイムアップの笛が鳴り響く。

「まだ優勝はしていないので、そこは満足していないですけど、関東大会出場を勝ち獲れたことは嬉しいです」(島田)。激闘のファイナルスコアは1-0。修徳が粘る駒澤大高を振り切って決勝へと進出。関東大会へと出場する権利も同時に手にする結果となった。

 就任3年目となる吉田監督の前職は、修徳中学校サッカー部の監督。今年の3年生の中には、中学校時代も含めて6年間に渡って指導してきた選手たちも少なくない。

「今日のスタメンには修徳中出身が7人ぐらいいて、ベンチメンバーを入れたら10人を超えているんです。さらに修徳FCジュニアから12年近くやっているのが大畑と森で、ブライアンはトレセンの時に見ていますし、今のチームは本当に身内が集まっているファミリーなんですよね。そこで結果が出たというのが何より嬉しくて、これ以上のことはないなと思います」。

 そう口にする吉田監督の指導を受けるのは、中学時代から数えて6年目となった、今シーズンのキャプテンを任される島田が語った話が興味深い。

「自分は中学から教わっていますけど、監督の熱量は変わっていないというか、むしろ年々増えていて、ようやく選手の熱量が監督と同じぐらいのところまで来たのかなと思っています。自分は結構そこに付いていけているタイプというか、『凄く自分に合った監督だな』と思っていたんですけど、今年はチーム自体により合っているというか、監督と選手の熱量のギャップはないと感じています」。

 確かに指揮官がテクニカルエリアから指示や檄を飛ばす回数も、以前に比べれば減ってきたようにも感じられる。島田はさらに言葉をこう続ける。

「ただ、付いていっているだけでは限界が来てしまうので、もちろん監督からの提案はありますけど、自分たちで監督より考えて、『こっちの方がいいんじゃないですか?』と選手たちからも提示して、より良いものを作っていければいいなと思います」

「実際に選手主体のミーティングもしていますし、やっぱりみんな熱量があるので、あまり意見が出ないということはなくて、『いや、こっちの方がいい』とぶつかり合えるんです。それで友情関係が壊れるわけでもないですし、勝ちたいという想いが強いので、みんながそこは一致した仲間という感じです」。

 吉田監督も「志向しているサッカーも去年から変わっていないですし、一昨年からやっているサッカーもトレーニングも変えていないんです。ただ、今年はそれを形として実現してくる選手が多いんですよね」と笑顔を見せる。若き指揮官から発せられ、選手たちにも伝播した“本気の熱量”。今まで以上に一体感を纏った2023年の修徳は、どのチームにとっても間違いなく厄介だ。



(取材・文 土屋雅史)

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