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「ただの90分ではないし、ただの引き分けじゃない」。前へと進み続ける柏U-18は川崎F U-18に執念で追い付く魂のドロー劇

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柏レイソルU-18は最終盤に執念で同点に追い付く!

[7.2 高円宮杯プレミアリーグEAST第10節 柏U-18 2-2 川崎F U-18 日立柏総合グランド]

 シーズンを俯瞰して見た時に、絶対に負けられない試合というのは必ずある。夏の全国大会の出場を逃し、前節も悔しい逆転負けを喫した彼らにとって、きっとホームで戦うこの90分間はそういう一戦だったのだ。

「『この1試合で凄く成長が見えたな』と自分の中で思いました。ただの90分ではないし、ただの引き分けじゃないと。魂を感じたゲームでした」(柏レイソルU-18・藤田優人コーチ)。

 太陽王子が諦めずに手繰り寄せた、大きな、大きな勝ち点1。2日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第10節、柏レイソルU-18(千葉)と川崎フロンターレU-18(神奈川)が対峙した一戦は、前半3分に柏U-18のFW近野伸大(3年)が先制点を挙げるも、川崎F U-18はMF矢越幹都(2年)の2ゴールで逆転する。だが、後半39分に再び近野が執念の同点弾を沈め、柏U-18が追い付く格好で、結果は2-2のドロー。両者に勝ち点1ずつが振り分けられた。

 試合は開始早々に動く。前半3分。前を向いたDF猪狩鉄太(2年)が丁寧にフィードを送ると、走った近野は思い切り良く左足一閃。軌道はニアサイドをぶち抜いて、ゴールネットへ突き刺さる。「後ろの選手たちも何が起きたのかわからなかったって言っていて、全然喜びに来てくれなかったので、ちょっと寂しかったです。スーパーゴールだったのに(笑)」と本人も振り返ったように、唐突過ぎて一瞬会場も静まり返ったスーパーな一撃。柏U-18が早くもリードを奪う。

 追い掛ける展開となった川崎F U-18は、ボールこそ動くものの、なかなか決定機は作り切れない中で、一太刀を浴びせたのは26分。前線の連携に飛び込んだ矢越は「武とのコンビネーションは練習から出ているので、出してくれるのはわかっていました」と、FW香取武(2年)に当てて、リターンを受けるとすかさずシュート。ボールはゴールネットを確実に揺らし、アウェイチームがスコアを振り出しに引き戻した。



 以降もお互いにガードは下げない。37分は柏U-18。左サイドをドリブルで運んだFW吉原楓人(2年)が枠内へ収めたシュートは、川崎F U-18のGK濱崎知康(3年)がファインセーブで応酬。直後の左CKをMF関富貫太(3年)が蹴り込むと、ニアに飛び込んだ近野のヘディングは左ポストを直撃。40分は川崎F U-18。左サイドからドリブルで中央へ潜ったMF志村海里(3年)が右へ流し、香取が放った枠内シュートは柏U-18のGKハーパー・タイガ・オリバー(3年)がビッグセーブ。双方がチャンスを作り合った45分間は、1-1で推移した。

 後半は川崎F U-18の勢いが鋭さを増す。矢越とMF尾川丈(3年)の配球から、右のDF加治佐海(2年)、左の志村と両サイドハーフの仕掛けも活発に。そこへやはり右のDF江原叡志(3年)、左のDF元木湊大(3年)の両サイドバックも関わって、押し込む時間を創出した中で、22分に逆転弾。志村の浮かせたパスから、こぼれ球を香取が残すと、矢越は左足でフィニッシュ。少し相手に当たったボールはゆっくりと右スミのゴールネットへ吸い込まれる。「昨日左足のシュートを練習していたので、アレはとりあえず打ってみようという感じでした」という2年生ボランチのドッピエッタ。2-1。川崎F U-18が一歩前へ出る。

 前節の流通経済大柏高戦でも逆転を許し、敗戦を突き付けられた柏U-18は、それでも折れなかった。「先週の試合はみんな地に足がついていなかった感じで逆転されたので、今週1週間は『みんなでやり直そう』と言ってきていて、みんながこの試合に懸けていたと思います」(別府慧)「試合前からみんなモチベーション高くやっていたので、今日はずっと雰囲気良くやれたんじゃないかなと思います」(大木海世)「2点目を獲られた時に、明らかにあっちが3点目、4点目という雰囲気の中で、『もう1回守備をしっかりして、やることを変えないよ』ということを、こっちが言う前に選手たちが言っていましたね。チーム全体として声も出ていました」(藤田コーチ)。

 執念は最終盤に実る。39分。左サイドで獲得したFK。スポットには左利きのMF池端翔夢(3年)と、右利きのDF大木海世(3年)が立つ。「最初は翔夢が蹴る予定だったんですけど、自分が蹴った方が角度的にいいんじゃないかと思って、ファーサイドに触っても触らなくてもゴールに行くようなボールを意識して蹴りました」(大木)。11番が右足で蹴り込んだボールに、近野が頭から突っ込んでいく。

「大木くんが速いボールでファーに蹴ることは黒沢(偲道)くんから“コショコショ話”で聞いていたので、そこに突っ込んで、あとはゴールに打ち込むだけでした。気持ちで入れましたね」(近野)。ストライカーが魅せた気合の同点ヘッド。ホームチームが土壇場でビハインドを吹き飛ばす。

 ファイナルスコアは2-2。「後半に逆転されてしまった時に、今までの自分たちだったらたぶん崩れて、3失点目、4失点目と行かれていたと思うんですけど、今日はみんなでもう1回気持ちを締め直して、同点弾を獲れたというのはチームの収穫だと思います」とキャプテンのDF別府慧(3年)も語った柏U-18は、首位争いを繰り広げている川崎F U-18に全員で食い下がり、貴重な1ポイントを積み上げる結果となった。

 実は試合前に、藤田コーチはある“仕掛け”を施していたという。「今日のゲーム前に話したのが、『他のプレミアに参加しているチームと世間は、フロンターレが勝つと思っている。でも、ここにいるメンバーとあっちにいる家族の皆さんはオレたちの勝利を信じているから、そのために戦おう』と。隣の選手のために二度追いしてあげるとか、ちょっとしたことなんですけど、そういったものを積み重ねていくことで、チーム力というところは体現できたので、フロンターレさん相手に引き分けに持ち込めたのかなと思います」。

 別府は“仕掛け”の効果をこう語っている。「もともと自分たちはチャレンジャーという立場ですし、藤田さんの言葉でみんなが1つになって、落ち着いて良い形でゲームに入れたと思うので、あの言葉にみんな焚きつけられたところはあったと思います」。勝利までは至らなかったが、選手たちの心には良い形で気合の焔が灯っていたようだ。

 U-18での指導も3年目に入った藤田コーチが、就任当時のことを振り返った言葉が印象深い。「初めてこの子たちを見た、初めての練習で、ボール回しをしたんです。それで『カウント20ね』と言ったのに、誰も数を数えなくて、初日の10分くらいで雷が落ちました(笑)。『カウントしろ』と。もともと受け持つ時におとなしい子たちとは聞いていたんですけど、ここまでかと。そういうところからスタートしたので、今はこういう状態になったことには感慨深いものがありますね。もちろんまだまだですけど」。

 今年の3年生は、それこそ藤田コーチの指導を受け続けてきた世代。熱量に溢れたその人間性に影響を受け続けてきた学年だ。「今の3年生は1年生の頃からずっと鍛えてもらっていて、キツい練習をやってきたので(笑)、自分たちも藤田さんのことを理解していますし、藤田さんも自分たちのことを理解してくれていると思っています。藤田さんはどんな状況の選手でもちゃんと見てくれていて、たとえば何かを聞きに行ったら、絶対にそれ以上のものを返してくれて、教えてくれて、自分たちのモチベーションを上げてくれるので、『藤田さんのためにも勝ちたい』という想いはみんな持っていると思います」と話すのは別府。「マネジメントの部分はあまり苦労していないです。たぶん彼らも長く一緒にやっているので、こっちがどういう人間かもわかっていますし、こっちに強く言われる前に自分たちで言い合うというか(笑)、そのへんは彼らと良い関係はできているのかなと思います」という藤田コーチの言葉からも、その信頼関係が透けて見える。

 今年の3年生は10人と、例年以上に少ないメンバー構成になっている。シーズン前は楽しみより不安の方が大きかったという別府が、プレミアリーグでなかなか結果が付いてこなかった序盤戦の“ある出来事”を、そっと教えてくれた。「プレミアも開幕戦で結果が出ず、難しい部分を感じていた頃に、藤田さんが『オレに付いてこい』と言ってくれたので、『もう付いていくしかないな』って。全員で『藤田さんを勝たせよう』という気持ちになって、そこから一体感が出てきたかなと思います」。

 まだプレミアリーグでも明確な結果は出ていない。昨年のリベンジを期していたクラブユース選手権も、関東予選で敗れたために、真夏の群馬で戦うことは叶わなかった。でも、ちょっとずつではあるかもしれないが、チームは確実に成長し、前へと進んでいる。

「3年生にはこの夏でもう1つ、技術的にも精神的にももっと逞しくなってもらって、大学や社会に送り出したいなと思っています」(藤田コーチ)「まだここから勝っていけば、引っ繰り返せるチャンスも全然あると思っているので、ラスト5か月ぐらいを全員で、全力で戦って、プレミアの頂点を獲りに行こうと思います」(別府)。いよいよここからが太陽の季節。柏レイソルU-18も、そこに集った選手たちも、まだまだここからが力の見せどころだ。



(取材・文 土屋雅史) 
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