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自分たちの判断でゲームをコントロールできる進化の証明。「正解は相手にある」川崎F U-18は前橋育英との一戦に快勝を収めてリーグ4連勝!

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川崎フロンターレU-18は盤石の快勝で4連勝達成!

[9.17 高円宮杯プレミアリーグEAST第14節 前橋育英高 0-3 川崎F U-18 前橋育英高校高崎グラウンド]

 この日と同じ前橋育英高と対峙した開幕戦からは、実にスタメンだけでも4人が入れ替わっているものの、チームが体現するそのスタイルはより進化しているように見える。ピッチの中にいる選手たちが自分で判断し、最適解を導き出し、それを実行する力はこの世代でも有数のレベルだと言っていいだろう。

「ここへ来てグラウンドの中で喋ることも凄く増えてきて、解決方法をしっかりと考えながらやっている姿が見られるので、これを本当に続けていってほしいなと思います。フロンターレは相手を見てサッカーをするチームで、『正解は相手にある』ということを考えた時に、そこを共有していく、その方法を見出していくというのは、攻守に絶対にやっていかないといけないことなので、それもよくやっているなと思います」(川崎F U-18・長橋康弘監督)。

 自分たちの判断で、きっちりゲームをコントロールした結果の快勝劇。17日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第14節、前橋育英高(群馬)と川崎フロンターレU-18(神奈川)が対峙した一戦は、前半にMF岡田泰輝(3年)とMF岡野一恭平(3年)のゴールで2点を先行した川崎F U-18が、終盤にも途中出場のFW岡崎寅太郎(3年)が追加点を叩き出し、3-0で勝利。リーグ戦4連勝を飾っている。

 立ち上がりからホームチームがテンポ良くボールを繋いでいく。「前期のフロンターレ戦は情けないゲームで終わってしまったので、今回は悔いのないように勝ち点3を獲りに行きました」とMF黒沢佑晟(2年)も話したように、開幕戦で0-3と完敗を喫した前年王者相手に、MF篠崎遥斗(3年)とMF石井陽(2年)のドイスボランチがパスを散らし、最前線のFW佐藤耕太(2年)も身体を張ってポストプレーに奮闘。そこに2列目からMF中村太一(2年)、黒沢、MF平林尊琉(1年)も果敢に絡み、攻撃姿勢を明確に打ち出す。

 だが、「こちらとしてはどんどん前から行くつもりでしたが、選手たちが案外構えているので、『そっちの方がやりやすいのかな』と思って見ていました」と長橋監督も口にした川崎F U-18はしたたかだった。「育英はボールを持てるチームなので、自分たちが持つ時間が少なくなるということはわかっていましたし、そこで無理やり取りに行って剥がされるよりは、まず守備からというところを意識しながら、声を掛けながらやっていました」(GK濱崎知康)。

 ゲームが動いたのは23分。MF名賀海月(3年)のパスを受けたDF江原叡志(3年)が右クロスを蹴り入れ、DFのクリアが小さくなったところを、岡田が抜け目なく押し込んでゴールネットを揺らす。「意外と自分は運があるので、結構こぼれてきてくれるんです」と笑った14番の先制点。アウェイチームが1点をリードする。

 30分には岡田のシュートがクロスバーを叩き、37分には岡野一のシュートが右ポストに嫌われるも、完全にペースを掴んだ川崎F U-18は43分に追加点。左サイドで得たCKをショートで始めると、名賀のクロスに岡野一が合わせたヘディングはゴール右スミへ吸い込まれる。「ヘディングでのゴールは珍しいです」とこちらも笑顔を見せた岡野一は2戦連発。前橋育英も45+2分には佐藤に決定機が訪れたが、ここは濱崎がビッグセーブ。川崎F U-18が巧みな試合運びを見せた前半は、2-0で45分間が終了した。

 一度傾いたゲームリズムは後半も変わらない。15分には圧倒的な対人能力で違いを見せ続けていたU-17日本代表候補のDF土屋櫂大(2年)が、インターセプトからそのまま前線まで持ち運んで枠の左へ逸れるフィニッシュまで。その土屋とMF由井航太(3年)で組んだセンターバックコンビを中心に、守備陣も集中力を持続させれば、さらに交代で入ったMF児玉昌太郎(2年)、FW八田秀斗(2年)、岡崎も持ち味を発揮し、チームの攻撃をさらに活性化させていく。

「前半は結構保持できていた部分もあったんですけど、後半は自分たちが動けなくなってきて、ボールを握れる場所がなくなった印象です」とは前橋育英のキャプテンを務めるGK雨野颯真(3年)。31分と36分には岡崎が、39分には岡野一が掴んだ決定機は、すべて雨野がファインセーブで回避したものの、前橋育英は攻撃へのパワーを生み出し切れない。

 大トリはケガから帰ってきた“トラタロ・マルティネス”。43分。岡田、児玉と繋いだボールを、最後は岡崎が冷静にフィニッシュ。後半戦はこれが初出場となったエースが、第9節以来となる今季11ゴール目を沈めて勝負あり。「誰が出ても素晴らしいクオリティがあるので、練習から強度高く、個人個人が本当に良いプレーをしていますし、だからこそ毎試合結果を残して活躍しないと、次の試合もチャンスがあるかわからないので、誰が出ても強いチームになっていると思います」と岡野一も胸を張った川崎F U-18が4戦連続での完封勝利をもぎ取り、勝ち点3を逞しく積み上げた。



「運動量だったり、守備の部分は自分たちが成長してきた部分だと思うんですけど、それ以上にフロンターレの方が成長していたと感じました」と雨野が語ったように、前橋育英も間違いなく開幕戦からの成長を感じさせる場面もあったが、それ以上にアウェイチームがこの5か月近い時間での進歩を見せ付ける内容になった。

「前半はもっと前から行くと思っていたんですけど、『アレ?』と思って。育英さんが上手くなっているなという感じが選手たちにあったんじゃないかなと思います。ただ、選手たちにはグラウンドの中で感じることを大事にしてほしいというところで、『とにかく君たちが喋って、勇気を持って決断しよう』と。その方法が間違っていたということは絶対ないから、それよりも決めたことを正しい方向に持っていけるように、目を揃えてやっていきましょうということを共有していますし、選手たちが自信を持って方法を決断していく姿は今日も見られたので、良かったのかなと思います」と長橋監督。選手が変わっても“方法の決断”の目が揃うのは、間違いなく日頃のトレーニングの賜物。日常からの意識の高さが、そんな一幕からも垣間見られる。

 後半戦はスタメンに定着しつつある岡田はこの日も得点を挙げたものの、「今回はトラがケガで途中出場だったんですけど、(高橋)宗杜も大宮戦でゴールを決めたりしていて、誰が出ても点は獲れると思うので、自分も決めていかないといけないなと思っています」と危機感を露わに。指揮官も「前半戦で悔しい想いをした選手たちが、泰輝や宗杜みたいに最近はこうやってしっかり結果まで出していますし、逆にまだ出られていない選手もいる中で、そういう子たちの1週間のトレーニングの取り組みはかなり変わってきましたね。とにかくチャンスを掴もうとする良い競争ができてきたなと思います。メンバー選考がものすごく苦労します。正直一番したくない作業です。それぐらいみんな良いです」と嬉しい悩みを打ち明ける。

 そんな好循環の中で迎える次節は、昌平高とのホームゲーム。ここまでの14試合で唯一の黒星を付けられた高体連屈指の技巧派集団と、等々力陸上競技場で相対する。「昌平はドリブルが得意なチームだと思うんですけど、自分もドリブルは特徴としてあるので、そこで負けないようにやっていきたいなと思います。等々力でプレーするのは初めてなんですけど、いつも以上にサポーターさんも来てくれると思うので、その声援を受けながら頑張りたいです」と岡田も意気込む一戦に、長橋監督も強い決意を口にする。

「前回負けている昌平さんは、技術のところにしっかりとこだわるチームだというところで、かなり選手たちもそこだけは負けたくないという想いもあると思いますので、あの等々力の素晴らしいピッチとサポーターの前で、内容と結果にこだわってやってほしいなと思います。本当に思い切りやってほしいなと。緊張して、自分の力が出せない時間はもったいなくていらないと。とにかく始まったらすぐに自分たちのサッカーをやり切ると。そういうところを準備していきたいなと思います」。

 1試合消化の多い暫定首位の尚志高との勝ち点差は2で、2位の青森山田との勝ち点差も1まで迫ってきた。EAST連覇に向けて、いよいよ川崎F U-18が今まで以上に、進化へのアクセルを踏み込み始めている。



(取材・文 土屋雅史) 
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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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