beacon

「正攻法」ではなく割り切った「一発目」で獲りに行った結果。桐生一は浦和ユースとスコアレスドローで勝ち点1を手に

このエントリーをはてなブックマークに追加

桐生一高浦和レッズユースの一戦はスコアレスドローに

[9.23 高円宮杯プリンスリーグ関東1部第13節 桐生一高 0-0 浦和ユース 伊勢崎市・あずまサッカー場]

 1年間を通じて行われるリーグ戦の中では、割り切って結果を獲りに行く試合というのがある。悩みながら、葛藤しながら、それでも勝ち点を獲りに行くことは、選手たちにその戦い方を徹底させることも含めて、指導者としての力量が問われる難しいミッションだ。

「今年は全部“正攻法”で行っていたので、“一発目”は効くだろうと思って、本当に相手に申し訳ないなとは思いながらも、今日負けてしまって連敗になると、重たいじゃないですか。その中で、この試合は現実的な方をチョイスせざるを得なかったというところが正直なところです。そういう意味では彼らも『今、やるしかない』というマインドセットをしてくれたなとは感じます」(桐生一高・中村裕幸監督)。

 ブレずに徹底した戦い方を貫き、狙って獲った勝ち点1。23日、高円宮杯 JFA U-18サッカープリンスリーグ 2023関東1部第13節で桐生一高(群馬)と浦和レッズユース(埼玉)が対戦し、今季初めて守備に軸足を置いて戦った桐生一が、浦和ユースのアタックを無失点に抑え、スコアレスドローで90分間が終了している。

 浦和ユースの萩村滋則監督が「向こうはどうやって勝ち点を獲るかを考えてきたと思うんですけど、5バックは想定していなかったですね」と話したように、ホームチームは意外な守備の布陣を敷いてきた。最終ラインには右からFW松島颯汰(3年)、DF中野力瑠(3年)、DF矢島莉羽(3年)が並びつつ、右はDF長尾弥裕(1年)が、左はDF深澤拓夢(3年)がスペースを埋める5バック気味でセット。そこからのカウンターを明確な狙いとして立ち上がる。

「実際にこういう形で練習をしたのは1回でした」と中村監督も明かす中で、予想外の展開に戸惑う相手を尻目に、桐生一は好機を創出。前半10分にはMF乾真人(3年)のパスに走った長尾がマイナスに折り返し、MF谷口諒治(2年)のシュートは枠を越えたものの、16分にもビッグチャンス。中野が得意のフィードを蹴り込み、受けたMF佐藤能之(2年)が繋ぐと、フリーの長尾はシュートまで持ち込めず、引き取ったMF佐藤柊(3年)のシュートは浦和ユースGK吉澤匠真(2年)にキャッチされるも、1年生の右ウイングバックが積極的な攻撃参加を披露し、2度のチャンスに絡む。

 なかなか前進できない浦和ユースは、「コンディションの問題もあって、今いるメンバーは全員連れてきているところもありました」と萩村監督も明かすチーム事情でのメンバー構成の中、「ボランチも引いてきて、センターバックとの間が狭い中で、『自分がライン間にいても効果的ではないな』と思ったので、自分の判断で落ちた感じですね」と話す、既にJ1の試合にも出場しているMF早川隼平(3年)が低い位置まで下がってボールを動かしながら、探る狙いどころ。21分にはFW山根且稔(1年)のパスを受けた早川が、果敢なミドルを枠の右へ。24分にも中央左、ゴールまで約20mの位置から早川が直接狙ったFKは、桐生一の壁がブロックで阻み、上げた雄叫び。さらに26分にも早川の左FKから、最後はMF熊谷陽人(2年)が合わせたボレーはクロスバーの上へ。中盤以降はアウェイチームもチャンスを創出したものの、最初の45分間はスコアレスで推移した。

ドリブル突破を図る早川隼平に寄せる桐生一の選手たち


 後半も大きな構図は変わらない。「相手も『絶対に前から来る』と思っていたはずなので、自分たち的にはブロックを敷いて、ハーフウェーラインぐらいから行くぐらいの感じでやっていました」とは桐生一のキャプテンを務める中野。浦和ユースもDF青柳仰(3年)とDF植竹優太(3年)の両センターバックからボールを動かし、MF松坂芽生(2年)とMF河原木響(3年)のドイスボランチも、パスを散らしながら縦へのスイッチを窺うも、青柳が「前から来る相手に対して剥がしていこうというサッカーをやっているので、来てくれた方が自分たちはやりやすかったですね」と語った通り、引き気味の相手を前にフィニッシュの数は増えず。後半9分には青柳を起点に、DF小野寺拓巳(2年)のクロスへ合わせたFW照内利和(2年)のヘディングはゴール左へ外れてしまう。

 ホームチームが忍ばせる一発の脅威。23分は桐生一。後方からの大きなクリアがエリア付近で弾み、こぼれ球を収めた佐藤能之が左足ボレーで叩くも、ボールは枠を越え、頭を抱えたベンチの選手とスタッフたち。26分は浦和ユース。中央右、ゴールまで約25mのFKを早川が直接狙うも、「良いコースに行ったかなとは思ったんですけど、よけて後ろを向いた選手の背中にぶつかったので、そこは相手の運が良かったのかなと思います」と本人も振り返った軌道は壁にヒット。ジリジリした時間が続く。

 終盤はややオープンな展開になったが、お互いに決定機は作り切れない。桐生一はアディショナルタイムに、左サイドをドリブルで運んだMF小野剛史(3年)のクロスへMF能崎大我(3年)が飛び込むも、ヘディングはヒットせずに枠を外れてしまう。

「相手の明確な狙いの中で、今の順位からすると勝ち点2を失ったというところは残念ですけど、1回2回は絶対にピンチはあると思いますし、その中では良くやったんじゃないかなと思っています」(浦和ユース・萩村監督)「何本か抜け出されそうなシーンはありましたけど、ペナルティエリアの中でクリーンに打たれるシュートはなかったと思うので、本当に最低限の結果になったかなと思います」(桐生一・中村監督)。スコアは0-0。双方に勝ち点1ずつが等しく振り分けられる結果となった。

「前期はレッズにアウェイで0-6という形で負けてしまっていましたし、後期は得失点差もマイナスの現状で、今日はゼロで抑えないといけない試合だと、みんな意識の統一ができていたなと。守備を主体にゲームへ入れたのが良かったかなと思います」とはキャプテンの中野。このゲームの桐生一のプランは明確に守備重視だった。

 冒頭で出てきた“正攻法”というのは、守備時は4-2-3-1ないし4-4-2気味で、攻撃時は3-6-1の可変システムで攻撃的に行くいつもの形。“一発目”というのが、今季初めて使ったというこの日の3-4-2-1をベースに5バックも辞さない形でブロックを作り、守備的に戦うイレギュラーな形。指揮官が考えて、考えて、難敵から勝ち点を奪う方法として導き出した戦い方だ。

「前期は上位のレッズ戦もアントラーズ戦も『やれることをやってぶつかってこい』と送り出して、見事に0-6と0-4でやられてきたので、彼らもいろいろな経験を積み重ねては来ているんですけど、ここで『もう1回傷口を広げたくないな』というのはわかってくれたのかなと思います。だから、0-0という勝ち点1も大事ですし、得失点差をキープできたのも大きなポイントでした」と中村監督。来月からは選手権予選を控えている中で、この試合を『割り切って結果を獲りに行く試合』と位置付けたからこそ、スコアレスドローでの勝ち点1というのは桐生一のこれからにとっても小さくない意味がある。

「来週はまたどうなるかわからないですけど、今週の試合はどうしても勝ち点を獲らないといけない試合でしたし、選手権前の大事な試合だったので、結果は良かったのかなと思います」と中野も口にしたように、あと2試合のリーグ戦を消化すると、いよいよ高校選手権の県予選が幕を開ける。そこにもこの日の結果がポジティブな効果をもたらすのではと、指揮官は考えているようだ。

「今日は『こういうふうにやるぞ』と言って、それをパッとしっかりやってくれたのは凄くポジティブです。たとえば、もし選手権で前橋育英と対戦するような大事な試合が来たとしても、『前半はこれで我慢するぞ』と言った時に、この経験があればイメージができますし、そういうふうに持っていくためにもいろいろと良かったですね」(中村監督)。

 1試合だけで判断できないような、シーズンを通じたプランニングから来る奥深さが、リーグ戦には隠されている。この日の“スコアレスドロー”が桐生一にどのような効果をもたらしていくのかは、これから進んでいく道の先で、彼ら自身が証明していく必要がある。

(取材・文 土屋雅史)
▼関連リンク
●高円宮杯プリンスリーグ2023特集

土屋雅史
Text by 土屋雅史

TOP