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0-6の大敗を経て、ようやく掴んだ「劇的な変化」のきっかけ。苦しむFC東京U-18は横浜FMユースを逆転勝利で退けてリーグ戦10試合ぶりの白星!

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FC東京U-18は劇的な逆転勝利でリーグ戦10試合ぶりの白星!

[9.24 高円宮杯プレミアリーグEAST第15節 FC東京U-18 2-1 横浜FMユース 東京ガス武蔵野苑多目的グランド]

 それは誰だって勝ちたいに決まっている。そのために自分たちにできることを、全力で、必死に、真摯に、やってきたつもりだ。でも、勝てない。頑張って、悩んで、もがいて、それでも勝てない。そんな白星を4か月半ぶりにホームで掴んだのだから、この日ばかりは大いに喜んでいいだろう。

「今までサポーターの方や応援してくれる方に情けない姿を見せた分、『これから自分たちがもっと応援してもらえるようにならないといけない』ということは3年生とも話し合って、それを目標にしてやっていたので、今日は皆さんの笑顔が見られたのは本当に良かったですし、この先もああいう笑顔を届けられるようにやっていきたいと思います」(FC東京U-18・渡邊翼)。

 後半終了間際にもぎ取った決勝点で、劇的な逆転勝利。24日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第15節、暫定11位のFC東京U-18(東京)と暫定10位の横浜F・マリノスユース(神奈川)が勝ち点差2で対峙した一戦は、横浜FMユースが前半にDF畑野優真(3年)のゴールで先制したものの、後半にFW山口太陽(2年)のゴールで追い付いたFC東京U-18が、後半44分にDF岡崎大智(3年)が挙げた逆転ゴールで、実に10試合ぶりとなるリーグ戦での勝利を逞しく手繰り寄せた。

 試合は早々に動く。前半11分。横浜FMユースは右からレフティのMF德田佑真(2年)がCKを蹴り込むと、畑野が競り勝ったボールをFW横山俊介(2年)が強引にフィニッシュ。こぼれにいち早く反応した畑野のシュートが、ゴールネットへ到達する。歓喜のトリコロール。あっという間にアウェイチームがアドバンテージを握る。

 以降もペースは横浜FMユース。19分にはDF舩木大輔(3年)の正確なフィードから、右サイドを抜け出したMF浅田大翔(1年)のシュートは右のポストを直撃。26分にもDF埜口怜乃(2年)が巧みに裏へ落とし、走ったMF白須健斗(2年)のシュートはFC東京U-18のGK後藤亘(2年)が何とかファインセーブで回避する。

 30分も横浜FMユースのチャンス。キャプテンマークを巻いたMF桑原颯太(3年)のパスから、德田が狙ったループシュートは、後藤が何とか触ってクロスバーにヒット。「前半はほとんど攻められていましたし、さすがマリノスという感じで、『よく0-1で抑えてこれたな』という印象でした」とはベンチから試合を見守っていた岡崎。前半は一方的に近い展開の中、横浜FMユースが1点をリードして45分間が終了する。

「今週はチームで大事にしている“対話”を双方向で成り立たせようという話を1週間積んできた中で、前半の中でも言わないより言った方がいいんですけど、それをお互いに受け入れたり、聞いたりという“傾聴”のところがまだおろそかな部分が多かったので、ハーフタイムは戦術のところよりはそっちのウエイトを多くして話しました。『みんな良いことは言っているし、言っていることの大半のことは合っていると思うから、それをちゃんと情報として聞こう』と」(FC東京U-18・奥原崇監督)。

 迎えた後半も大きく流れが変わったわけではない。9分には横浜FMユースのカウンター。運んだ白須が右へ流し、浅田の折り返しをニアで合わせた桑原のシュートは後藤がファインセーブ。24分にも德田の右CKから、こぼれを叩いた白須のシュートは、『今日はキャプテンマークを巻いていたので、気合が入っていました』というFC東京U-18のDF石堂純平(3年)が身体でブロック。次の1点が入りそうな雰囲気はアウェイチームに漂っていた。

 だが、「監督からは『自分が声を出すだけではなくて、全体の声を双方向にさせるように』という指示をもらって、自分としては『絶対に勝ってやろう』と思ってピッチに入りました」という岡崎に、「奥原さんからは『この状況を変えてこい』としか言われなかったですけど、自分も『本当に変えてやろう』と」思って入りました」と話したMF渡邊翼(3年)という、スタメン落ちしていた3年生2人のエネルギーが、ゲームのうねりを変えていく。

 27分。右サイドから岡崎が中央へパスを流し込み、上がってきたDF金子俊輔(2年)が放ったシュートはエリア内でこぼれるも、真っ先に反応した山口が「左足で少しずらして、ボレーシュートで」押し込んだボールは、ゴールネットを泥臭く揺らす。悩めるストライカーの一撃は、FC東京U-18にとってもリーグ戦では6試合ぶりの得点。「こぼれ球をみんなで繋ぎ合わせてのゴールだったので、本当に勇気をもらえたところはありましたね。あの点のあとに、クラブユースの舞台を踏んでいる選手は、『今日は行けるんじゃないか』という確信めいた雰囲気になったと思います」(奥原監督)。1-1。スコアは振り出しに引き戻される。

 44分。土壇場での主役は、後半戦に入って帰ってきた“主将”。FC東京U-18が左サイドで獲得したCK。その4分前に投入されたDF平澤大河(3年)が得意の左足で正確なキックを蹴り込むと、「信じて飛び込んだらボールが来た感じでした」という岡崎が頭で合わせたボールが、右スミのゴールネットへと吸い込まれていく。

「彼が出ればチームの質が上がることは間違いないんですけど、僕もジュニアユースから見ていて、彼がこういう点を獲ったのは初めてですね(笑)」と奥原監督も笑った、頼れる主将の逆転ゴールはそのまま決勝点。「今日は相手に握られる時間も多かったんですけど、それでも自分たちが謙虚にやれることを続けていれば、いつかチャンスが来て、自分たちの流れが来るからとは監督からも言われていて、全員がそれを信じてやった結果かなと思っています」とは石堂。FC東京U-18がドラマチックな展開を制して、5月7日に行われた第5節・旭川実高戦以来となる4か月半ぶりの勝利を、詰め掛けた観衆とともに喜ぶ結果となった。



 FC東京U-18は前節の昌平高戦に0-6で敗れた。「本当にチーム状況としては最悪で、正直相当な危機感がありました」と話すのは渡邊。その1つ前の市立船橋高との試合はスコアレスドローだったとはいえ、浮上のきっかけを掴んだ感覚があっただけに、それすらも打ち砕かれるような大敗を喫し、リーグ戦9試合未勝利のチームはどん底に近い状態へ突き落とされる。

 もう開き直るしかなかった。

「0-6で負けていたので失うものはなかったですし、次の試合に向けて全員でやろうと。次に勝つために、本当に死ぬ気で細かいところにこだわってやってきました」(石堂)「“から元気”でもいいので、元気を出してやらないとなって。このままじゃ本当に残留もできないし、まずは練習からイチからやっていこうということは話し合いました」(渡邊)「昌平戦はいろいろなところで意見の取り違えもあったので、みんなで話し合おうと。誰かが言ったことに対して、答えをみんなで返すということをやってきた1週間でした。劇的な変化は全然ないと思うんですけど、ポジティブな会話が増えた印象はあります」(岡崎)。

 もちろん『劇的な変化』なんて、そう簡単に起こらない。でも、このままじゃヤバいことはみんなわかっていた。「昌平も素晴らしいチームですけど、ある程度自分たちで壊れたということがわかっていたと思うんですよね。今の課題が対戦チームではなくて、自分たちにあると。そこに対して真摯に、それぞれの立場でもがきながらやれたという手応えが今週はあったんです。だから、あの大敗で気持ちが切れてしまったりとか、さらに雰囲気が悪くなるような“画”は、トレーニングの中でまったくなかったので、僕らスタッフとしても『何とかしたい』という想いが凄く強く出た時間でした」。奥原監督は大敗からの1週間をこう振り返っている。

 そんな指揮官が発した言葉が印象深い。「僕が就任してから『ポストの内側に入るか、外側に出るかは、技術でコントロールできにくいところだけど、それがチーム状況を現わす』と言っていて、クラブユースの後はピッチだけじゃない部分にも力を取られた1か月だったので、そこからいったん底辺を踏んで上の方に行き始めたという感覚はあって、選手が本当によく頑張って、みんなで這い上がってここまで来たので、ポストに当たってどっちに転がるかみたいなところも、自分としてはチームとしての積み重ねと、トレーニングの成果と、両方の面があったかなと思っています」。

 それでも、ようやく手にしたこの日の勝利が、これからの結果を担保してくれるものではないことも、選手たちはみんなわかっている。「1つ勝てたことは本当に良かったですし、チームもプラスの方向には向かっていると思うんですけど、今日も良くないところも多くあったので、慢心せずにまた基本的なところから1つ1つ詰めていって、来週の試合にも全員で良い状態で向かっていければいいなと思います。でも……、なかなか自分たちが勝てていない中で、それでも『頑張って』という声を掛けてもらっていたサポーターの前で勝てたことにホッとしましたし、それが一番嬉しかったです」(石堂)。

 もちろん『劇的な変化』なんて、そう簡単に起こらない。だからこそ、シーズンが終わった時に、あの苦しんだ末にみんなで引き寄せた逆転勝利が『劇的な変化』のきっかけになったと笑って振り返るため、FC東京U-18の選手たちはこれからも、頑張って、悩んで、もがいて、地道な日常を積み重ねていくだけだ。



(取材・文 土屋雅史) 
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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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