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別々の進路を選んだ「元チームメイト」がファイナルで再会。青森山田MF福島健太と広島ユースDF黒木一心が交わした抱擁は次のステージへのリスタート

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ファイナルの舞台で再会した青森山田高MF福島健太とサンフレッチェ広島ユースDF黒木一心

[12.10 プレミアリーグファイナル 青森山田高 2-1 広島ユース 埼玉]

「こうやって真の日本一を懸けた戦いで、元チームメイトとやれたということは、ここまでやってきたことが間違いじゃなかったんだなと思えましたし、素直に戦えて嬉しかったですね」(青森山田高・福島健太)「試合前から今日が凄く楽しみでしたし、自分も健太とマッチアップすることができたので、凄く楽しかったです」(サンフレッチェ広島ユース・黒木一心)。

 『真の日本一』を懸けて、プレミアリーグEAST王者の青森山田高(青森)とプレミアリーグWEST王者のサンフレッチェ広島ユース(広島)が激突したプレミアリーグファイナル。この90分間が行われた埼玉スタジアム2002のピッチでは、中学時代の3年間をともに過ごした“元チームメイト”の再会があった。

 青森山田の1.5列目に位置し、攻守に献身的なプレーを続けてきたのはMF福島健太(3年=RIP ACE SC出身)。リーグ戦では全22試合に出場。前線からプレスの先鋒として相手を追い掛けたかと思えば、気の利いたポジショニングで攻撃を活性化させる、チームにとって欠かせないピースだ。

 プレミアEAST優勝の懸かった最終節のFC東京U-18戦。前半15分に青森山田はスローインを獲得すると、DF小沼蒼珠(2年)のロングスローから、こぼれ球を福島が押し込んで貴重な先制点を奪う。福島はこのゴールが、22試合目の出場にして今季初ゴール。「あのゴールは『絶対に獲ってやろう』という気持ちで獲れた1点でした」。大事な試合でリーグ制覇にきっちり貢献してみせる。

 広島ユースの最終ラインにそびえ立ち、チームの守備を逞しく束ねてきたのはDF黒木一心(3年=RIP ACE SC出身)。リーグ戦では全22試合にスタメン出場。ボールを丁寧に繋ぐスタイルの中で、ビルドアップの起点として機能しつつ、対人にも強さを発揮する万能型のセンターバックだ。

 首位攻防戦となった第15節のヴィッセル神戸U-18戦。スコアレスドロー濃厚の後半45+4分。右からMF橋本日向(2年)が蹴り入れたCKに、走り込んだ黒木が頭で合わせた軌道は、ゴールネットに吸い込まれていく。まさに値千金の決勝ゴール。最終的に広島ユースは2位の神戸U-18と勝ち点1差で優勝を達成しており、シーズン全体を考えてもこのゴールと白星は大きな意味があったと言っていいだろう。


「1位同士になったらファイナルで当たることはわかっていたので、健太と『ファイナルで会おう』という連絡は取り合っていました」と明かした黒木と福島は、中学時代に大阪のRIP ACE SCで一緒にプレーしていた元チームメイト。黒木はこの日のベンチメンバーに入っていたMF石橋聖也(3年)とともに広島へ、福島は青森へとそれぞれ別々の進路を選択し、サッカーと向き合う3年間を過ごしてきた。

 そんな2人が、青森山田の13番とサンフレッチェ広島ユースの3番として、プレミアリーグの覇権を巡って、直接対決する一戦がこのファイナル。「『絶対に勝つ』とメッセージを送ったら、『負けない』という感じで返ってきましたね」とは福島。アイツだけには負けたくない。お互いが特別な想いを抱いて、決戦の日を迎えていた。

 ポジション的に両者のマッチアップは不可避。ゴールを奪いたい福島と、ゴールを奪われたくない黒木。おそらくは中学時代のチームメイトたちも、自分たちの代表が全国制覇を懸けて戦う試合を、さまざまな形で見つめていたのではないだろうか。スタンドへの挨拶を終えると、2人は握手を交わし、それぞれのポジションへと散っていく。

「マッチアップは負けてはいなかったと思います」と黒木が話せば、「自分も勝っていたとは言えないですけど、負けていたとも思わないですし、トントンだったんじゃないですかね」と福島も笑う。1対1で向かい合うようなシーンはそれほど多くなかったが、敵味方に分かれていたとはいえ、それでも3年ぶりに同じピッチに立てたことが、とにかく嬉しかった。

 試合は終盤の2ゴールで青森山田が劇的な逆転勝利を収め、日本一の称号を手に入れる。「後半は押し込まれる形が続いたので、自分たちも声を出して、その圧力に負けないようにやっていましたし、耐えてはいたんですけど、最後にあそこで少し気が抜けたのかなと思います」。黒木はなかなか顔を上げられない。

 後半途中で交代していた福島は、ベンチで優勝の瞬間を迎えていた。「新チームが始まった時から掲げてきた三冠という目標はインターハイでできなくなったんですけど、まずは“一冠”というところで、今日は応援も凄かったので、タイトルを獲れて良かったなと思います」。気付けばグラウンドのチームメイトの元へと走り出していた。

 試合後の表彰式。優勝カップを表彰台で掲げ、階段を下りてきた青森山田の選手が、広島ユースの選手たちと1人1人握手を交わしていく。緑の13番が紫の3番へと歩み寄り、2人は少しだけ抱擁すると、すぐにお互いの列へと戻っていった。


「青森山田も大変な環境の中で、健太も揉まれて試合に出ていたことは自分の刺激になっていましたし、自分も負けたくないという想いは強かったですね」と取材エリアで口にした黒木は、あることをそっと教えてくれた。「RIPのみんなと『大学、どこ行く?』みたいな話をしていた時にわかったんですけど、健太とは一緒の大学でした」。

 高校を卒業したら、彼らは再び同じ大学でチームメイトに戻るという。黒木は次の4年間に向けて、こういう言葉で想いを馳せる。「ここで日本一にはなれなかったんですけど、大学では1年生からゲームに絡んで、日本一になって、この試合の借りを返したいと思います。やっぱりこんな大舞台でプレーできたことは凄く良い経験になりますし、こういう試合でもいつも通りのプレーがどんどん出せるような選手になっていきたいです」。

 福島が話してくれたことも印象深い。「このファイナルを戦えた相手と、また同じチームで4年間やれるということは凄く誇りに思いますし、中学の時には一緒にやっていて、高校は離れ離れになって、また大学で一緒にできるというのは本当に嬉しいことなので、また大学に入っても2人で頑張りたいと思います」。

 別々のチームで3年間にわたって掲げてきた目標は、再び同じチームで4年間を掛けて追い求める目標に変わる。次は同じユニフォームを着て、日本一に。福島と黒木が記していく新たなストーリーは、このファイナルの抱擁から幕を開ける。



(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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