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[東京都CY U-17選手権]トップチームの基準を知る佐藤由紀彦新監督が挑むのは「勝負にこだわる姿勢」と「サッカーを楽しむ姿勢」の両立。FC東京U-18が町田ユースとの打ち合いを5-3で制す!

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FC東京U-18が5-3で打ち合いを制す!

[2.23 東京都CY U-17選手権3位決定戦 町田ユース 3-5 FC東京U-18 味の素フィールド西が丘]

 青赤を担い得る才能の未来は、確かな基準を知る情熱の指揮官に託された。激しい競争のある日常を勝ち抜いた者だけが、トップチームへと繋がる道を歩んでいくことができると信じているからこそ、やはり勝負にこだわらせたいし、楽しくサッカーと向き合わせたい。

「トップチームが今年もピーター・クラモフスキー監督なので、自分には昇格するための基準と、去年の俵積田(晃太)みたいに試合に出る基準というのは少なからず理解しやすい環境にありますし、僕らはあそこに何人を送り込んで、何人に試合に出てもらうかが1つの使命でもあるので、あるいはチームビルディング以上の優先順位をそこに持っていきたいなという想いはあります。あとは勝ち負けというのも自分が非常に好きな部分でもあるので、その2つへ同時に寄っていく感じになるのかなと」(FC東京U-18・佐藤由紀彦監督)。

 8点が乱れ飛ぶ打ち合いを制したのは、チャレンジを貫き続ける積極的なスタンス。小雪舞う西が丘で行われた東京都クラブユースサッカーU-17選手権大会の3位決定戦。お互いに攻撃力を存分に発揮したFC町田ゼルビアユースFC東京U-18の一戦は、5-3でFC東京U-18が勝ち切っている。


 最初の決定機は前半15分のFC東京U-18。右サイドバックのDF金子俊輔(2年)が斜めに送ったパスを起点に、MF浅田琉偉(2年)が右へ振り分けると、MF菅原悠太(1年)のクロスにFW山口太陽(2年)が合わせたヘディングは、町田ユースのGK末永幹人(1年)がファインセーブで凌いだものの、ゴールへと向かう姿勢を惜しいチャンスに滲ませる。

 スコアが動いたのは27分。MF永浦煌士(2年)の縦パスをギャップでうまく受けた浅田が左サイドへ送ったボールを、MF高橋裕哉(1年)は縦に運びながら、GKの位置を見定めて柔らかいシュートを選択。軌道はゴール右スミへ吸い込まれる。「絶妙な感じで自分でも良いパスだったなと思います」と笑った浅田のアシストから、1年生アタッカーが挙げた先制ゴール。FC東京U-18が1点をリードした。

「『FC東京さんを受け入れるよりは、自分たちで仕掛けに行こう』というところで、チャレンジしてくれた部分はあるんだけど、やっぱりFC東京さんのスピードやパワーに、2メートルや3メートル下がってしまうとか、奪った後にボールが前に進まないとか、前半は思うような感じではなかったですね」と中山貴夫監督が話した町田ユースは、それでもMF関大翔(1年)、MF池田太久人(2年)、MF武田翔琉(1年)の中盤トライアングルを中心に、きっちりボールを動かし続ける中で、41分にセットプレーからビッグチャンス。

 右サイドのCKをMF真也加チュイ(2年)がショートで始めると、武田、真也加と回ったボールを関は縦にグサリ。武田が粘って残したこぼれ球をDF森高優(2年)が左足で打ち切ったシュートは、ゴールネットへ到達。1-1。町田ユースが追い付いてみせる。

 セットプレーにはセットプレーでやり返したFC東京U-18。失点から2分後の43分。こちらは左サイドで獲得したFK。菅原が利き足の左足で入れたキックへ、果敢に飛び込んだ浅田が身体に当てたボールはゴールへ転がり込む。「『良いボール、来い!』と思いながらずっと狙っていましたけど、自分もどこに当たったかわからなかったです(笑)」という25番が気合の一撃。前半はFC東京U-18が2-1と勝ち越して、45分間が終了した。


 ハーフタイムが明けると、そこからは双方が打ち出すチャレンジへの姿勢が、得点という形で積み重なっていく。まずは後半3分のFC東京U-18。相手の横パスを奪った菅原は、ゴールまで30m近い距離から躊躇なく左足を振り抜くと、ボールは鮮やかにゴールネットを揺らす。「蹴った瞬間に『入ったかな』と思いました」というレフティのゴラッソ。3-1。

 9分は町田ユース。細かいパスワークの流れから、前を向いた武田はタイミングを見計らって、絶妙のスルーパスを裏へ。抜け出したFW西川瑞希(1年)は左のポストに当てながらも、ゴールを奪い切る。「あれはトレーニングしている形なので、相手を崩して点を獲るという意味では良い形でしたね」(中山監督)。3-2。

 12分はFC東京U-18。前からのチェイスで相手のビルドアップを追い込むと、果敢なプレスで相手からボールをさらった菅原は、「なんかゴールが大きく見えましたね。『入るな』と感じました」とGKとの1対1も冷静に制し、自身2点目をゲット。4-2。

 そこから1分も経たず、直後の12分もFC東京U-18。ここも町田ユースのビルドアップを狙い打った浅田が、巧みなインターセプトから放ったループシュートが、美しい軌道を描いてゴールネットへと飛び込んでいく。「ボールを奪えた瞬間に『よっしゃ!』と思って、ゴールを見たらキーパーも前に出ていたので、『打っちゃおう!』と。ちょっと気持ち良かったですね」(浅田)。5-2。

 26分は町田ユース。今度は逆に右サイドの高い位置で張った網で相手ボールを絡め取り、FW林夏生(1年)のカットから武田が丁寧なラストパス。真也加のフィニッシュがFC東京U-18のゴールを打ち破る。

 ファイナルスコアは5-3。「試合全体を通して言うと、FC東京さんのサッカーを受けまくってしまった印象はないんですけど、自分たちもチャンス自体は意外とあった中で、そこを決め切れるか、決め切れないかというところで、このスコアの差は率直に改善していかないといけない部分が多々あるなと」(中山監督)「今日のミーティングでも“チャレンジ”というところが1つのテーマだったので、そういう部分では点は獲られたにせよ、突き放して、さらに突き放してという姿勢を選手たちは見せてくれましたし、そこのちょっとした技術的なミスをここからトレーニングで直していく作業になっていくと思います」(佐藤監督)。課題と収穫が入り混じるハイスコアの打ち合いは、FC東京U-18に軍配が上がる結果となった。


 2015年から指導者の道に足を踏み入れたFC東京U-18の佐藤監督は、5シーズンに渡ってトップチームのコーチを務め、今季から自身の指導者キャリアで初めて監督という立場に就任した。新チームの始動から約1か月。ここに来て少しずつ選手との距離感のバランスを掴み始めているという。

「今までの1か月はずっと選手を観察する時間に充ててきました。全体像の中でのヒエラルキーもわからなかったので、そのヒエラルキーも壊したかったし、そこをずっと見てきた1か月だったので、ここから個人のところにフォーカスしようかなと。育成という観点から見ても、今日もそうだったように個人のところがチームを助けるわけで、そこは選手の近くにいたいなという気がしますね」。

「実際に監督をやってみて、自分の感覚としては選手に近いほうが落ち着くかなと。選手と一緒にボールを蹴りたいですし、選手と一緒にボール回しをやりたいですし、役職は監督になるかもしれないですけど、選手と一緒にやりながら自分の経験とかそういうものを伝える方が落ち着くなと(笑)。トップチームの時もいろいろな選手と一緒にボールを蹴って、一緒にボール回しをして、そこでバカ話もして(笑)、すごく近い存在になっていった感じだったので、監督になったことでそういう携わり方の回数は減っても、そのスタイルがいいのかなと思います」。

 この大会中に興味深いシーンがあった。決勝リーグの大森FC U-18戦で、相手の丁寧なビルドアップにやや苦しんだ試合後、佐藤監督は昨シーズンのトップチームが経験したあるゲームのことを引き合いに出して、選手たちに『ピッチの中で判断することの重要性』を説いていた。

 そもそもトップチームで起きた事象はU-18の選手にもイメージしやすい上に、そこで明示されたものはそのまま昇格するための基準にもなる。「由紀彦さんは去年もずっとトップチームでやられていた人なので、言われたことを吸収できればトップに行った時にやるべきことを身に着けた状態で行けますし、そこも良いところだと思います」と菅原が話せば、浅田も「由紀彦さんはトップでやられていた方なので、わからないことがあったらどんどん聞きに行ったりしていますし、やっぱりトップチームに昇格することが目標なので、どんどんトップのことも教えてもらって、もっと自分のプラスにできたらいいなと思っています」と言及。着実に選手たちの目線も上がりつつある。

 自身も高校時代から日本一を経験し、プロサッカー選手としてもいくつものクラブを渡り歩くなど、シビアな勝負の世界に身を投じてきたからこそ、佐藤監督は最終的に大事にしたい部分も明確に持ち合わせている。

「監督をやっているといろいろなことがあるとは思いますけど、監督がつまらなそうな顔をしていたら選手もつまらないと思いますし、サッカーって良い意味で“遊び”じゃないですか。自分もサッカーは遊び感覚で始めたわけで、そこはもちろん勝ち負けも入ってくる“遊び”ということになると思うんですけど、相手の逆を取ったり、相手を困らせたり、こう来たらどういうことをしようとか、そういうことが好きで選手もサッカーをやっていると思うんですよね。そこの部分も引き出せたらなとは考えています」。

 勝負にこだわる姿勢と、サッカーを楽しむ姿勢を両立させるために、新監督が挑む大いなるチャレンジ。「由紀彦さんは熱い監督で、『チャレンジできることはどんどんやっていけ』と言われていて、優しくて接しやすさも感じていますし、そういう面で自分ものびのびとやれるのかなという感じはあります」(浅田)。2024年のFC東京U-18がここからどういうグループへと進化していくのかは、注視し続ける必要がありそうだ。

今季からFC東京U-18の指揮を執る佐藤由紀彦監督


(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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