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ポジティブに受け入れたボランチへのコンバート。鳥栖U-18FW山崎遥稀が新たな役割に挑戦する理由

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サガン鳥栖U-18の新ボランチ候補、FW山崎遥稀(2年=サガン鳥栖U-15出身)

[3.14 サニックス杯 鳥栖U-18 0-1 飯塚高 グローバルアリーナ]

 新しいポジションへと取り組むことに、躊躇なんてあるはずがない。今までだって、チームの勝利のためには、自分自身の成長のためには、何よりも任された役割や寄せられた期待にきっちりと応えることが、そこに繋がると信じてプレーしてきたのだから。

「守備のところで結構前からプレスを掛けられたり、前で潰せたり、そういうところは自分の強みかなと思っています。今日の出来はこれまでで一番良かったかなと思うので、ボランチもしっくり来始めていますね」。

 プレミアリーグでの復権を期すサガン鳥栖U-18(佐賀)のナンバー6。中盤の中央で好パフォーマンスを続けているFW山崎遥稀(2年=サガン鳥栖U-15出身)は、着々とボランチとしての新境地を開拓しつつある。


「『どのくらいできるのかな』と思って見ているんですけど、今日も普通にやっていましたよね」。チームを率いる田中智宗監督は、6番を背負った中盤の選手をそう評価する。『サニックス杯国際ユースサッカー大会2024(福岡)』の2日目。飯塚高(福岡)と対峙した鳥栖U-18のボランチには、昨シーズンまで主にストライカーポジションを務めていた山崎が入っていた。

 まだ新たなポジションにトライし始めてからは1か月ぐらい。「攻撃ではとにかくテンポを出すことを意識してやっていて、守備では自分もチームメイトもスライドをどれだけ速くできるかということを意識してやっています」とは本人だが、とても“新米ボランチ”とは思えないようなクオリティを発揮しつつ、チームを中盤の位置から引き締めていく。

「技術がない子ではないので、テンポを出せるようにしたり、ボールを持ってからのスピードを上げる方にちょっとシフトチェンジしてあげながら、彼の良さを出せるようにというところでやっています」と起用の理由を語るのは田中監督。確かにビルドアップにも積極的に関わりながら、対面の選手がボールを持った時には、素早く寄せて相手のプレーを制限するシーンも多々。ピッチの中で効果的に立ち回る。

 この日は前半の40分間だけの出場となったものの、自身も手応えは上々。攻守に継続して強度を出し続けられるスタイルは、もう本職のそれ。オプションにとどまらない山崎のボランチ起用が、現実味を帯びてきている。


 2年前のプレミアリーグ日本一から一転、昨シーズンの鳥栖U-18は残留争いに巻き込まれ、降格の危機と隣り合わせのシビアな戦いを強いられた。そんな勝ち点を落とすことの許されないリーグ終盤戦。田中監督は新たに採用した3バックの中央に、山崎を送り込む。

「3枚の真ん中で使っていた時のパフォーマンスも結構良かったんです」と指揮官が言及すれば、本人も「自分にとっては初めてのポジションだったので、ヒリヒリするというよりは、挑戦する気持ちでポジティブにやっていました。プレッシャーは意外と感じなかったですね(笑)。チャレンジする気持ちの方が強かったです」と笑顔でその時を振り返る。

 結果的にチームは苦しみながらもプレミア残留を引き寄せる。「センターバックでも攻撃の面ではキックでライン間を通したり、背後に蹴れたりしたので、『それを中盤でも生かしてほしい』ということは言われていて、そこができたらもっといいかなと思っています」という山崎のポリバレントな能力は、既に昨シーズンからグループを救っていたというわけだ。

 鳥栖U-15時代にはゴールという形でチームを牽引し、高円宮杯U-15選手権で日本一を経験。『10番のストライカー』として世代別代表にも選出されるぐらいの才能を有する山崎だが、コンバートを受け入れたのには明確な理由がある。

「最初の方は少しフォワードへの未練もあったんですけど、ユースに上がってスピードやフィジカルの部分で勝てないところもありましたし、そこでしっかり切り替えてやっていかないとプロも無理だと思ったので、もう未練はそこまでなく、切り替えていろいろなポジションをやっていますね」。

 絶対的な目標はプロになること。そのために以前のイメージとはまったく違うポジションや、まったく違う役割にも積極的にチャレンジする姿勢は、この厳しいサッカーの世界で生き残っていくために必要不可欠であることも、また間違いない。


 1年時からプレミアリーグで出場機会を重ねていた山崎にとっても、最高学年となる今シーズンは今までより自覚的にチームを牽引する立場を期待されることは言うまでもない。

「今シーズンは副キャプテンになりましたし、今まで試合に出ていた分の経験値もあるので、自分が一番声を出して、引っ張ってやっていかないと、チームもうまく行かないかなと思いながらプレーしています」。飯塚戦ではキャプテンマークを左腕に巻きつつ、周囲を積極的に鼓舞するシーンも。中心選手の自覚もきっちりと持ち合わせている。

 掲げる目標には、ある意味で“ストライカーらしい”強気な言葉が並ぶ。「チームとしてはしっかり一丸となって、一昨年のようにプレミア優勝というところを目指してやっていきたいですし、個人としてはトップチームに絡んでいきながら、代表にもまたしっかり呼ばれるようになっていきたいなと思っています」。

 ちなみにコンバートされた時から、何となく背番号は予想が付いていたそうだ。「6という番号をもらった時には、もう自分もボランチをやっていたので、だいたい予想していた番号ではありましたね(笑)」。

 2024年の6番を託された、鳥栖U-18の新ボランチ候補。チームが窮地に陥った時、山崎遥稀が披露し続ける献身的なプレーが仲間を力強く救うシーンは、十分すぎるぐらいにハッキリとイメージできそうだ。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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