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「ミラクル都農」の進撃は続く。都城農は苦手のPK戦で小林秀峰を振り切って37年ぶりのファイナルへ!

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都城農高は苦手のPK戦を制して37年ぶりのファイナルへ!

[10.29 高校選手権宮崎県予選準決勝 小林秀峰高 1-1 PK3-4 都城農高 串間市総合運動公園陸上競技場]

 勝利の瞬間。黄色と黒の歓喜がピッチ上で爆発する。中には涙を浮かべる選手の姿も。それだけでもこの1勝の価値が、十二分に見て取れる。しかも今年のチームが煮え湯を飲まされ続けてきた、苦手のPK戦を制したのだ。それぐらい喜んだって、バチは当たるまい。

「今は私立がどんどん上に上がってくる時代になってきていますけど、そういう私立のチームに気持ちでちょっと負けている部分もあると思うので、今回で『公立でもやれるんだぞ』というところを、他の公立の学校にも示していきたいと思います」(都城農高・德重瑠佳)

 公立校同士のセミファイナルは激闘の末にPK戦で決着。29日、第101回全国高校サッカー選手権宮崎県予選準決勝、初の全国を狙う小林秀峰高と、昭和60年度の全国初出場時以来となる決勝進出を期す都城農高の対峙は、前半にMF山﨑裕碁(3年)のゴールで小林秀峰が先制したものの、後半終了間際にFW河野佑哉(2年)が起死回生の同点弾を叩き込んだ都城農が、最後は新人戦、インターハイ予選とともに敗退を突き付けられたPK戦で競り勝ち、実に37年ぶりの全国切符まであと1勝と迫っている。

 お互いに少し慎重に入った立ち上がりを経て、先にシュートを放ったのは都城農。前半12分。こぼれ球を拾ったMF別府凌(3年)のミドルが枠を捉え、ここは小林秀峰のGK栗原健志郎(3年)がキャッチしたものの、まずは打ち出したゴールへの意欲。以降も1トップに入った河野と、FW竹之下皓星(3年)とFW西堅輝(3年)で組んだ2シャドーにボールを入れながら、先制の機会を窺う。

 対する小林秀峰も右サイドハーフに入ったレフティのFW宮田空(3年)をアクセントに、馬力のあるFW冨岡愛稀(3年)とFW薗田大輝(3年)の2トップにボールを集め、アグレッシブなアタックを。22分にはボランチのMF遠目塚大(3年)が右から中へ折り返し、こぼれを拾った宮田のシュートはクロスバーにヒット。あわやというシーンを創出する。

 拮抗した攻防が続く中で、スコアを動かしたのは一瞬の隙を見逃さなかった小林秀峰。前半終了間際の39分。DF青屋柊佑(2年)のスローインから、右サイドに開いた冨岡がクロスを上げ切ると、ニアを抜けてきたボールを、左から飛び込んできた山﨑がきっちりゴールネットへ送り届ける。ファーストハーフは小林秀峰が1点をリードして、40分間が終了した。

 後半はいきなり決定機を作り合うスタートに。3分は都城農。3バックの右を務めるDF満留颯大(3年)がクロスを上げると、フリーになったMF盛田康生(3年)の足元にボールがこぼれるも、シュートは打ち切れず。5分は小林秀峰。遠目塚が左サイドの裏へ好フィードを落とし、走った薗田のボレーは枠を襲うも、都城農のGK久保陽翔(2年)がファインセーブで応酬。ゲームのギアが一段階上がる。

 ただ、10分を過ぎると「風上になったので、ウチの3バックの所からボールを動かして侵入していけば、たぶん前でチャンスはできるから、焦れずにやろうと。ハーフタイムにウチの攻撃の形をもう1回確認しました」と横山雄太監督も話した都城農ペースに。12分には竹之下の右クロスに、河野と別府が相次いで打ち込んだシュートは、ともに小林秀峰のDFのブロックに遭うも好トライ。17分にも途中出場のMF志々目拓翔(2年)の右アーリーに、合わせた河野のヘディングは枠の上へ。18分にも別府がディフェンスラインの裏へ落とし、志々目の右クロスは栗原がファインセーブで弾いたが、都城農が踏み込んだアクセル。

 突き放したい小林秀峰も、もちろん攻める。24分には高い位置でボールを奪った冨岡がそのまま運び、持ち込んだシュートはクロスバーの上へ。27分は決定的なチャンス。薗田のパスを引き出した冨岡は、マーカーを切り返しで完璧に外し、そのままシュートを打ち切ったが、ボールは枠を越えてしまい、追加点には至らず。さらに32分にもキャプテンのDF藤本相太(3年)を起点に冨岡が繋ぎ、宮田が枠へ収めたフィニッシュは、久保が懸命にファインセーブ。スコアは1-0のままで、いよいよゲームは最終盤へ。

 ドラマはここで待っていた。後半終了間際の40分。左サイドで都城農が手にしたCK。ここまでも再三良いボールを蹴っていたレフティのDF小坂琉偉(3年)が丁寧に入れたキックが中央にこぼれると、「ボールがゴチャゴチャしている時に、『このへんにいたら決められるな』という考えは一応持つようにはしている」という河野は右足一閃。軌道がゴールネットを力強く揺らす。

FW河野佑哉がゴールを奪い、都城農高が土壇場で追い付く


「『やれる!やれる!』と後ろから声を掛けて、全員を前向きな気持ちにさせようとしていたので、最高でした」(德重)「前回の試合で僕たちは先制点を獲られても勝ち切れたので、そこを自信に頑張れたと思いますけど、もう泣きそうでした」(満留)「みんなから見たらたまたまかもしれないですけど、そこにいたことが大事だと思ってますし、とても嬉しかったです」(河野)。1-1。都城農が執念で追い付くと、延長戦でも決着は付かず。ファイナルへの切符はPK戦で争われることになる。

 1人目は両チームがきっちり成功。だが、先行の都城農は2人目のキックが左ポストに弾かれてしまう。ここで奮起したのが2年生守護神の久保。小林秀峰3人目のキックを完璧に読み切り、完璧なセーブ。4人目はお互いにきっちり決め切り、白熱の勝負は5人目へと突入する。

 都城農の5人目は河野。「総体は自分が外して負けてしまったので、『ここでその壁をしっかり超えないとな』と思って蹴りました」というキックは、GKの逆を突いて成功。そして、小林秀峰の5人目。短い助走から蹴ったキックは、無情にも枠を外れ、激闘に終止符が打たれる。

「最後は気持ちだと思っていたので、選手たちが報われて良かったです。新人戦も総体もベスト8を懸けた試合で、リードを追い付かれてPK戦で負けて、ずっと悔しい想いをしていたので、それが今回は追い付いて逆転してみせるなんて、逞しくなったなと思いました」と横山監督も選手を称えた都城農が、土壇場からの鮮やかな生還劇で決勝へと勝ち上がった。

 実はPK戦が始まる直前。都城農はある“コーチ”が自ら「一言いいですか?」と申し出て、選手たちへメッセージを送ったという。その“コーチ”とは3年生のDF宮窪大志。夏に負ったケガでプレーヤーを続行するのが難しくなった宮窪は、副キャプテンも務めるそのリーダーシップを買われて、選手権のベンチにコーチとして座っているのだ。

「ずっと今までの大会では、都農自体が良いところまで行くんですけど、PK戦で勝てない流れがありました。でも、今大会は今まで勝てなかった日南学園や、去年の選手権で負けた宮崎西にも勝って、自信を付けてきたんだから、思い切り蹴って来いよということだけ言いましたね」(宮窪)。横山監督は「彼が最後はチームをギュッとまとめてくれたんですよね」とその時の雰囲気を振り返る。

 加えてキャプテンを託された德重の言葉も印象深い。「実際にPK戦に嫌なイメージはありましたけど、僕がキャプテンとして『PK戦でも勝つぞ』ということをみんなに伝えて、1人1人ハイタッチしながら声を掛けていって、『みんなでやるぞ』という気持ちを持っていきました。PK戦は僕が1番目に蹴るんですけど、自分が最初に決めて、みんなに気合いを入れさせようと思って蹴りました」。そして、前述したようにチームは新人戦もインターハイも涙を吞んだPK戦を、ついにモノにしてみせた。

 決勝の相手は日章学園。インターハイでも全国ベスト16に入っており、「日章さんは頭3つ分くらい抜けていますから」と横山監督も口にはするものの、「最初から負けるつもりはないので、勝てる可能性を上げられるようにやっていきたいと思います」と力強い言葉も残している。

「これで今までの自分たちの苦手意識を克服できたと思っているので、良い形で進んでいるのかなと。決勝は攻められるのかなとは考えているんですけど、自分たちも公立の誇りを持って、都農の泥臭さを見せていって、全員で食らい付きたいなと思っています」(德重)。

 相手にとって不足はない。37年ぶりの戴冠へ。数々の困難をくぐり抜け、ファイナルまで辿り着いた『ミラクル都農』が、膨らみ続けている確かな一体感を武器に、最後の1試合へチーム全員の力を結集して、堂々と立ち向かう。

PK戦での勝利に雄たけびを上げる都城農高の“3年生コーチ”、DF宮窪大志


(取材・文 土屋雅史)
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