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予選前に施した一手がチームの成長を促す契機に…佐野日大が全国4強入りを果たした16年度以来の選手権出場決定!

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6年ぶり9回目の全国出場を果たした佐野日大高

[11.12 選手権栃木県予選決勝 佐野日大高 2-1 宇都宮短大附高 栃木県グリーンスタジアム]

 快進撃で初の全国4強入りを果たしてから6年。何度も阻まれてきた決勝の壁を超え、歓喜の瞬間を迎えた。

 11月12日、第101回全国高校サッカー選手権栃木県予選決勝が行われ、佐野日大高宇都宮短大附高を2-1で下し、6年ぶり9回目の選手権出場を手中に収めた。

「最初は関東大会の県予選決勝で負けて、インターハイ予選は決勝でPK負け。リーグ戦の前は勝てたけど、後期は引き分け。決してうちに分がある相手ではない。戦術的にもメンタル的にも受けて立ってはいけなかった」(海老沼秀樹監督)。

 6年連続で出場していた矢板中央高を準決勝で撃破した宇都宮短大附に対し、今季は4試合戦って2勝1分1敗。過去の実績では佐野日大が上回っていたとはいえ、今年の実力はほぼ互角だった。“引かずに前に出る”。そう意気込んでゲームに入った佐野日大は、得意のロングボール攻勢で序盤から仕掛けていく。相手を押し込み、試合の流れを掴んだかに見えた。しかし――。前半9分に一瞬の隙を突かれてしまう。宇都宮短大附のFW高橋凪翔(3年)が35mあたりからロングシュートを打つと、GK平岡倖輝(2年)の頭上を超えてゴールに吸い込まれた。

 先制点を許した佐野日大は反撃を試みる。互いに3-4-2-1の布陣でミラーゲームになるなか、最終ラインとウイングバックの間にできるサイドのスペースにロングボールを入れて相手を押し込んでいく。両サイドハーフにボールがつながり、徐々にゴール前でプレーする回数も増えた。だが、サイドから良い形でクロスボールが入らない。「ちょっと焦りがあった」とはゲームキャプテンのMF籾山陽紀(3年)の言葉。打ち急ぐ場面も目立ち、嫌な雰囲気が漂う。すると、指揮官が動く。前半29分に負傷明けで今大会初出場のFWヒアゴンフランシス琉生(3年)を投入。シャドーに配置し、個人技に長けるアタッカーに局面の打開を託した。徐々に攻撃のテンポが上がり、後半8分にはCB大野結斗(3年)のロングスローをFW中埜信吾(3年)がニアで後ろに流すと、FW大久保昇真(3年)が顔面で押し込んだ。

 ここから勢いに乗りたかった佐野日大だが、CB北村朔也(3年)を軸と宇都宮短大附の堅守をなかなか崩せない。相手の身体を張った守りに苦戦し、クロスボールやラストパスをことごとくクリアされてしまう。足が止まった後半以降は相手にカウンターからピンチを作られ、セットプレーからヒヤリとする場面もいくつか作られた。

 なんとか凌いで80分を終えたものの、この時点でのシュート本数は佐野日大が21本に対し、宇都宮短大附は4本。試合の主導権を握りながらも、効率良く攻め切れない展開となった。その中で迎えた延長戦。重苦しい雰囲気を変えたのは、佐野日大No1のテクニックを持つヒアゴンだった。延長前半のアディショナルタイム。中埜からパスを受けて左サイドから中に入り、斜め45度の位置から右足を一閃。強烈な一撃がゴールに突き刺さり、この試合初のリードを奪った。

 延長後半は相手のパワープレーを受ける展開となったが、チーム全体で盛り立て跳ね返していく。GK平岡やCB青木柾(3年)を軸に最後まで集中力を切らさなかった佐野日大が凱歌を挙げた。

 苦しみながらも6年ぶりに出場権を勝ち取った佐野日大。予選前は怪我人が多く、不安視する声も少なくなかった。チームキャプテンのMF江沢匠映(3年)は右膝の半月板を損傷中。この決勝の最終盤に今予選初出場を果たしたものの、コンディションは全く戻っていない。決勝点を挙げたヒアゴンも腰椎分離症から10月に復帰したが、現在も骨折が完治していない中でのプレーが続く。主力の選手たちが怪我を抱えており、チームには一人ひとりの自覚とさらなる成長が求められていた。そうしたチームを大きく変えたのが、指揮官の決断だ。海老沼監督は10月から指揮を高瀬亮コーチに任せ、自身は一歩引いた位置からチームを見守ると決め込んだ。その意図を指揮官は「私も歳なんで(笑)」と冗談を交えながらこう話す。

「高瀬コーチは20何年一緒にやってきて、私も彼を信頼している。その中で彼は私とは違う視点で生徒を見てくれる。どうしても自分は選手に厳しく見てしまう。子供たちに感じたことを伝えるにあたって、私がいうとニュアンスが厳しくなることもあるので、今年は色々やってみようと思っていたんです」

 伝え方ひとつで選手の成長速度も変わる。「違う視点で伝えてもらい、今までにはない発見もあった」(籾山)。そうした新たな体制での指導が花開き、選手のモチベーションを引き出すことにもつながった。

 選手権では過去最高のベスト4を目標に戦う。矢板中央が17、19、20年度にベスト4入りを果たしており、栃木県勢として早期敗退は許されない。「すべての面でレベルアップしないと矢板中央さんみたいに結果を残せない」とは指揮官の言葉。チームとして決定力の改善も含めて課題も多いかもしれない。だが、残された期間でさらなる成長が果たし、6年ぶりとなる選手権での飛躍を誓う。

(取材・文 松尾祐希)
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