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「学芸館の新時代を作りたい」。岡山学芸館が誇る謙虚で強気な左SB中尾誉の“新時代宣言”

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堅実で大胆な左サイドバック。岡山学芸館高DF中尾誉

[1.7 全国高校選手権準決勝 神村学園高 3-3(PK1-4)岡山学芸館高 国立]

 それまで謙虚な言葉を並べていたその男は、少し控えめに、だが、はっきりとこう言い切った。

「学芸館の“新時代”を作りたいと思います」。

 堅実さと大胆さを兼ね備えた、安定感抜群の左サイドバック。岡山学芸館高(岡山)DF中尾誉(3年=鷲羽FC出身)は、決勝の舞台でも日本一へと繋がる扉をこじ開け、“新時代”を力強く切り拓く。

 普段は冷静な18歳になったばかりの青年にとっても、やはり聖地のピッチは特別だった。「今までの会場とは全然違いました。入場シーンの時にグッと来たというか、今まで感じたことのないような気持ちになりましたね」。国立競技場で行われる神村学園高(鹿児島)との準決勝。勝てばファイナルという大一番に、スタンドには2万人を超える観衆が詰めかける。

「こんなお客さんが多い試合は初めてでした。最初は緊張したんですけど、自信を持ってプレーしようと思いましたし、今日は学校の生徒の人たちもたくさん来ていたので、スタンドを見たら『やるしかないな』って」。応援席を見上げると、目に飛び込んできたのは水色の仲間たちの姿。一気にスイッチが入る。

 やることはいつもと変わらない。「逆サイドのサイドバックが上がったら守備が手薄になるので、その時は自分がカバーしないといけないと思っていますし、僕が上がった時は右サイドバックの福井(槙)選手を信頼しているので、自由に上がることができています。もともとボランチの選手なので、攻撃参加はしたいタイプですね(笑)」。まずはバランス重視。状況を見ながら、行く時は思い切って前に飛び出していく。

 実は全国大会に入ってから、攻撃面での手応えを掴んでいた。2回戦の鹿島学園高(茨城)戦では、FW今井拓人(3年)が決めたゴールの起点になるフィードを送るなど、決定機に繋がるプレーも。「常に前を見ながらプレーすることは意識していて、それが良い感じにできていると思います。この大会の攻撃には手応えはありますね」。

 この日も中尾はその感覚を証明する。1点のビハインドで迎えた後半17分。左サイドでルーズボールを収めると、外に開いていたMF田邉望(2年)ではなく、斜め前の位置に潜っていたMF山田蒼(3年)へのパスをチョイス。その山田のクロスから今井が同点弾を叩き込む。

「あの時はサイドに1人味方がいたんですけど、10番が見えたので『こっちの方がチャンスに繋がるな』と思って縦に差したら、蒼がそのままチャンスを作ってくれて、それが得点に繋がったので、良いプレーだったと思います。あそこで蒼が見えていて良かったです」。小さく浮かべた笑顔が微笑ましい。

 後半のゲーム運びには確かな感触を得ていたという。「後半は相手を見ながら自分たちのサッカーができたと感じています。ギャップにパスを差しながら前進できたり、サイドアタッカーが1対1で仕掛けることができたので、それで自分たちのペースになったと思います」。3点目を奪われても、3点目を奪い返す。最後はPK戦でも4人全員が成功。「凄く嬉しいですけど、ビックリしています」と素直な感想を口にした中尾も、チームメイトと作った歓喜の輪の中で、決勝進出の喜びを噛み締めた。

 もともとのポジションはボランチ。前に出ていくことは得意としていたが、対人での弱さが課題だった。「『ボールの移動中にどれだけ寄せられるか』ということは練習中から言われているので、意識して相手へと寄せるようにしていますし、そこはだいぶできるようになっていると思います」。

 印象的だったのはインターハイ3回戦の中京大中京高(愛知)戦。相手に寄せ切ってボールを奪い、機を見たインターセプトもほとんど成功。5-0の快勝に左サイドバックが果たした貢献度はとにかく高かったが、それも日常の積み重ねの結晶。その守備でのアグレッシブな安定感は、この選手権でも十二分に発揮されていると言っていいだろう。

 あと1つで日本一という位置まで駆け上がってきた。「ここまで来られたことは嬉しいですけど、決勝に行けたことだけで満足せずに、明日の練習でも雰囲気を作りながら、次も絶対に勝てるように準備したいと思います」と話した中尾に、「ゴールも狙いますか?」と尋ねると、ちょっとだけ考えて「アシストしたいです」と優しい笑顔で言葉を紡ぐ。

 確かな信念を携えた、謙虚なナンバー5。控えめな言葉に騙されてはいけない。中尾は国立競技場の晴れ舞台で、左サイドバックの位置から、岡山学芸館の“新時代”を切り拓く気満々だ。

(取材・文 土屋雅史)
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