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3度の窮地から勝負を「引きずり戻した」執念のチーム力。堀越はPK戦で修徳を振り切って2年ぶりの全国切符!:東京B

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堀越高はPK戦までもつれ込む激闘を制して2年ぶりの全国へ!

[11.11 選手権東京都予選Bブロック決勝 修徳高 1-1 PK2-3 堀越高 味の素フィールド西が丘]

 1点をリードされた試合は、ほとんど終わりかけていた。延長の最終盤には、決勝点を奪われていてもおかしくなかった。PK戦だっていきなりのビハインドからスタートしている。それでも、谷底へ転げ落ちそうなところから何とか這い上がり、強引に流れを引きずり返す力強さが、今の彼らには備わっていた。

「今日のテーマは選手に『引きずれ』と言ったんです。『オレたちもそんなにイニシアチブを取れるわけではないから、とにかく流れとか試合を引きずってこい』という強い表現として、今回の試合のテーマとして僕が言った言葉だったんですけど、それで実際に最後の最後でゲームを引きずり戻してくれましたね」(堀越高・佐藤実監督)。

 後半終盤の劇的同点弾から、執念のPK勝利。第102回全国高校サッカー選手権東京都予選Bブロック決勝、10年ぶりの全国に王手を懸けた修徳高と、2年ぶりの東京制覇を目指す堀越高が対峙した一戦は、後半5分にFWンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄(3年)のゴールで修徳が先制したものの、後半40分にFW高谷遼太(3年)が起死回生の同点弾を叩き出した堀越がそのままPK戦も制し、逞しく東京の頂点に立っている。

 オープニングシュートは前半2分の修徳。左サイドを運んだFW田島慎之佑(3年)がカットインしながら、利き足とは逆の右足でシュート。ボールは枠の右へ外れたが、「決勝でも得点を決めて、自分がチームを全国に導きたいという想いはあります」という1年時から10番を背負ってきたレフティが、いきなり先制への意欲をフィニッシュに込める。

 ただ、以降のペースは堀越。4分に右サイドからMF仲谷俊(2年)が蹴り込んだCKに、高谷が合わせたヘディングはクロスバーにヒット。22分にもやはり仲谷が入れた右CKから、DF森章博(2年)のヘディングはわずかに枠の上へ。さらに22分にもFW中村健太(3年)が高い位置でボールを奪い、高谷はすかさず右へ。マーカーを鋭い切り返しでかわしたMF渡辺隼大(2年)のシュートは、修徳のGK小森獅音(3年)がファインセーブで凌いだものの、「良い流れで前半は行っていましたね」と佐藤実監督も認めたように、堀越の勢いが増していく。

 40+1分も堀越。DF森奏(2年)が縦に付けたボールを残した中村が、高谷からのリターンを受けて枠内へシュートを打ち込むと、ここも小森がビッグセーブで応酬。DF山口春汰(3年)とDF平山俊介(3年)のセンターバックコンビと守護神の小森を中心に、何とか修徳ディフェンスは40分間を耐え抜き、前半はスコアレスで推移する。

 役者の一刺しは後半5分。修徳はMF橋本勇輝(3年)が左へフィードを送り、収めた田島は小さく後ろへ。駆け上がってきたDF島田侑歩(3年)の完璧なクロスへ、ンワディケが最高のタイミングと打点で応えたヘディングは、右ポストの内側を叩いてゴールへ転がり込む。「『今、欲しい』という時間帯で点を獲ることが高校に入ってから多いので、たぶん持ってます」と言い切っていたエースが決勝の舞台で大仕事。1-0。均衡は破られた。



「そんなに焦りはなかったですし、周りが結構落ち着いていたので、『まだ行けるな』とは感じていました」とキャプテンの中村が話した堀越は、攻勢から一転してビハインドを負う展開に。中盤中央のMF吉荒開仁(3年)と渡辺もより攻撃参加を増やし、右の中村と左のFW小泉翔汰(2年)の仕掛けに活路を求めるも、エリア内のシビアなゾーンには侵入できない。逆に28分には修徳も左から田島が上げたクロスに、飛び込んだンワディケのヘディングは左ポストを直撃。2点目をしたたかに窺い続ける。

 29分に堀越のキャプテンを務める中村は勝負の采配を。奮闘した森章博に代えて、DF渡辺冴空(2年)を投入したタイミングで、最終ラインにDF竹内利樹人(2年)、渡辺冴空、DF瀬下琥太郎(2年)の3枚を並べ、センターバックの森奏を最前線へ送り込み、「もう試合が始まる前に『負けていたらこうやる』と言っていた」という布陣で、なりふり構わず1点を奪いに行く姿勢を鮮明に。31分には高谷の強烈なシュートを小森が弾き、詰めた森奏がシュートを放つも、修徳もDF高橋夏輝(3年)が渾身のシュートブロック。得点は許さない。

 40分の主役は「『自分が点を獲るしかないな』と思ってこの試合に挑んだ」というストライカー。堀越は右サイドへの展開から中村が後方へ戻すと、渡辺隼大は丁寧にクロス。必死にボールへ飛び付いた高谷のヘディングは、フワリとした軌道を描いて左スミのゴールネットへ吸い込まれる。「最後にそういうチャンスが回ってきたら、絶対に競り勝ちたいと思っていました」と口にした9番が、土壇場で今大会初ゴール。1-1。堀越が窮地から勝負を引きずり戻し、勝敗の行方は前後半10分ずつの延長戦に持ち込まれた。


 加えられた20分間は総じて堀越のペースだったが、最大のチャンスは最終盤に修徳へ。延長後半10+1分。島田の左クロスが混戦を生み、山口が頭で残したボールをMF牧村光世(3年)が右足ボレーで叩いたシュートは右ポストに跳ね返り、こぼれに反応した田島のフィニッシュは竹内が身体を投げ出してブロック。延長でも決着は付かず。全国切符はPK戦で争われることになる。

 先攻は堀越。1人目のキックは小森がパーフェクトなセーブで弾き出し、後攻の修徳1人目はきっちり成功。2人目は双方が決め切り、堀越3人目も正確なシュートを沈めると、修徳3人目のキックはクロスバーに阻まれてしまう。

 堀越4人目も冷静に成功。すると、修徳4人目のキックは「相手の情報もあって、キーパーコーチの春原さんとしっかり確認していたので、絶対に止められる自信はありました」という堀越のGK吉富柊人(3年)がストップ。堀越が一歩前に出る。

 だが、決めれば終わりの堀越5人目。左スミを狙ったキックは、ここも小森が驚異的な反応でキャッチ。試合を終わらせない。修徳5人目。短い助走から打ち込んだキックは、クロスバーに跳ね返り、熱戦に終止符。堀越が激闘を粘り強く制し、2年ぶりの全国切符を手繰り寄せる結果となった。



「おそらくこの今年の東京の中で、選手のポテンシャルが一番高いなと思っていたのが修徳高校さんで、そのチームとファイナルで対戦できたことをまず誇りに思いますし、『非常に強かったな』というのが率直な印象です。すべてにおいてクオリティと強度が高かったなという感じがしました」という佐藤監督の賛辞は、おそらく率直な感想だ。間違いなく修徳は全国でも上位を狙い得る好チームだった。

 この試合の最大のポイントは、おそらく延長後半のラストプレーだった。ほとんど勝利を掴みかけていた時間帯で追い付かれ、延長でも耐える時間の長かった修徳が、最後の最後で繰り出したまさに乾坤一擲の総攻撃。堀越の守護神を任されている吉富は「最初に自分が飛び出していって、後ろにボールがこぼれたんですけど、今までも自分が出たらすぐにゴールカバーに入るということをみんなが心がけてくれて、それが今日のあの瞬間にちゃんと出たなという感じで、みんなが身体を張ってくれたので、PK戦に行けたのかなと思います」とそのシーンを振り返っている。

 佐藤監督の言葉も印象深い。「あそこにたぶん修徳さんが全てのパワーを掛けてきた中で、アレが入らなかったというところで、サッカーの神様がいるのだとしたら、もしかしたら僕たちに『もうちょっとやっていいよ』って言ってくれたような気もしましたし、PKの1本目も先攻で外して、これも完全に負けパターンです。だけど、そこも『もうちょっと続きをやってもいいよ』と言われた気がして、いろいろな人に助けられたというか、いろいろなシチュエーションに助けられたなと。僕らの実力ではまったくないと思います」。

 選手権を迎えるまでに堀越が過ごしていた今シーズンは、決して彼らが望んだようなものではなかった。関東大会予選もインターハイ予選もベスト4には届かず、T1(東京都1部)リーグでは最多失点で残留争いを繰り広げている。中村も「正直、まずこの舞台に立てると思っていませんでした。最初にチームをどうして行きたいかを話し合って、『東京制覇』という目標を立てたんですけど、ほど遠いなと。きっと予選の1,2回戦ぐらいで負けて、『結局ダメだったね』みたいな感じで終わるのかもなと思っていました」と率直な想いを明かしている。

 だからこそ、良い意味で割り切った。自分たちの実力を受け入れ、できることを全力で突き詰めてきた。「もう1人が抜かれたら終わりというようなトレーニングも組み込んで、そこの責任感を意識づけたり、あとは周りからの声で『追えよ!』と言ったりとか、やっぱり試合で練習以上にやってきたことは出ないわけで、『全部の練習で試合以上の気持ちを込めてやれば、やっとそれは試合でも出せる』とは監督にも言われているので、そこは徹底してやってきました」(中村)。

 延長後半10+1分のシーン。吉富が飛び出してがら空きになった堀越のゴールには、実に5人の選手がカバーに入っていた。ピッチに立っていたフィールドプレーヤーの半分が、体力的にも一番苦しい時間帯に、危険を察知して目の前のやるべきことを遂行する。決して華麗なシーンでも、目を惹くようなシーンでもなかったが、愚直にゴールを守ろうとした堀越の“5人”を見たサッカーの神様が、あるいは「もうちょっとやっていいよ」と、彼らを敗退の窮地から引きずり戻したのかもしれない。

 2年ぶりの全国大会。前回の晴れ舞台でもピッチに立った2人が、同じことを口にしたのも面白い。「堀越高校の今までの歴史で最高のベスト8を超えられるように頑張りたいと思います」(中村)「一昨年より良い結果を残したいですし、もっと言うならば『堀越史上最高』を超えられるように頑張りたいなと思っています」(高谷)。

 挑むは『堀越史上最高』を目指す大勝負。「やりたいこと」と「やるべきこと」のバランスが取れてきた東京王者が、自分たちの歴史を塗り替える全国4強を堂々と狙いに行く。



(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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