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12年前にスタンドで味わった「国立の記憶」は自分自身で塗り替える。市立船橋MF太田隼剛主将が抱え続ける日本一への覚悟

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市立船橋高の絶対的キャプテン、MF太田隼剛(3年=鹿島アントラーズつくばジュニアユース出身)(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.2 選手権3回戦 市立船橋高 4-1 星稜高 柏の葉]

 3年間待ち焦がれ、ようやく辿り着いた選手権の舞台は、思った以上に素晴らしいものだった。でも、自身の出来は物足りない。もっとできる。もっと輝ける。そのためにこれだけの努力を積み上げてきたのだから。

「今までやってきた試合とは本当に別格で、感じたことない独特の雰囲気もありますし、この大会の凄味が伝わってきて、この舞台でもっとやっていきたいですし、この舞台で自分ももっと輝きたいという想いが、試合を重ねるごとに強くなってきています」。

 12年ぶりの日本一を目指す市立船橋高(千葉)の絶対的キャプテン。MF太田隼剛(3年=鹿島アントラーズつくばジュニアユース出身)はチームの勝利を最優先に置きながら、自らの結果も貪欲に追い求め続けている。


「自分たちの入りは悪くなかったんですけど、それ以上に相手の星稜さんの勢いに上回られて、非常に苦しい展開が多かったですね」。太田は立ち上がりのチームをそう振り返る。ベスト8を懸けて3回戦で戦う相手は星稜高(石川)。前日に発生した能登半島地震の被災地に居を置くチームだけに、この一戦に込めた強い気持ちは十二分に感じていた。

 先制したものの、追い付かれて迎えた前半36分。市立船橋が右サイドで獲得したCK。コーナーアークに立った7番が中央を見据えると、その視界に蹴るべきコースがはっきりと浮かび上がる。

「ポスト横の相手のストーンのところを狙っていこうということは話していて、狙った通りのボールが行ったので、あとは中が決めてくれればというキックでしたね」。ニアサイドに飛び込んだMF岡部タリクカナイ颯斗(2年)が頭で合わせたボールは、力強くゴールネットを揺らす。「隼剛のボールがメチャメチャ良かったので、自分は触るだけでした」とスコアラーも感謝するパーフェクトなアシスト。市立船橋は1点をリードしてハーフタイムへ折り返す。

 後半も“アシストのアシスト”で魅せる。27分。中盤でのルーズボールにいち早く反応した太田は、ダイレクトで左サイドの深い位置へスルーパス。走ったMF森駿人(3年)の折り返しを、MF足立陽(3年)が豪快にゴールへ叩き込み、待望の3点目が市立船橋に記録される。

「少しアバウトな蹴り合いのシーンが多くて、1つセカンドボールを拾ってマイボールにしたり、1本パスが繋がれば自分たちも落ち着いた配球ができるなと思っていた中で、1本セカンドを拾えて、落ち着いてああいうパスが出せたというのは、チームの狙いとしていた形が出たのかなと思います」(太田)。

 終わってみれば、試合は4-1で快勝。思わぬ事態に見舞われながら、最後まで戦い抜いた相手を慮りながら、「いろいろな状況の中で、まず試合ができたことにしっかり感謝したいですし、サッカーの力の偉大さを改めて認識できたのかなと思います。いろいろな人の想いを背負った中で次のステージへ進むということは、このメンバー1人1人が持たなくてはいけないところなのかなとも感じています」と言及したキャプテンの大人びた雰囲気が印象的だった。


 今から2年前。まだ1年生だった太田が、無邪気に話していた言葉を思い出す。「幼稚園の頃なんですけど、和泉(竜司)選手が出ていた四日市(中央工高)との選手権の決勝を国立に見に行って、それで『うわ、イチフナってスゲー!行きてえ!』と思って、その時から決めていました。当時は小さかったので『どこのチームだろう?』とか思っていたんですけど、実際千葉にあるって聞いて、地元だし『メッチャ行きたい』って。ジュニアはレイソルで、そこから鹿島のつくばジュニアユースに行ったんですけど、どうしても市船に行きたくて、ここに来ました」。

 幼稚園の年長時代に出会った運命的なチームの門を叩いたが、この2年間はなかなか冬の全国の扉が開かない。とりわけ2年生ながらゲームキャプテンを任されていた昨年度は、先輩ばかりのグループをまとめる役割に苦心しつつ、必死にリーダーシップを発揮していたものの、選手権予選は決勝で敗退。悔しすぎる想いを抱えて、高校ラストイヤーを迎えることになった。

 昨年の4月。新シーズンもキャプテンを務めることになった太田は、確かな決意を口にしている。「どのカテゴリーもみんな1つになってくれているので、誰一人欠けてはいけない存在だと思っていますし、目標に向かって1つになれる本当に良いチームなので、今年こそ結果を残さないといけないですし、もう1回市船の力を全国に示さないといけないので、先輩方が築いてきた伝統も守りつつ、自分たちで新たな歴史を作っていく意味でも、しっかりといろいろな新しいことにチャレンジしながら、『強い市船』をもう一度取り戻したいと思います」。

 3年目で初めてピッチを踏みしめた、最後の選手権。ここまで2つのアシストこそ記録しているが、自身の得点はまだ生まれていない。「今日も1本、郡司(璃来)からマイナスのパスがあって、芝の状態で弾んでしまったんですけど、トラップしておけば良かったなという後悔はありますね。2試合目でもそういうシーンがあって、まだ自分の力を出し切れていない部分が今大会は続いているので、もう1回自分自身に矢印を向けて、次の試合に挑みたいなと思います。この舞台で何とかゴールを決めて、目立ちたいという想いが強いですね」。

 まだ無邪気さばかりが目立っていた1年生は、2年にわたってチームをまとめる重責と向き合ったことで、文字通りチームを牽引するキャプテンに成長を遂げた。ただ、基本的なメンタルはきっと2年前と大きくは変わっていない。「攻撃でも自分が点を決めるみたいな、フォワードより点を決めるぐらいでやりたいと思います」。その強い意志は、いつだって心の中に置き続けている。

 選手権予選を間近に控えた10月。太田はきっぱりとこう言い切っていた。「何のために市船に来たかと言えば、やっぱり選手権で全国に出るためではなくて、全国で優勝するためなので、しっかり選手権で優勝して、気持ちよく引退したい気持ちが強いですね」。

 12年前に聖地のスタンドで体感した日本一の記憶を、青いユニフォームを纏った自分で塗り替えるために、必要な勝利はあと3つ。まずは憧れの国立競技場でのプレーを手繰り寄せるべく、太田は勝利と自らの結果の“二兎”を、真剣に追い求める。

(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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