beacon

日本一の嬉しさと悔しさを刻み込んだストライカー。桐蔭横浜大の相模原内定FW左部開斗は仲間の想いを背負ってプロの世界へ飛び込む

このエントリーをはてなブックマークに追加

桐蔭横浜大FW左部開斗はこの日の嬉しさと悔しさを胸にプロの世界へ

[1.1 インカレ決勝 新潟医療福祉大 2-3 桐蔭横浜大 国立]

 最高に嬉しい気持ちと、最高に悔しい気持ちが、混ざり合う。あの日に届かなかった日本一に辿り着いた感慨と、その舞台に立てなかった痛恨と。2つの湧き上がった感情を携えて、今度はプロの舞台で、誰よりも輝いてやろうという覚悟が定まった。

「高校の時に全国の決勝に出て、大学でもこうやって全国の決勝まで来て、『これは運命だな』って。僕にチャンスが回ってくると思っていたんですけど、使ってもらえるぐらいの信頼がなかったのかなという、その悔しさが一番残っていますね。でも、もちろんチームが勝って優勝したことは、とにかく嬉しかったです」。

 フォワードはそのぐらいの気概があっていい。桐蔭横浜大(関東4)の闘うストライカー。FW左部開斗(4年=流通経済大柏高)のサッカーキャリアは、まだまだこれからが本番だ。

 2019年1月14日。埼玉スタジアム2002のピッチで、その男は懸命にこみ上げる涙をこらえていた。高校選手権決勝。流通経済大柏高は青森山田高に逆転負けを喫し、目前に迫った日本一をさらわれる。シーズンの途中からキャプテンを託された左部は、自分の不甲斐なさとこの仲間ともうサッカーができなくなる寂しさに、心が決壊しないよう、ずっと涙をこらえていたのだ。

「僕の中では高校3年生の冬の選手権で青森山田に負けた試合は一生忘れないですね」。それから4年。左部は桐蔭横浜大の選手として、再び全国の決勝を戦う機会に恵まれる。そして相手の新潟医療福祉大(北信越1)では、因縁の関係としか表現しようのない選手が、キャプテンとしてプレーしていた。

「今日は相手に二階堂が、あの時に屈辱を与えられたヤツがいたので、『絶対にオレが今日ここで点を決めてヒーローになってやる』って思っていたんです」。青森山田高のディフェンスリーダーとして左部の前に立ちはだかったDF二階堂正哉(4年)との“再会”。この4年間、ずっと自分の中に燻っていた感情を払拭するための舞台と相手。燃えないはずがない。

 結果から言うと、ベンチスタートだった左部に決勝の出場機会は巡ってこなかった。「正直なことを言うと不完全燃焼です。『コイツなら決めてくれる』というような信頼を勝ち得ていたら、2-2の同点になった80分ぐらいから出ていたと思うんですけど、そこで自分の実力不足を感じました」。最後に劇的な決勝ゴールを挙げたのは、ずっとポジション争いを続けてきたFW山田新(4年)だった。

「結局、山田かと(笑)。山田と寺沼がいたからこそ、自分も『コイツらには負けていられない』という想いで4年間切磋琢磨しながらやってきたんですけど、最後もアイツらに全部持っていかれてしまいましたね」。この日も揃ってゴールを決めたFW寺沼星文(4年)と山田の壁は、最後まで左部にとって高かった。

 だが、この大学に来て得られた一番の収穫も、彼らの存在だったことは間違いない。「やっぱり桐蔭横浜で一番大きかったのは、同期にあの2枚のフォワードがいたことですね。アイツらと一緒に練習できたのが僕の中でも凄く大事なことで、『アイツらに勝つためには』『自分が試合に出るためには』という競争意識を常に持って練習に取り組めてきたんです」。

「最後はアイツらに良いところを持っていかれてしまいましたけど、その競い合ってきた経験があったからこそ相模原さんが拾ってくれて、プロに挑戦するチャンスを掴めたかなと思っていますし、今度こそは絶対アイツらより上のレベルまで行きたいですし、負けていられないという想いにさせてくれるヤツらがいるような環境に来ることができたので、それは僕の中で本当に大きかったです」。

 2023年からはSC相模原でJリーガーになることが決まった。今まで一緒にプレーしてきた仲間の想いも背負い、プロの世界に身を投じていく。「今日は流経の時のチームメイトもみんな応援に来てくれていたんです。きっと最初は『アイツがプロに行くのか?』と思ったはずですけど、『オマエには期待してる』と言ってくれたので、アイツらの分もプロになって活躍したい想いはメチャメチャあります」。

「僕もサッカー選手に夢を与えられていた立場なので、逆に自分が夢や希望を与えられるような、こうなりたいと思ってもらえるような、ずっと幼い頃から夢見ていた舞台に立てるところまで来られたことが非常に嬉しいですし、さらに上のレベルでやれるような選手になりたいなと思っています」。

 大学ラストゲームで、日本一の嬉しさと悔しさを、同時に自分の中へ刻み込んだストライカー。自らのゴールだけで、その進むべき道をどこまでも切り拓くことのできる日々が、左部のこれからには無限の可能性とともに広がっている。

(取材・文 土屋雅史)
●第71回全日本大学選手権(インカレ)特集

TOP