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10年ぶりA代表の宮市亮「19歳で野心を持ち過ぎて…」赤裸々に明かした“過去の自分”

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約10年ぶりにA代表に復帰したFW宮市亮

 最後の日本代表招集から9年9か月——。FW宮市亮(横浜FM)が大きなブランクを経てA代表に帰ってきた。あの時野心に燃えていた19歳は、今代表では年長4番目の29歳。18日、オンライン取材に対応した宮市は「自分のためよりチームのために何ができるか。E-1選手権を勝ち取りに行きたい」と控えめに意気込みを語った。

 中京大中京高を卒業後、イングランド名門アーセナルでプロキャリアをスタートさせた宮市。日本代表でも19歳で迎えた2012年2月のブラジルW杯3次予選で初選出を果たし、5月23日のキリンチャレンジカップ・アゼルバイジャン戦(○2-0)で途中出場で代表デビューすると、続く6月の最終予選でも招集機会を得るなど、前途洋々なキャリアを歩んでいるかのように思われた。

 ところが同年10月16日のブラジル戦(●0-4)で後半終了間際からピッチに立ったのを最後に、日本代表としてのキャリアは長らく途絶えた。理由は度重なる負傷。同年11月から期限付き移籍先のウィガンで足首やハムストリングの怪我を繰り返すと、15年のドイツ移籍後は選手生命に関わる前十字靭帯断裂を左右の膝で経験し、ピッチに立つことさえできない時期が長く続いた。

 この日の取材対応で当時を振り返った宮市は「3回目の前十字靭帯損傷をした時、ドイツではこのまま手術したら引退しないといけないかもしれないと言われた。ちょうど契約が切れる段階で、このままキャリアが終わってしまうんじゃないかということがあった。プロ選手としてやれることは当たり前じゃないと感じた」と回顧した。

 その後ザンクト・パウリで徐々に出場時間を伸ばしていった宮市は昨年夏、横浜FM加入で初のJリーグ入りを決断。昨季はわずか2試合のJ1リーグ戦出場に終わったが、「サッカー選手としてやれているだけで幸せなんだというところは感じていた」と前向きに取り組み続け、今年3月2日のJ1神戸戦で待望の先発起用のチャンスを掴んだ。

 宮市によると、この神戸戦が大きなターニングポイントになっていたという。「あそこでチャンスをもらえて結果は出なかったけど、自分のパフォーマンスを見せることができた」。その後も左右のウイングでコンスタントに出場機会を掴むと、5月18日の浦和戦ではJリーグ初ゴールを含む1ゴール1アシストを記録。6月にはハムストリングの肉離れによる離脱もあったが、復帰後も途中出場で存在感を見せ続け、さらに2ゴールを重ねてきた。

 そうして辿り着いた約10年ぶりのA代表。「怪我に関しては自分一人では来られなかった。マリノスに帰ってきてからメディカルスタッフの方に尽力していただいて、怪我なくシーズンを送れていることに感謝したい。出場機会も掴めてリズムができてきて、怪我をしにくくなっていると思う」。A代表の取材対応では、真っ先にメディカルスタッフへの感謝を口にした。

 そんな宮市にとって、A代表での“空白期間”となった10年間は「本当の意味で感謝できるようになった」時間だったという。

「18歳でアーセナルに行って、アーセナルでトップに上り詰めたいという思いがあった。アーセナルの選手は代表のエース格で、代表に入っても焦りもあったりして幸せに思えていなかった。理想を持っていることで焦りもあった10代だった。いまはそういうマインドが変わってきて、感謝できるようになってきた」

 そう赤裸々に明かした宮市は「10代でプロデビューして起用してもらって、代表にも入って、大きな理想を描いていた10代だったけど、いろんな経験を経てあまり先を見なくなった。歩けなくなって、歩ける喜びを感じたし、次のトレーニング、次の試合を見るようになった。前は5年後にこうなっていたい、10年後こうなっていたいがあったけど、より現実的になった。一日一日を大事にしていきたいというのに変わった」と心境の変化を振り返った。

 また、いまではそうした変化について「自分自身、19歳で野心を持ち過ぎて満足できなかった。野心を持ちすぎるとうまくいかないタイプ」と客観的に見られるようになった。さらにメンタルコントロールに取り組んできた結果、「目の前の一つ一つのトレーニングにしっかり取り組むところをやっていければ、自ずといろんな結果がついてくると信じてやっている」と以前とは異なるモチベーションを持てるまでになったようだ。

 そしてA代表に返り咲いたことで、現実的なビジョンも大きく開けてきた。代表復帰に際しては現在欧州でプレーする選手からも「お世話になっている先輩方がたくさんいて、個々に名前を出すとキリがないけど、皆さんからポジティブな言葉をいただいたし、ここからだぞという話をしていただいた」といい、中でも10代の頃から親交のあるDF吉田麻也(シャルケ)からは「選ばれたことに満足せず、ここからもっともっと自分を出して上を目指せ」とのメッセージを受け取った。その言葉を受けて、宮市からは「本当のA代表に絡んでいけるように頑張っていきたい」という力強い言葉も飛び出した。

 度重なる負傷を乗り越えてのA代表——。そうした活躍が実現すれば、いま怪我に苦しんでいる選手たちにとっても大きな励みとなるはずだ。「これだけ怪我をしたのは誇れることでもないし、恥ずかしいくらいの怪我歴だけど……」。苦笑いを浮かべながらそう切り出した宮市は「怪我で苦しんでいるアスリート、小中高生、学生にも怪我で苦しんでサッカーができない選手もいると思う」とメッセージを送った。

「いまリハビリをやっている時間がいつか報われる日が必ず来ると思う。苦しい時もあると思うけど、引退宣告されたくらいの選手が日本代表に返り咲く、まだ返り咲くほどの活躍はしていないけど、日本代表に入れるチャンスがあった。続けていけばチャンスがあると思うので、勇気づけられるプレーをしていきたい」

 E-1選手権はそうした物語の第一歩となる舞台。国内組編成の中で大きな注目を集める29歳は、さまざまな思いを背負いながらも、地に足をつけて10年ぶりの代表戦に臨む構えだ。「個人的にというより、チームとしてこの大会を勝ち取りにいく。その中で自分はピースに過ぎないし、代表のためにプレーしたいという思いがある。10年間いろんなことがあって、自分なりに苦しい経験もして、苦しいところから這い上がっていく姿を見せたい。この期間にも武藤選手が怪我をしてしまい、代表に来られなくて悔しい思いをしている選手もいる。そういう思いも背負って頑張っていきたい」

(取材・文 竹内達也)
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