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昨年の大岩J初活動2ゴールも直後に襲われた左足の痛み…躍進広島で「取り残されている感じもあった」FW鮎川峻がパリ五輪へ1年2か月ぶり再出発

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サンフレッチェ広島FW鮎川峻

 度重なる負傷に苦しんだサンフレッチェ広島FW鮎川峻が、約1年ぶりにパリ五輪世代の活動に帰ってきた。「もう痛みが出ることはほとんどなくて、良い状況でプレーできている」。本大会まで残された時間は、代表から離れていた期間とほとんど同じ1年3か月。得点感覚とタフさをあわせ持つ広島のストライカーは、苦しんだ日々のぶんまで自身の価値を表現していく構えだ。

 参加メンバー28人のうち初招集選手が18人を占め、明確に新戦力発掘の狙いをもって行われた今回のU-22日本代表候補トレーニングキャンプ。鮎川は大岩ジャパン発足時の昨年3月以来、1年2か月ぶりの復帰を果たした。

 昨年3月の合宿では最終日の練習試合・横浜FM戦でチーム最多の2ゴールを記録するなど、パリ五輪に向けて順調なアピールに成功。しかし、直後のドバイ杯メンバーではメンバー入りを果たすも、負傷辞退を強いられた結果、その後は長らく代表活動から離れる形となった。

 その理由は2021年8月のトレーニング中に負った左足第五中足骨骨折だった。当初は手術を受けた結果、全治3か月の診断どおりに同年終盤のJ1リーグ戦で先発復帰したが、年が明けた昨年3月のJ1第5節・川崎F戦で痛みが再発。直後に控えていたドバイ杯は不参加となった。またその後もリハビリも難航。一時は保存療法での回復を模索したが、再検査で骨折が見つかり同年5月に再手術し、それでも痛みが引かず、同年9月には3度目のメスを入れる決断をした。

 高卒2年目にあたる21年にはJ1リーグ19試合で出場機会を掴んでおり、決意を持って臨んだ翌シーズンに襲いかかった負傷の連鎖。チームはミヒャエル・スキッベ新監督の下、新たなトライを続けながらルヴァン杯のタイトルも獲得することになるが、その中で野心に燃えていた若者は葛藤に苛まれていた。

「すごくチームがいい状況だったのでここに早く戻りたい、活躍したいという強い思いがあった。痛みがあったので焦らずにというところを考えながらやっていた」。苦しい中でもポジティブに努めようとしてはいたものの、時には「素直に喜べないこともあったし、取り残されている感じもあった」と正直な胸の内も明かす。

 それでも鮎川は今季、再びピッチに戻ってきた。プレシーズンのキャンプはリハビリに費やしたが、2月下旬に全体練習に復帰すると、3月8日のルヴァン杯・横浜FC(○3-1)戦でさっそく45分間プレー。約1年ぶりの公式戦出場を果たした。「わりと早く試合に戻ってこられた」と自ら驚く回復ぶりは「ケアのためにやることも増えたし、そういった部分への意識も変えた」という努力の成果か。若いうちに身体と向き合う機会を作れたことはむしろ財産となった。

 そこからさらにルヴァン杯3試合とJ1リーグ戦1試合に出場して迎えた今月、鮎川は再びU-22日本代表候補のメンバーリストに再び名を連ねた。

 合宿中は「体力的なコンディションの部分はまだまだ戻ってきていないので、早くベストなところまで持っていきたいというのがいまの心境」と振り返ったとおり、別メニューも交えながらの調整となったが、ミニゲームや紅白戦では負荷の多いウイングのポジションで奮闘した。また「ウイングがしっかりと高い位置を取って、サイドに張って、味方のインサイドやサイドバックのスペースを空けるというのが基本的な立ち位置で、そこからボールを前に動かしていこうというイメージ」とチームのコンセプトにも順応。再出発を印象付ける3日間となった。

 ここからは再び、所属クラブの活動を通じてのアピールとなる。

 大岩剛監督は最終日の紅白戦後、招集メンバー全員に「もっと成長しないといけない。われわれには目指すところがあって、これを身につけて出ていくんだよというのを理解してもらった上で日常をレベルの高いものにしよう」と国際基準への意識を求めた様子。そうした要求に応えるためには、スキッベ監督の下で高い強度を求められる広島での日常はこれ以上ない環境だ。

「チームでも求められる基準は高いし、攻守の切り替えであったり、インテンシティの高さをチームに帰っても、こっちでも高いレベルでやっていきたい。攻撃の部分ももっといろんなイメージだったり、バリエーションを持ちながらやっていきたい」

 J1上位の広島で出場機会を重ねれば、パリ五輪への道のりは自ずと開かれていくはず。「広島はJ1で優勝争いをしているチームだし、練習の中でも高いレベルでできているので、チームで活躍することがこの先にもつながる。まずはそこから。順番を間違えないようにやっていきたい」。頭にあるのは広島での活躍のみ。厳しい出番争いは避けられないが「一番結果を求められるポジションなのでそれを見せないと試合に出ていけない。日頃の練習からもそうだし、短い時間で出た時も数多く結果を残さないといけない」とレギュラー奪取に決意を込めた。

(取材・文 竹内達也)

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