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“新境地”左SBでアジア王者の同期たちと対峙…浦和Jrユース出身の鳥栖MF菊地泰智「良い景色でした」

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サガン鳥栖MF菊地泰智

[5.10 J1第10節 浦和 0-2 鳥栖 埼玉]

 対戦相手はジュニアユース時代に所属していた浦和レッズ。それもアジアチャンピオンに輝いたばかりという絶好のタイミング。縁あるアウェーゲームに地元育ちの23歳が燃えないはずはなかった。「表に出さないようにはしながらも気合はめっちゃ入ってました。アウェーのほうが気合が入るくらいで、駒場と埼スタはモチベーションも全然違うので」。サガン鳥栖MF菊地泰智はこの日、憧れの埼玉スタジアム2○○2で念願の白星を手にした。

 菊地は昨年10月8日のJ1第32節(●1-2)以来、プロ入り以降2度目の埼スタ凱旋。7か月前は慣れ親しんできたアタッカーのポジションで聖地に立ったが、この日は4-4-2の左サイドバックという新たな役割で帰還を果たした。

「まさかサイドバックで埼スタに立つとは思っていなかったですね(笑)」

 菊地は4月27日の第9節京都戦(○3-2)から左サイドで先発に定着。横浜FM戦(●1-3)、川崎F戦(●0-1)と続けてウイングバックとサイドバックの中間といえるタスクを担ってきた。

「気持ち的にもずっとここで勝負し続けるつもりもなかったし、まだめちゃくちゃ難しいです。ソワソワしてしまう部分もあるし、余裕を持ってできているわけではないけど、相手に見せないようにやっています」。そうした試行錯誤をしながらではあるものの、新境地でJ1リーグ主力の地位を築こうとしているのは間違いない。

 新たなポジションで川井健太監督から託されているのは、ビルドアップの出口役だ。

 指揮官は試合後の会見で、可変式要素が強かった昨季から今季のビルドアップへの変化について「マンツーマン気味でどのチームも来ているので、あえてドストレートに行こうかなと。そこの質をもっともっと追求して、そこから変えていくのはできると思う。われわれはあえてドストレートに、直球でどんどん速いボールを投げられるようにするという言い方が正しいかは分からないが、そうすると野球でいえばカーブとか変化球が効く」と述べていたが、そんな新たな取り組みのキーマンとなっているようだ。

「(監督)よく言われるのはビルドアップのところで、自分のところで剥がせるように意識している。それだけでチームはすごく楽になるし、パギさん(GK朴一圭)だけでどうにかしてというのはチームとして絶対に違うので。SBは相手からしたらハメやすいので、そこで相手に『勢いを持ちにくいな、狙いにくいな』と思わせたり、狙わせておいて逆を突くというのも身につけるべきだと言われているし、自分もそう思う。それを試合を重ねながらやっていければというところです」(菊地)

 実際にこの日、菊地は相手サイドハーフの手前でボールを受けて組み立てに加わるだけでなく、相手がプレスに来た場面では背中を取って持ち運ぶ場面も創出。また劣勢が続いていた前半16分には、数少なかった敵陣侵攻のチャンスに高い位置で顔を出し、GK西川周作を強襲する力強いシュートも放っていた。

「上がるタイミングをミスったら自分のところを突かれて戻らないといけないので、タイミングは意識しつつやっている。もう少しああいうのを多く出せたらいいけど、ああやって一つ出せたのは良かった」。ここまでの3試合は相手選手を深い位置まで追い込むタスクを担っていたため、やや戻りが遅れる場面も見られたが、積み重ねた経験も活きたチャンスシーンだった。

 さらに後半25分には、菊地の左サイドバック起用がゴールにも直結した。

 途中出場のMF手塚康平が中盤でパスカットに成功すると、スルスルと攻め上がった菊地がMF本田風智とのワンツーで持ち上がり、アーリークロスを配給。これが相手のクリアミスを誘い、こぼれ球からMF長沼洋一が先制ゴールを突き刺した。菊地は「洋一くんがうまかった」と謙遜しつつも、「早めにクロスというのは毎試合意識していて、相手が準備できていないうちに上げられたでクリアができなかったと思う」と狙いが実ったことを喜んだ。

 もちろん、サイドバックの仕事は攻撃だけではない。菊地は「守備のところはちょっと多めに見てもらっている感じはある」と認めつつ、「ネガティブではないんですけど、まだ100%ポジティブにやれているわけではないのは正直なところ。守備のところはまだ難しいです」と葛藤も明かす。それでも任された役目は全うする構えだ。「そうしたことは試合に出られている以上は関係ないので、こうして試合に勝てればいい」と勝利にこだわりつつ、レベルアップを遂げていく構えだ。

 また菊池にとってこの日の勝利はひときわ大きな価値があった。「僕がずっと見ていた時もACLを獲っていたし、勝てて最高でした」。アジアチャンピオンに輝いたばかりの古巣アウェーで奪った勝ち点3。また浦和ではジュニアユース同期のDF荻原拓也、流通経済大同期のMF安居海渡が先発出場しており、「アイツらには負けたくなかったので嬉しかった」とライバル意識もその喜びを際立たせた。

 加えて古巣のサポーターから感じた空気も格別だった。「後半のゴールキックの前に、パギさんの背中にレッズの旗とかがあって、『ああ、ちょっといいな』と思いました。『ああ、埼スタだな』って。後半だったので良かったかもしれないです。キツい時間にあれを見て頑張ろっと思えたので良い景色でした」。浦和を巣立った後、流通経済大柏高と流通経済大を経て、いまは鳥栖の一員として戦う菊地だが、その胸にはささやかな郷愁もあったようだ。

 チームはこの勝利で連敗をストップし、菊地自身も新たな役割での手応えをまた一つ積み上げた。「どんな形でも一人一人のちょっとした力がチームの勝利につながるので、毎日の練習でしっかりとやって、味方の信頼を勝ち取っていこうと強く思ってプレーしないといけないという気持ちが去年よりある。日々の練習がチームの勝利につながっていくので、それを続けていきたい思いが一番強い」。上位進出へ、託された持ち場でトレーニングに励み続けるつもりだ。

(取材・文 竹内達也)
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