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初の決勝で敗れるも充実の70分間。「1日1パーセントの成長」重ねた日南学園、 “最弱”の世代が“最高”へ

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日南学園高は初の決勝の舞台を楽しみ、堂々の戦い

[6.4 インターハイ宮崎県予選決勝 日章学園高 4-0 日南学園高 ひなた宮崎県総合運動公園サッカー場]

 毎日続けた「1パーセントの成長」。“最弱世代”が、“最高の世代”になった。日南学園高は、初めて挑む県決勝の舞台を楽しみながら、堂々のプレー。結果は0-4だったが、選手たちは充実の表情を浮かべていた。

 普段通り、自陣PAから徹底してボールを繋ぐスタイルにチャレンジ。前半8分、ビルドアップでわずかに判断が遅れたところを名門・日章学園高は見逃してくれなかった。インターセプトされて失点。だが、清水美行監督は「チャレンジしようとしながらの失敗だった」と責めなかった。

 生徒募集の際に、清水監督は全国出場を掲げるのではなく、「サッカー好きな子をよりサッカーを好きにして卒業させることを約束」するのだという。サッカーが好きで日南学園へ進学してきた選手たち。全国常連校相手にも普段のスタイルを崩さず、大事にボールを繋ぐことにチャレンジしているからこそのミスだった。

「リバプールの(GKロリス・)カリウスだってチャンピオンズリーグで大失敗するから。みんなが上手くなるためにはあれも必要だけど、あの場面であれを出す必要があるのかはジャッジをしないといけないよねと話をしました」(清水監督)。相手のスピード感に怯む部分があったことは確か。だが、日南学園は失点後、より思い切って自分たちのポゼッションにチャレンジしていた。

 鮮やかな2人抜きからのシュートを見せたMF菊池祐志(3年)やMF田中渓大(3年)中心にビルドアップ。巧みにDF間を取って仕掛けに持ち込んだ。後半立ち上がりにはクロスやハイプレスから立て続けに決定機を作り出した。

 ここで1得点でも返していれば結果も、と思わせるような戦いぶり。2試合連続PK戦まで戦ったあとだっただけに、疲労で主力がフル出場できず、終盤に突き放されたことは残念だったが、日章学園を上回るようなプレーも随所に見せていた。

 プリンスリーグ九州を戦う日章学園のAチームと公式戦で戦える機会は、トーナメント戦のみ。それも全国大会出場を懸けた決勝で本気の名門校と戦ったのは初めてだった。清水監督は「現段階では力の差があったので。でも、それを体感できたのは良かった。心のステージが一個上がったと思います」。準決勝で鵬翔高を破っての決勝初進出。歴史を変えた世代の原動力は「1日1パーセントの成長」だ。

 昨年、清水監督はU-16宮崎県選抜監督を兼任。東京の女性メンタルコーチ2人のサポートを受けたところ、選手の一体感に大きな変化を感じたのだという。指揮官は自らが率いる日南学園のサポートも依頼。選手たちが学んだのは高すぎる目標達成を望むのではなく、「1日1パーセント成長出来たら良い」ということだった。「ここまで上手くなりなさい」ではなく、各選手が小さな目標達成へ向けて一生懸命練習に取り組み、前日よりも「1パーセント成長」すること。それを365日継続していけば、それだけ大きく成長することができる。

 主将のDF鬼塚梨央(3年)は、「練習前に目標と終わった後に評価を(書き)入れるんですけれども、それをすることで一回一回の練習で成長していると感じるし、一回一回の練習に凄く意味が出たというか、凄く良い結果が出たので練習も良くできているなと思います」と頷く。選手たちも実感している成長。それは指揮官に謝罪させるほどだった。

 清水監督は今年1月、選手たちに「史上最弱の弱さだね、と言ったんですよ」と振り返る。だが、マジメでコツコツと積み上げることのできる世代は「1日1パーセントの成長」を続けてインターハイ予選で躍進。宮崎一高との準々決勝では延長戦で先制されながらも追い付いてPK戦を制し、準決勝では強豪・鵬翔を0-0からのPK戦の末に突破した。

 初の決勝進出を決めた準決勝の試合後、清水監督は選手たちの前で「みんなに謝まんないといけないことがある」と語り始め、「1月に最弱と言ってごめんなさい。最高になっちゃったよと」と謝罪したことを明かしてくれた。
 
 鬼塚は「監督からそのような言葉を聞けて嬉しかったです」と微笑。決勝で敗れたものの、「ここまで来たからこそ、この経験はできたし、この経験ができたことはチームにとって財産になるかなと思います。やっぱり(日章学園との)力の差は凄く感じたし、技術以前に球際、切り替え、走るとか、その部分の差が凄く大きくてトータルで強いなと凄く感じました」と振り返る。

 焦らず、「1日1パーセントの成長」を続けて冬に名門を上回ることができるか。鬼塚は「僕がキャプテンなので俺見てみんなもやれとプレーで見せないといけない部分もありますし、プレー以外の挨拶、準備だったりを僕や上級生でレギュラーで出ている選手が率先してやって、後輩がついてくるようなチームに変わって行ったら結果は変わってくるかなと思います」とコメント。そして、“最高の世代”の主将は、選手権の目標を「優勝です」と掲げた。

(取材・文 吉田太郎)
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