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“超・高強度”でぶつかり合った極上の100分間。「本当に強かった」駒澤大高を振り切って実践学園が全国王手!

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死力を尽くした100分間。至る所で激しいバトルが繰り広げられた

[6.10 インターハイ東京都予選準々決勝 駒澤大高 0-1(延長) 実践学園高 駒沢第二球技場]

「本当に強かったですね。いろいろな上手いチームともやってきましたけど、駒大さんは今までの中で一番強いチームでした」(実践学園高・内田尊久監督)。

 勝者の指揮官が敗者を称した言葉は、決してお世辞の類ではない。東京を代表する2チームが死力を尽くして戦った激闘は、とにかく勇気と熱量と執念に満ちあふれた、特別な100分間だった。

 超・高強度のハイレベルなバトルは、延長戦で実践学園に軍配。令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技東京都予選準々決勝が10日、駒沢第二球技場で開催され、駒澤大高実践学園高が激突。お互いに一歩も譲らぬ展開の中で、延長前半8分にFW小嵐理翔(3年)が挙げたゴールがそのまま決勝点となり、実践学園が1-0で粘り勝ち。全国大会出場の懸かる準決勝へと勝ち上がった。

 駒澤大高は周到な“包囲網”を張り巡らせていた。「あれは映像も見させてもらって、複数案を準備して、選手たちが判断しながらやっていたので狙い通りです」とは亀田雄人監督。実践学園のビルドアップを研究し、プレスの形も2回戦とは明らかに変化。中央もサイドもふたをする形で、相手の前進を封じに掛かる。

 実際に前半13分には、相手のキープを引っ掛けたMF中澤聡太(3年)が、さらに相手の横パスを奪った流れからFW西元一平(3年)が、続けて決定機を迎える。だが、ここは実践学園のGK宮崎幹広(3年)がどちらもファインセーブで回避。「あれは完全にミキ(宮崎)のおかげですね。正直救われました」と話したのは実践学園のキャプテンを務めるDF鈴木嘉人(3年)。仕留めきれなかった駒澤大高は、この2つのシーンが最後まで大きく響くこととなる。

「自分たちがやろうとしていたビルドアップが1つもできていなかったですね」とDF山城翔也(3年)も話した実践学園は、それでも22分に決定機。MF鈴木陸生(3年)のフィードに、単騎で走った小嵐がゴールを陥れ、ここはハンドの判定で得点は認められなかったものの、突き付けた9番の脅威。

 24分は駒澤大高。左からFW秋元心太(3年)が蹴ったFKに、ファーへ走ったDF若田澪(3年)のヘディングは飛び出した宮崎がファインセーブ。さらに29分にも駒澤大高はMF菊池遥人(3年)が右へ振り分け、DF平井涼真(3年)のクロスから秋元がゴールネットを揺らしたが、オフサイドというジャッジでノーゴール。それでも前半は駒澤大高の強度が実践学園を飲み込む形で、40分間が終了した。

 後半1分は実践学園。右サイドでDF冨井俊翔(2年)が縦に付け、走った小嵐がそのまま持ち込んだシュートは、駒澤大高GK長野真也(3年)が好セーブ。18分は駒澤大高。西元のパスから秋元が抜け出すも、山城がタックルで掻き出し、こぼれを叩いたMF森山真人(3年)のシュートは実践学園の左SB藤枝優大(3年)が身体でブロック。お互いに意地の張り合いが続く。

 駒澤大高は右の平井、左のDF渋谷唯人(3年)を高い位置へ押し出し、こちらは右にFW犬飼椋太(3年)、左にFW松田昊輝(3年)と推進力に優れた実践学園のウイングとバチバチにやり合う構図を作りつつ、森山と菊池が気の利いたポジショニングでセカンド回収に奔走。最前線のFW岸本空(2年)がボールを収め、中澤、秋元、西元がポジションレス気味に自在に動く中でも、守備時に掛けるプレスの整理のされ方は圧巻だった。

 一方の実践学園は「駒大さんのハイプレス相手に、今週1週間トラップで剥がすとか、繋いでいくことはやったんですけど、うまくいかないことが多かったですね」とは鈴木嘉人だが、こちらも中盤トライアングルのMF古澤友麻(3年)、鈴木陸生、MF大島稜翔(3年)は劣勢気味の展開でも、攻守の切り替えとボールアプローチの速さはハイクオリティ。逆にボールを動かし切れない分、割り切って3トップを生かす形も作りながら、少ないチャンスを虎視眈々と狙い続ける。

 終盤にはお互いに決定機が訪れる。36分は実践学園。古澤が右サイドへ展開すると、鈴木陸生はグラウンダーで高速クロスを送り込み、長野が懸命に触ったボールはDFが間一髪でクリア。40+1分は駒澤大高。右サイドを秋元が単騎で抜け出すも、打ち切ったシュートはここも宮崎がファインセーブで回避。80分間では決着付かず。激戦に前後半10分ずつの延長戦が加えられる。

 スコアを動かしたのはスピードスターの一振りだった。延長前半8分。ここも古澤がルーズボールを跳ね返すと、鈴木陸生はシンプルなパスをラインの裏へ。「背後への抜け出しは自分の武器」と言い切る小嵐は一瞬でトップスピードに乗りながら、躊躇なく右足一閃。ボールは左スミのゴールネットへ突き刺さる。「苦しい状況だからこそ、彼が輝く状況も生まれるのかなとは思いますね」と内田尊久監督も言及する、エースが挙げた貴重な先制点。実践学園がとうとう1点をリードする。

 諦めない駒澤大高にも決定的なシーンが到来する。延長後半5分。中澤が丁寧に蹴り込んだ右CKは、ファーへ潜った途中出場のFW北畠遥人(3年)へ届き、懸命に合わせたヘディングは枠を捉えるも、「フワッとした折り返しからは、フワッとしたシュートが来るのかなという予測はある程度できていた」という宮崎が宙を舞い、ボールを枠外へ掻き出す。10+2分は駒澤大高のラストチャンス。ここも中澤が右FKを蹴り入れると、若田が頭で残したボールは古澤が大きく蹴り出し、直後にタイムアップを告げるホイッスルが鳴り響く。

 100分間を終えたファイナルスコアは1-0。「向こうの方がチャンスも多かったですし、マジで勝てて良かったです」と鈴木嘉人も安堵の笑顔を浮かべた実践学園が、粘る駒澤大高を何とか振り切って、成立学園高の待つ準決勝へと駒を進める結果となった。

 まずは駒澤大高の奮闘を称えたい。「ベースの運動量や競り合い、球際、切り替えは関東大会でやった相手よりも全然凄くて、先週も法政大学とトレーニングマッチをしたんですけど、駒大さんはそれよりももう1個上を来ましたね。僕らはまだまだ足りないところばかりで、ビルドアップも大事なんですけど、当たり前のことというか、ディフェンスの基準をもっと上げていかないと、全国でもやっていけないと思うので、そこももう1回トレーニングしないとなと思っています」と口にしたのは実践学園の鈴木嘉人。これが彼らの脅威に100分間さらされた、率直な感想だろう。

「あれだけ山ほどあったチャンスを決められないのが……。ここで言うことではないかもしれないですけど、勝たなくてはいけないゲームだったと思います」と悔しさを滲ませた亀田監督は、それでも間違いなく手応えを感じていたことも、続けた言葉に忍ばせる。

「今日は駒澤らしさの“つぼみ”ぐらいはあったんですけど、あそこをやり切るのが本当の意味での駒澤らしさなので、そこはまだ足りないよなと。そういうところをさらに追及していって、勝負強いチームになっていこうねというところですね。彼らはよくやっていたと思うんですけど、『この数字にもならないような差を、目に見えないような差を、選手権までみんなでちゃんと探し続けていこうね』と子どもたちには話しました」。この敗戦を経て、駒澤大高が感じた『目に見えないような差』が、彼らにどういう影響を及ぼしていくのかは注視していく必要がありそうだ。

 一方で辛勝ではあったかもしれないが、確実に勝ち切った実践学園の勝負強さも見逃せない。「正直今日のゲームもかなり苦しくて、やられたなというシーンがたくさんあったので、勝ち切れているのかどうかは僕の中でまだ整理し切れていない部分もあるんですけど……」と話した内田監督は、「ただ、今までちょっと個のところが強くて、まとまらない時期があったんですけど、そこをしっかり乗り越えて、苦しい戦いも経験させてもらって、少しずつチームのまとまりが出てきたことで、ここまで一歩ずつ進んでこられたのかなと思います」と一定の感触も口にする。

 次は全国出場の懸かる準決勝。山城は厳しい表情で気を引き締める。「まだ全然自分たちのビルドアップができていなくて、今日もミスがいっぱいあったので、それを1週間でどれだけ詰められるかですし、実践のベースのところの競り合い、セカンド、球際のところは自分たちが絶対に上回らなきゃいけないと思っています」。

 内田監督も決戦に向けて、言葉に力を込めた。「鈴木(祐輔コーチ)が『駒大さんの分まで』ということを言っていたんですけど、やっぱり勝ち上がった責任があるわけで、今日勝たせていただいた駒大さんの気持ちを背負うことが、本当に一番大事なのかなと。あとはああやって声を嗄らして応援してくれる応援団と、いつも支えてもらっている保護者の方々の想いも背負って、最後まで走り切ってほしいなと思います」。

 ライバルの想いも背負った実践学園の進撃は続く。2年ぶりとなる夏の全国を目指して、いざ西が丘へ。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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