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[MOM4336]流通経済大柏MF中田旭(3年)_伝統的に繋いできたリーダーの正当な継承者が謙虚に見据えるのは日本一への道筋

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流通経済大柏高を束ねる絶対的なキャプテン、MF中田旭(3年=FC東京U-15深川出身)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.15 インターハイ千葉県予選準決勝 流通経済大柏高 3-0 千葉明徳高 柏の葉公園総合競技場]

 誰よりも走り切り、誰よりも声を出し、誰よりもエネルギーを発散する。頑張れる選手が揃っているチームの中でも、この男のそれはさらに際立っている。それは左腕にキャプテンマークを巻いているのも納得だ。

「自分の中でのキャプテンというのは、チームに一番影響を与える存在だと思っていて、自分が引き締めるというよりは、仲間を信じているので、どんどんポジティブにやらせたいですし、それを自分からやるというのが一番みんなに伝染すると思っているので、特別何かを言うというよりは、チーム全体が同じ方向性を向くように、まずは姿勢で示したいと考えています」。

 マジメに、ひたむきに、コツコツ努力を積み上げられる今シーズンの流通経済大柏高の象徴的存在。MF中田旭(3年=FC東京U-15深川出身)のリーダーシップが、この日の80分間の中でもチームをポジティブに牽引し続けた。

 千葉明徳と対峙したファイナル進出を巡る準決勝。前半の流経大柏を振り返ると、決して良い流れとは言えなかった。2分には中田がわずかに枠を外れる際どいFKを放ったものの、それを含めてもシュートはわずかに2本のみ。前半終了間際には相手に決定機を作られ、失点こそ免れたものの、思ったような40分間を過ごせなかったことは間違いない。

 ただ、ハーフタイムのキャプテンは落ち着いてチームメイトと話し合っていたという。「キャプテンとしてはどういうことが起こっているのかと、それをどうするのかは話しました、相手のやり方が特徴があったので、それに対してどう攻めるかという話ですね。あとは『最後に勝っていればいいので、焦れないでやろう』ということと、個人のところもチーム全体のところも、メンタル面も含めていろいろな話をしました」。

 榎本雅大監督も笑いながら、ハーフタイムを振り返る。「アイツらも『焦れない。焦れない。大丈夫、大丈夫』と言っていましたし、そんなに大きな指示もなく、やっていることは悪くないので、続けようという感じでしたね。むしろ『僕が焦れないように』と思うぐらいでした」。

 後半に入ると、3分にはチームで話し合ったという『サイドでの選手の関わり』から、MF柚木創(2年)が先制ゴールを叩き出すと、16分には中田の“嗅覚”が発動する。

 流経大柏が右サイドで手にしたCK。DF渡邊和之(2年)が蹴ったキックに、DF塩川桜道(3年)が合わせたヘディングは相手GKに阻まれたものの、DF田中ショーン涼太(3年)がこぼれ球を左へ送ると、そこに背番号6が飛び込んでいく。

「あれはショーンが見てくれていたのが大きかったですけど、ボールが動いている時に、身体の向きでゴールを獲る準備はしていました。チームでセットプレーは練習していて、それが点になったのは良かったと思いますし、2点目は大事だったので、それも良かったです。あれは嗅覚……、ですかね(笑)」。

 中田が貴重な2点目を挙げると、終盤にも1点を追加した流経大柏は3-0で快勝。「普段のリーグ戦では90分やっていたので、今日はそこまで体力面で気になるところはなかったですね」と言い切ったキャプテンのハードワークと“嗅覚”を生かした得点が、チームに決勝進出という確かな成果をもたらした。

 榎本監督も中田に寄せる絶対的な信頼を、こう口にする。「去年はちょっとメンタル的に不安定なところがあったんですけど、今年はもうさすがですよね。まとめる力もそうですし、持っていく力もそうですし、冷静ですし、なかなかこちらが勉強になります。ゲームをよく見て、どうしたらいいかということによく気付きますし、そういうツボをよく知っているなという気がしますよね。絶対に良い監督になると思いますよ(笑)」。

 ただ、本人はいたって謙虚。「今年のチームはリーダーが多いというか、自分が全部抱え込んでいるという感じはなくて、塩川選手、高橋(力也)選手、土佐(昂清)選手もいますし、それこそ彼らだけではなくて、いろいろなところでみんなが自発的に行動するので、それは良いことだと思います」とチームメイトに言及するあたりにも、その人間性が滲む。

 中学時代はFC東京U-15深川でプレーしていたものの、U-18への昇格は叶わず、自身を見つめ直した時に、その進路は一択で決まったという。「U-18には上がれなくて、その時に自分が抱えていた課題や、『これからどうなりたいか』ということを考えた時に、やっぱりプロになることと日本一を獲ることがあったので、『チャレンジしたいな』という気持ちがありましたし、自分は直感で進んでいきたいところもあるので、もちろんしっかりは考えましたけど、その直感を信じてここに来ました」。

 入学した時に掲げた目標でもある、日本一への第一関門。日曜日のファイナルで向かい合うのは最大のライバル・市立船橋高。ただ、中田の覚悟はもうとっくに定まっている。「相手どうこうというよりは自分たちのやるべきことをしっかり整理した上で、自分たちを信じて、とにかく熱い戦いをして、しっかり戦って、絶対に勝ちます」。

 みんなで積み上げてきたものには、確固たる自信がある。流経大柏が伝統的に繋いできたリーダーの系譜を引き継ぐ、正当な継承者。全国を懸けた重要な一戦でも、中田のやるべきことは、きっといつもと何も変わらない。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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