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[MOM4371]帝京五DF鈴木聖矢(2年)_前半は右SB、後半は3バック中央のDFが値千金の決勝弾で全国初勝利を手繰り寄せる!

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値千金の決勝弾を沈めた帝京五高DF鈴木聖矢(2年)=ライオンズスポーツクラブ出身

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[7.29 インハイ1回戦 広島国際学院高 0-1 帝京五高 カムイの杜公園多目的運動広場A]

 そのゴールの瞬間。自分でも信じられないような表情を一瞬浮かべながら、思い出したかのようにおもむろに走り出し、ピッチを滑りながら歓喜をチームメイトと共有する。攻められ続けていた中での一撃だ。笑顔が止まらないのも無理はない。

「『え?オレ、やったんだな』みたいな感じで、歴史的ゴールを決められて超嬉しくて、ずっとニコニコしていました(笑)。前半はずっと僕が足を引っ張っていたのに、みんなもちゃんと喜んでくれて、良かったです。最高でした」。

 前半は右サイドバック、後半は3バックの中央で、とにかく守備に奔走していたDF鈴木聖矢(2年=ライオンズスポーツクラブ出身)が、帝京五高(愛媛)を全国初勝利に導く“歴史的ゴール”を決めてしまうのだから、やはりサッカーは面白い。

 立ち上がりから防戦一方だった。広島国際学院高と向かい合った初出場校対決。相手の強力アタッカー陣の猛攻にさらされた帝京五。とりわけスピードと技術を兼ね備える左ウイングと対峙していた鈴木は、サイドを崩されまいと必死に食らい付く。

 少なく見積もっても5度は決定機を創出されたチームを見て、植田洋平監督は決断する。前半35分前後にシステムを4-4-2から3-5-2へシフト。右サイドバックだった鈴木は、3バックの右センターバックにスライドする。

 さらにハーフタイムでの選手交代に伴い、鈴木の立ち位置は3バックの中央へ。「インターハイに向けてちょっとずつ3バックをやってきましたけど、凄く不安はありました。しかも3人の真ん中ということで、全部カバーしなければいけないですし、周りも全員3年生で、正直緊張しました」という言葉は偽りのない本音だろう。

 ただ、時間を追うごとに守備面での安定感は醸成され、相手の勢いも少しずつではあるが削がれていく。そんな中で迎えた後半14分。帝京五は左サイドでFKを獲得する。

 キッカーのMF樋口志(3年)が蹴り込んだキックはファーサイドまで届き、3バックの右に入ったFW大澤蹴舞が右から折り返したボールを、3バックの左を務めるキャプテンのDF宮島柊汰(3年)が頭で中央へ戻すと、ニアサイドへ鈴木が飛び込んでくる。

「来たところに足を伸ばして、入れた感じです。感触は微妙でした(笑)。全然ミートしていなくて、ちょっとでもズレていたらキーパーに取られていたので、良いところに当たったなと思います」。“当たり損ね”が奏功し、懸命に蹴り込んだボールはGKのタイミングを外した格好で、ゆっくりとゴールネットへ吸い込まれる。

「もう帝京魂としか言いようがない、『蹴ったのか?当たったのか?』ぐらいのシュートでしたね」と笑ったのは、チームを率いる植田洋平監督。必死に守り続けていた3バックの3人が関わった、値千金の先制ゴール。帝京五がリードを奪ってしまう。

 見えてきた勝利がその足を動かす。クロスバーにも助けられ、失点は許さない。「みんな歴史的勝利が欲しかったですし、『絶対無失点で行くぞ。1点ゲームだぞ。1点獲った方が勝てるぞ』とみんなで後半の円陣の時に言っていたので、その1点を先に獲れて、しっかり守れて良かったです」と口にした鈴木の得点は、そのまま決勝点に。帝京五が逞しく挙げた全国初勝利に、2番を背負う2年生ディフェンダーが攻守で貢献してみせた。

 もともとは神奈川の出身。関東近郊の高校への進学を考えていたものの、中学時代にプレーしていたライオンズスポーツクラブの先輩も数多く進学していた帝京五から声が掛かり、練習参加することに。そこで「僕のサッカースタイルと合っているのは帝京かなと感じたのと、『帝京なら絶対に全国に出られる』と思っていたので、ここに決めました」と縁もゆかりもなかった愛媛へとやってきた。

 参考にしている選手はまったくタイプの違う2人だという。「中学の時も3バックの真ん中をやったりしていたので、センターバックとしてはファン・ダイク選手がずっと好きで見ていたんですけど、サイドバックをやるようになってからは、アレクサンダー・アーノルド選手がいいなと思って見ています」。この2人のハイブリッドなら、それはもう限りなく最高のイメージだ。

 次の対戦相手は夏の日本一を5度経験している国見高。だが、鈴木は力強くこう言い切った。「相手は植田先生の母校なので、植田先生の株が上がるような試合をして、また僕がヒーローになりたいです」。

 帝京五のファン・ダイクか、はたまた帝京五のアレクサンダー・アーノルドか。どっちにしても一定以上のパフォーマンスを計算できる上に、ゴールまで期待させ始めた鈴木の存在は、チームにとって絶対に欠かせない。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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