beacon

敗軍の将が口にした「これがフットボール」。たった1度の決定機を生かした帝京五が広島国際学院との“初出場”対決を制して全国初勝利!

このエントリーをはてなブックマークに追加

ワンチャンスを生かした帝京五高が全国初勝利をゲット!(写真協力=高校サッカー年鑑)

[7.29 インハイ1回戦 広島国際学院高 0-1 帝京五高 カムイの杜公園多目的運動広場A]

「海外の方がよく『これがフットボールだ』と言われるじゃないですか。今日の試合がそれなのかなと」。敗れた指揮官が、悔し気にそう言葉を紡ぐ。相手が作った決定機はたった1度。それを決められ、自分たちがその何倍も作ったチャンスは、ことごとく入らなかった。だが、やはりこれがフットボールなのだろう。

 粘って、粘って、手繰り寄せた全国初勝利。29日、夏の高校サッカー日本一を争う令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技1回戦が行われ、ともに初出場の広島国際学院高(広島)と帝京五高(愛媛)が激突。再三のピンチを懸命に凌ぎ続けた帝京五が、後半14分にDF鈴木聖矢(2年)が挙げた1点を守り切り、全国大会での初勝利を掴み取った。

 広島国際学院が最初に迎えた決定機は前半開始1分。左サイドの高い位置でボールを奪ったMF萩野巧也(3年)がそのまま枠内シュート。帝京五のGK飯島悠翔(3年)もファインセーブで弾いたが、いきなりチャンス創出。7分にも左からMF渡辺雄太(3年)が蹴ったCKに、MF長谷川蒼矢(3年)が合わせたヘディングは、ここも飯島がキャッチ。中央ではMF石川撞真(3年)とFW野見明輝(3年)が積極的にボールを引き出し、右のMF岩本大河(3年)と左の萩野が両翼から仕掛けるアタックが、相手を自陣に押し込める。

 27分も広島国際学院。GK片渕竣介(3年)のキックから、ラインの裏に抜け出したDF岡田康誠(3年)のループはわずかに枠の上へ。29分にも左から石川がグラウンダーのクロスを通し、収めた野見の決定的なシュートはバーの上へ。30分には右から岩本が狙ったミドルが左ポストを直撃。33分にも野見のパスから岩本が打ち切ったシュートは、飯島が三たびビッグセーブで回避。「シュートは打てましたし、決定的なチャンスもあったんですけどね」とは谷崎元樹監督。あとはゴールだけという時間が続く。

 35分。帝京五の植田洋平監督が動く。「『どうしても耐えられそうにないな。このままじゃ負けるな』と思ったので、後半でやる前に1回慣らそうと、前半の最後の方で3-5-2にしました」と、センターバックに入っていたDF五本木涼(3年)を最前線にスライドさせ、4-4-2から3-5-2へシフト。直後にあったピンチも何とか凌ぎ、0-0で前半を終えることに成功する。

「こぼれ球に寄せることだったり、絶対に失点をしない練習はしてきました」とキャプテンのDF宮島柊汰(3年)が話した帝京五の守備は、ハーフタイムを挟むと確実に前半より安定感を放ち出す。「相手へのマークがしっかりすることと、裏のスペースを消したことと、五本木をフォワードへ上げることによって、前でタメができるわけです。ウチの中では“Win-Win”というか、守備も攻撃もハマってくれたら行けるかなというような感じではありました」(植田監督)。

 すると、帝京五にこの試合で初めての決定機が訪れたのは後半14分。左サイドで獲得したFK。キッカーのMF樋口志(3年)が蹴ったボールはファーに流れるも、拾ったFW大澤蹴舞(3年)は再び中央へ。待っていた宮島が頭で折り返すと、ニアに鈴木が飛び込んでくる。

「来たところに足を伸ばして、入れた感じです。感触は微妙でした(笑)。全然ミートしていなくて、ちょっとでもズレていたらキーパーに取られていたので、良いところに当たったなと思います」(鈴木)。本人も認める“当たり損ね”の軌道が逆に幸いし、ボールはゴールネットへ転がり込む。「もう帝京魂としか言いようがない、『蹴ったのか?当たったのか?』ぐらいのシュートでしたね」とは植田監督だが、正真正銘の先制点。耐え続けてきた帝京五が、1点のリードを手にしてみせた。

 追い掛ける展開となった広島国際学院は、攻め続ける。24分。左サイドから渡辺が入れたクロスに、長谷川が合わせたヘディングはクロスバー直撃。33分。萩野が左へ流し、開いた石川がグラウンダーで流し込んだクロスは、わずかに中と合わない。

「最後まで相手の攻撃には慣れなかったです。凄く上手いし、速い選手たちで、キーパーの飯島さんが『全部止めてくれるだろう』と思って、僕らはとりあえず跳ね返して、絶対に無失点で行こうという感じでした」(鈴木)。右のMF山口雄人(3年)、左の樋口の両ウイングバックも上下動し続け、後半にセンターバックからインサイドハーフにスライドしたDF松田侑弥(3年)も、最前線のFW森下勇璃(3年)もプレスに奔走。帝京五の選手たちは1分を、1秒を、丁寧に消し去っていく。

 6分間のアディショナルタイムが経過すると、タイムアップのホイッスルが耳に届く。「僕たちはずっと『今回は全国での1勝を勝ち獲ろう』と言ってきたので、ホイッスルが鳴った瞬間は凄く嬉しかったです」と宮島が笑えば、「もうとんでもなく嬉しかったですよ。全国で1勝するなんてことは、もうとんでもないことですから。本当に嬉しかったですね」と植田監督もやはり笑顔。帝京五が初出場対決を制し、悲願の全国初勝利を逞しくもぎ取った。

 試合後。広島国際学院を率いる谷崎監督は、取材エリアで声を詰まらせる。「まずは北海道の皆さんが大会の準備をして下さったことに、『ありがとうございます』と伝えたいのと……、まあ……、悔しいですね……」。

 涙の理由は支えてくれた方々への強い想いだという。「今回の全国出場に当たって、もともと僕らに関心があったのかどうかわからないような人たちも支援して下さって、この北海道行きというのが実現した経緯があって、その人たちのことを思うと悔しさがこみ上げてきますね」。

 それでも最後はきっぱりとこう言い切った。「勝ちにこだわるのか、サッカーにこだわっていくのか、という難しさはあるんですけど、こういうゲーム展開になった時にどうしようかということが、彼らにとってもまた1つの課題になったと思うので、そのあたりをこの夏でやっていかないといけないのかなって。どうしても誰が出ても似たようなサッカーになってしまうので、違う選手が入った時には違うことができるような、そういうチーム作りをもう1回やってこようかなと思います」。新たな歴史を切り拓いた広島国際学院が、ここから見据える“初出場のその先”にも大いに期待したい。

 帝京五にとって初めての全国大会となった昨年度の高校選手権。盛岡商高と対峙した初戦は先制したものの、2点を奪われて逆転負け。いったんは見え掛けた勝利は、無情にもその手から零れていった。

 植田監督はその80分間から得た学びを、しっかりとこの夏に生かしていた。「選手権の時も先制して、逆転負けしたんですけど、その時に出ていたメンバーが今日も7,8人いたんですよね。やっぱりその経験値が大きかったんじゃないかなと。『先制したけど、そこからオレらは選手権で失敗したよね』という経験があったので、粘り切るためのスタミナは一応完備していました。やっぱり全国大会は1-0で勝つというのが目標ですから」。

 盛岡商戦にも後半から途中出場した宮島が、「全国でプレーすることは簡単ではないので、1回あそこで経験値を踏んだことが、自信に繋がったんじゃないかなと思います。去年のチームは凄く上手くて強かったんですけど、今年のチームは行くところは行って、行かないところは行かないみたいに、我慢できるところが凄く成長しているのかなと思います」とその経験がもたらした効果を口にする。まさに文字通りと言っていい『我慢の勝利』は、彼らの確かな成長の証だったのだ。

 2回戦の相手は国見高に決まった。奇しくも植田監督にとっては、高校3年間を過ごした母校との対戦となる。「植田先生もこの戦いを楽しみにしているはずですし、国見に勝って上に行くことが、植田先生にとって一番嬉しいんじゃないかなと思うので、絶対に明日は勝ちたいです」。キャプテンの宮島はそう言い切った。

「ハッキリ言って本気で勝ちに行きます。胸を貸してもらおうなんてまったく考えていないですし、絶対に勝ってやろうと思っています」(植田監督)。ここから先は今まで以上にいばらの道。だが、我慢しまくれる上に、勝ち切れる力を身に着けつつある帝京五は、間違いなくどのチームにとっても厄介極まりない。



(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

TOP