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「プレミアとインターハイがやってきた街」の圧倒的ホーム感を味方に付けた旭川実は帝京長岡との激闘を制して初戦突破!

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旭川実高は圧倒的ホーム感の中で初戦突破!

[7.30 インハイ2回戦 旭川実高 3-2 帝京長岡高 東光スポーツ公園球技場A]

 その声が、止まりかけた足を動かす。攻め込まれる。1点差に迫られる。苦しい時間が続く。それでも、グラウンドの外側を埋め尽くした人たちの声援が、最後の一歩を踏み出させてくれる。

「たぶん東光史上、一番お客さんが入ったと思うんですけど、全校応援に加えてOBの先輩たちも来てくれて、後半は苦しい時間もありましたけど、自分たちの名前を呼んだりしてくれる応援の声はチームのみんなに響いて、苦しい時の原動力になりました」(旭川実高・庄子羽琉)

 圧倒的ホームで手繰り寄せ、共有した歓喜。30日、夏の高校サッカー日本一を争う令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技2回戦が行われ、地元開催となる旭川実高(北海道1)と帝京長岡高(新潟)が対峙。前半だけでMF鵜城温大(3年)のハットトリックで3点をリードした旭川実が、後半の帝京長岡の反撃を2点に抑え、3-2で逃げ切りに成功。1,600人を集めた“ホーム”の観客とともに勝利を喜んだ。

 旭川実はフルスロットルで立ち上がる。「今日は“ホーム”でもあるので、先制点を獲れたら凄く良い形で入れるなと思っていましたし、チーム全員でアップから気持ちが入ってやれていました」と話すのはキャプテンのDF庄子羽琉(3年)。MF柴田龍牙(3年)の推進力を生かして相手を自陣に押し込めると、前半8分には右からDF岡本染太郎(3年)がロングスローを投げ込み、こぼれを拾ったMF百々楽(3年)のシュートは、帝京長岡のDF内山開翔(3年)のブロックに遭うも好トライ。11分にもCKの流れから、DF渡邊航生(2年)の右クロスに、最後は岡本が放ったボレーは枠を越えるも、続けてチャンスを作り出す。

 勢いそのままにスコアを動かしたのは13分。左に開いたFW和嶋陽佳(3年)を起点に、百々がグラウンダーで中央へ折り返すと、鵜城が押し込んだボールはゴールネットを確実に捕獲する。沸騰するスタンドとゴール裏の大応援団。1-0。旭川実が堂々と先制してみせた。

 すると、次の1点も“ホームチーム”が奪う。21分。ここも右サイドで手にしたスローインを、岡本がロングスローで中央に投げ入れると、飛距離の出た軌道に鵜城が直接頭で合わせたボールは、そのままゴールへ吸い込まれる。「ロングスローからだったんですけど、ヘディングは得意なので、決められて良かったです」と口にした6番は、これで早くもドッピエッタ。2-0。点差が開く。

 勢いは増していく。35+2分。高い位置で相手のビルドアップのミスを拾った鵜城は、そのまま迎えたGKとの1対1も冷静に制し、ボールをゴールネットへ送り届ける。これで鵜城は前半だけで衝撃のハットトリック達成。「前半は出来過ぎなくらいでしたね」と笑ったのは庄子。3-0。旭川実が大きなアドバンテージを携えて、最初の35分間は終了した。

「ヘッドコーチが『このままで帰れるか』と、『自分たちらしくやれ』というところで話をしましたね」(谷口哲朗総監督)「いつも通り自分たちができていなかったので、3点獲られた状況で、『もうチャレンジするしかないぞ』ということは話していました」(堀颯汰)。3点を追い掛ける帝京長岡が、後半は猛ラッシュに打って出る。

 6分。右サイドをドリブルで運んだMF原壮志(3年)が中央へグラウンダーのクロスを送ると、後半開始から投入されたばかりのFW新納大吾(2年)がニアサイドのゴールネットを射抜く。3-1。両者の点差は2点に縮まる。

 19分。右サイドで獲得したCK。内山がワンフェイクから蹴った軌道は大外へ。フリーで待っていたMF山村朔冬(3年)の強烈なダイレクトボレーは枠を襲い、旭川実のGK越後紀一(3年)がファインセーブで弾き出したボールは、それでもゆっくりとゴール方向へ向かうも、カバーに入っていた和嶋が間一髪で大きくクリアする。

 24分。山村とのワンツーで右サイドを崩した原がマイナスに折り返し、途中出場のFW安野匠(2年)が叩いたシュートはわずかにクロスバーの上へ。26分。バイタルでこぼれたボールにいち早く反応した安野は、ミドルレンジからループシュートを打ち込むも、ボールはクロスバーにヒット。帝京長岡もチャンスは作り続けるも、2点目が遠い。

 35分。帝京長岡はここも右サイドの高い位置へボールを運ぶと、原が入れた低いクロスを内山が利き足と逆の右足でフィニッシュ。ボールは右スミのゴールネットへ突き刺さる。とうとうスコアは1点差に。アディショナルタイムの掲示は4分。追い付くか、逃げ切るか。240秒のファイナルバトル。

「帝京長岡も本当に力のあるチームなので、絶対に苦しい展開になることはわかっていました」(庄子)。旭川実は岡本とDF鈴木奏翔(3年)で組んだセンターバックが水際で跳ね返し、MF工藤葵柊(3年)とMF萩野琉衣(3年)のドイスボランチはセカンドを拾い、必死に中央を固める。

「メンバーに入っていない部員も一生懸命応援してくれていることは自分たちもわかっていたので、それも力になったと思います」(庄子)。付け加えられた4分が経過し、試合終了のホイッスルが鳴り響く。ファイナルスコアは3-2。ホームの大声援をバックに、最後は粘り強く逃げ切った旭川実が、3回戦へと勝ち上がる結果となった。

 試合後に旭川実を率いる富居徹雄監督の言葉で、そのことに気付く。「プレミアが来て、インターハイが来る街なんてなかなかないじゃないですか。今までプレミアができてから、そんなことはないんじゃないかなって。1つの街にプレミアとインターハイが来るのは凄く大きなことだと思いますし、その中で勝ち星を挙げていくことは凄く大事だと思っています」。

 彼らは昨年末のプレーオフを逞しく勝ち上がり、今シーズンは11年ぶりにプレミアリーグへと復帰。リーグ前半戦は今回のインターハイでも使用されている4つの会場で、ホームゲームを戦ってきた。そして、この日は東光スポーツ公園球技場に詰め掛けた1,600人の前で、見事に全国大会での勝利を達成。試合後には会場に大歓声が巻き起こった。

 帝京長岡のキャプテン、FW堀颯汰(3年)も「今日は“大アウェイ”の試合でしたね。自分としてはあまり気にすることなくできたんですけど、チームとしてはやっぱり相手を全員が応援しているという意識はあったと思います」と言及。この雰囲気で戦う“アウェイチーム”が難しい戦いを強いられるのも無理はないようなホーム感が、この日のグラウンドには間違いなくあった。

 庄子はチームを代表するキャプテンとして、今大会を戦うことへの感謝を口にする。「普段のプレミアでもそうですけど、インターハイも会場を設営してくれたり、いろいろな大人の方が自分たちのために動いてくれて、サポートしてくれているんですよね。『頑張って』という応援の声も凄く戴きますし、今日もああやって応援してもらっていて、自分たちはそれにプレーで恩返しすることが大事だと思うので、今日は勝てたことが凄く嬉しいです。こういう環境でやらせてもらっている以上は、自分たちはベスト4以上を目標にしているので、さらに上を目指して一戦一戦やっていきたいと思います」。

「プレミアとインターハイがやってきた街」の人気者。3回戦で対峙する相手は同じプレミアリーグに所属し、大会の優勝候補にも挙げられている市立船橋高だが、旭川実は次の試合も圧倒的ホーム感を味方に付け、真剣に勝利のみを狙いに行く。

ゴール裏で声援を送り続けた旭川実の大応援団


(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2023

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