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貫く信念の大切な価値。「ベストチームを決める」準決勝に敗れた日大藤沢はそれでも自分たちのスタイルを追い求める

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決勝進出は叶わなかったが日大藤沢高の貫くスタイルは変わらない

[8.3 インハイ準決勝 日大藤沢高 1-3 明秀日立高 カムイの杜公園多目的運動広場A]

「相手が今大会ベストチームだということで、我々もその気持ちがあったので、『ベストチームを決めるぞ』ということで挑みましたけれども、自分たちのミスから早い時間で失点してしまいましたし、本当に悔しいのは2点目がいらなかったなと。そういう時間を今までも粘れてこれたことが、逆転やPKでも勝ち上がれた要因ではあったので、全国では『一瞬の隙を見逃してくれないな』というのは改めて感じましたし、この負けから選手権に向けて凄くいろいろなことを学んだなと思っています」。

 指揮官はいつも通りの歯切れ良い口調で、終わったばかりの試合をこう振り返る。6年ぶりのファイナル進出を目指した日大藤沢高(神奈川2)の進撃は、準決勝でストップすることになったが、それでも貫くスタイルがブレることは、決してない。

 試合は想定外の失点で幕を開ける。静岡学園高に青森山田高と優勝候補を次々と飲み込んできた明秀日立高(茨城)と対峙した準決勝。前半4分にバックパスをかっさらわれると、その流れからいきなり先制点を献上してしまう。

「失点は自分のミスからで本当にもったいなかったですし、それが許されないのがこのレベルなので、個人的なことを言えば、自分がミスをするというのは本当にありえないことだと思います」。失点に絡んでしまったキャプテンのMF佐藤春斗(3年)はそう言って、唇を噛み締める。

 30分に喫した2失点目も、降りしきる雨の影響もあってか、普段では考えられないようなGKのファンブルによるもの。「失点した時に監督からは『雰囲気に飲まれないでやる』ということは言われていたんですけど、そこからもう1失点したのは自分たちの甘いところが出たかなと思います」と話すのは10番を背負うMF安場壮志朗(3年)。2点のビハインドを背負って、後半へ折り返す。

「いらない時間帯のミスはあったにしても、後半は全員が目は死んでいなかったので、『ここから行くぞ』と」(佐藤輝勝監督)。後半の入りは最高だった。3分。セットプレーの流れから、投入されたばかりのMF布施克真(2年)が1点を返す。だが、明秀日立は強かった。8分には右サイドを完全に崩されて3失点目。「その1点が痛くて、自分もちょっと心が折れてしまったところがありました」とは安場。以降もボールは握りながらも、決定機は創出できないまま、タイムアップの笛を聞く。

 ファイナルスコアは1-3。「点を獲った時こそもうちょっと落ち着いて、自分たちの土俵に持っていければ良かったですね。相手の土俵に付き合ったわけではないんですけど、どうしても持っていかれてしまって3点目と。ゲームを難しくしてしまったなと思います」(佐藤監督)。自分たちの流れを引き寄せ切れないまま、決勝目前で涙を飲む結果となった。

 日大藤沢の選手たちがより悔しさを募らせたのは、同じ神奈川県勢の桐光学園高(神奈川1)がファイナルへと勝ち上がっていたからだ。

「桐光は自分たちも絶対に負けてはいけない相手で、その桐光が決勝に上がったというのを聞いて、一番に悔しいという想いが強かったです。インターハイの神奈川の決勝でも負けていますし、ここから自分たちが死に物狂いでやらなきゃ勝てないと思うので、夏もみんなで乗り越えて、もっと強くなっていきたいです」(安場)「準決勝の前から意識はしていたんですけど、桐光は上手いだけではなくて強いチームで、同じ神奈川として絶対に負けられないので、ここから選手権までにもっともっと戦えるチームにしたいです」(佐藤)。2人の想いをチーム全員も共有していることは、あえて言うまでもないだろう。

「歴代でも上手い選手の揃っている代」と今年のチームを評価する佐藤監督は、だからこそこの大会で突き付けられた課題を、こう語っている。「県予選では握る時間の方が長かったですけど、全国大会ではそんな時間はくれなかったですね。自分たちが動かす時間も少ない中で、相手のボールを自分たちのボールにするには、一体感を持ってボールを拾い切る、やり切るというところを今回は凄く学べましたし、それができれば自分たちの土俵に持って行けることはわかったと思います。ボールは握れますし、上手い選手が多いので、今までそれはわからなかったと思うんですね。ただ、それがイコール良いサッカーではないですし、『点を獲ること』と『ボールを奪うこと』という両方の魅力を今回感じたことが、チームの成長に繋がると思うので、そこはもう1回求めたいですね」。

 それは選手も実感している。「上手いだけじゃ勝てないということを感じたので、1個のパスや1個のシュートを徹底してやっていかないと強いチームにはならないと思いますし、そこをここから頑張っていきたいなと思います」(安場)「守備のところは監督にいつも言われているんですけど、上手いだけじゃなくて、戦える強いチームにというところの成長は見られたところもあるので、プラスのところにも目を向けながらチームとして良くしていきたいです」(佐藤)。

 それでも、やりたいことの軸は変わらない。佐藤監督は力強く言い切っている。「中に差し込んで、加わっていって、リスクも含めて飛び出していく、飛び込んでいくということ、魅力的に中から崩すことが、我々が目指しているサッカーなので、今回は全国大会でもライバルである神奈川のチームが決勝へ残っていた中で、神奈川をもう1回突破するには、もっとこだわって、信念を持って、剥がしていく、崩していくという自分たちのサッカーを続けていきたいなと思いますね」。

 もちろん課題に目を向けないわけではない。それでも、貫く信念がそれをも凌駕すれば、自ずと望んだ結果が付いてくると信じている。『ファッションは一瞬。スタイルは永遠』。日大藤沢が追い求めるスタイルは、いつだって変わらない。

日大藤沢高の10番を背負うMF安場壮志朗は中盤で奮闘した


(取材・文 土屋雅史)
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