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相手FWとの攻防、PK戦でも超えた“壁”。明秀日立CB山本凌が「日本一の高校のキャプテン」に

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明秀日立高のキャプテン、DF山本凌主将(3年=FC.フェルボール愛知出身、右)と部長のDF若田部礼(3年=ウイングスサッカークラブ出身)

[8.4 インハイ決勝 桐光学園高 2-2(PK6-7)明秀日立高 花咲スポーツ公園陸上競技場]

 2-2で突入したPK戦はともに5人目まで成功。6人目、先攻の明秀日立高(茨城)はそれまでチームを支えてきたCB山本凌主将(3年=FC.フェルボール愛知出身)がキッカーとして ペナルティマークへ向かう。その背中に萬場努監督からの声が届く。

「山本、強気でやれよ!」

 明秀日立は1人目のMF吉田裕哉(3年)からCB飯田朝陽(3年)、MF大原大和(3年)、右SB長谷川幸蔵(3年)、FW根岸隼(3年)、山本、左SB阿部巧実(2年)と計7人がキッカーを務めたが、その中で萬場監督は懸念のある山本にだけ声をかけた。

 山本は茨城県予選準々決勝の鹿島学園高戦でPKを失敗。大会2週間前に桐光学園高(神奈川)と行ったPK戦でも止められていた。桐光学園とPK戦で日本一を争うこととなったこの日、告げられた山本の順番はこれまでの2番目ではなく6番目。それでも、「(桐光学園もキックが上手いため、)自分に回ってくると考えていた。(緊張するのではなく、)ほどよい緊張で楽しもうと」とGKと向き合う。

 そして、主将は「監督から『強気で行け』と言われている。強いシュートを打とうと。(桐光学園のGK相手に)嫌な印象はありました。その時、左に蹴って外していたので、相手も多分自信持って左へ跳んできた。だから、真ん中へ蹴った」と中央へ蹴り込み、「ヨッシャー」と両手を突き上げた。

 その後、相手の7人目をGK重松陽(2年)が止めて決着。山本は「自分がキャプテンで全国に行くというのも初めてでしたし、日本一になるということも滅多にできない経験なので、良かったです。少しでも『日本一の高校のキャプテンは山本なんだ』と色々な人に知ってもらえたかなと思います」と笑顔を見せた。

 今大会、対戦相手の強力アタッカーを止めてきた山本だが、決勝は桐光学園FW宮下拓弥(3年)の競り合いの上手さに苦戦。空中戦で後手を踏み、入れ替わられるシーンもあった。試合中、味方FW熊崎瑛太(3年)から「オマエがブレたらダメだろう」と厳しい指摘も。だが、「後半になってから相手も跳べなくなったりしていた。そこでも跳べるのは自分の強み。声は勝手に出てしまう(微笑)」という山本は奮起し、後半終盤、延長戦と声を張り上げながらの豪快なヘッドでその攻撃を跳ね返していた。

 決勝戦の計90分間、PK戦でもあった“壁”を超えて日本一。山本にとってインターハイは自身の評価も高めるような6試合だった。フィジカル能力の高さを活かし、青森山田高などの強力FWとの競り合いで勝利。絶妙なカバーリングも光った。また、攻撃面でも的確な判断でドリブル、パスを繰り出し、ボールを前進。部長のCB若田部礼(3年)と中心になってチームを引っ張ってきたリーダーは、日本一の立場となっても、前から行く戦い方を変えるつもりはない。

「この全国大会は自分たちが全ての試合でチャレンジャーという形で入ったんですけれども、今回優勝して周りのチームが全て向かってくると思う。そこで自分たちが待ち構えるんじゃなくて、自分たちの良さである『前から強く行く』というところで制していければと思っています」。個人、チームで成長を継続。リーグ戦、トーナメント戦で立ち向かってくる相手に前から向かい続け、全てを超える。

(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校総体2023
吉田太郎
Text by 吉田太郎

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