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明秀日立が茨城県勢44年ぶりのインハイ制覇。「選手たちを一番に考える」ことを意識し、寄り添うことで変化

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明秀日立高イレブンが萬場努監督を胴上げ

[8.4 インハイ決勝 桐光学園高 2-2(PK6-7)明秀日立高 花咲スポーツ公園陸上競技場]

「まだまだ課題があるな、というふうに……」。明秀日立高(茨城)の萬場努監督は優勝直後の取材対応で、頂点に立って気づいたことから語り始めた。

「高揚感はもちろんありましたし、今大会に関してはウチのチームの努力がそれに見合った結果になったかなと素直に嬉しいと思いますけれども、まだまだサッカー選手として積み上げなければいけないということは今日の試合でより明確になって、頑張る姿勢は十分だと思いますけれども、質にこだわっていかないといけないということは6試合やって気づかせてもらったと思います」。

 セットプレーでの失点やミスもあった。35分ハーフだったからこそ、露呈しなかった課題もある。今回のインターハイでチームが成長したことは間違いない。優勝した喜びもあるが、これがゴールではない。大会期間中、劇的な勝利の後も先を見据えていた指揮官は、日本一となった直後も、彼らがサッカー選手として成長する上で必要なことをまず発していた。

 明秀日立は萬場監督が指導をスタートしてから6年目の12年インターハイで全国大会初出場。17年度の選手権では星稜高(石川)や大阪桐蔭高(大阪)を破り、初の8強入りを果たしている。その年から3年連続で選手権出場。だが、20年度から3年連続で選手権切符を逃し、今年を迎えていた。

 結果が出ない中、指揮官は感じたことがあるという。「(結果が出ていた時期も出ていない時期も)やってきたことはそんなに変わらないですし、間違ってはいないと思うんですけれども、サッカーに打ち込む環境って、彼らの人生を扱っていることと一緒だと思うので、そこに対して、寄り添う姿勢が足りなかったかなと私としては感じています」。選手に対し、明秀日立のやり方への順応を求めてしまうところが強かったと自己分析。現在、指導者養成にも携わる中で、意識し始めたことがある。

「『選手たちを一番に考える』ということが校内外で自分の中で意識し始めたから、劇的にチームが変わってきた印象があるので、やはり、人の人生を預かる責任の重さは今でもそうですけれども教育に携わる上では絶対に必要だと思っています」。今春、チーム内で問題があったこともあり、萬場監督は選手たちがサッカーに集中する環境を作るまで約1か月もの間、技術指導を中止。その間、コーチ陣と選手が向き合って、会話を重ねたことがチームにとって「大きな時間になった」。

 選手たちが「サッカーが当たり前のようにできる環境は自分たちで作らないといけない」と感じ、支えてくれている「誰かのために」必死になってプレー。その姿勢は県予選から全国大会決勝まで続き、歴史を変えるきっかけの一つになった。

 試合中、明秀日立ベンチの落ち着きも印象的だった。萬場監督は椅子にどっしりと座り、教え子でもある伊藤真輝コーチがベンチ前に出て指示。以前は萬場監督が全てを意思決定し、ベンチ前に出て指示を送っていた。

 だが、萬場監督が不在だった県予選準々決勝・鹿島学園高戦で伊藤コーチが指揮を執って勝利。以降は大一番を乗り切り、良い流れを生み出した伊藤コーチが先頭に立ち、萬場監督は後方からアドバイスする形を取った。「後ろに引くことで見える量が圧倒的に増えた」(マ萬場監督)。前で戦ってくれる伊藤コーチに対し、自身の経験も踏まえて不足点をアドバイス。今大会は大塚義典GKコーチを含めた3人体勢での戦いだったが、「日常から話しているので手応えはあります」。一人で抱え込みがちだった責任を共有。コーチ陣の補完する関係性もチームを好転させたようだ。

 今大会は優勝候補と目された静岡学園高(静岡)、青森山田高(青森)に自分たちの強みである強さで真っ向から挑み、戦いの中で見つけた勝機を逃さずに白星。劇的な勝利の後で難しかった関西大一高(大阪)戦、高知高(高知)戦も集中した戦いで乗り越えた。そして、いずれも力のある日大藤沢高(神奈川2)、桐光学園高(神奈川1)に勝ち切り、初優勝。茨城県勢にとっても44年ぶりの快挙だ。

 地元の支え、応援も力に。「注目してもらえているのはこっちにも伝わっていますし、(日立市のある)県北地域のサッカーを盛んにしていきたいというのはずっと高校生のカテゴリーだけじゃなく思っているので、そういう意味では良いニュースが届いて、サッカーをもっと普及して、地元の子が活躍するチームにしていきたいと思っているので、地域の方々が喜んでくれているのは、これをきっかけにもっと広げていきたいと思っています」。選手育成も、チーム強化もまだまだもこれから。新王者・明秀日立は生徒たち、地元と寄り添いながらこれからも前へ歩み続けていく。

大塚義典GKコーチが宙を舞う

伊藤真輝コーチも歓喜の胴上げ

左から萬場努監督、伊藤真輝コーチ、大塚義典GKコーチ

(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校総体2023
吉田太郎
Text by 吉田太郎

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